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踊り場の死闘! 賭けるより駆けよ! その2

「ふう……あぶなかった」


 俺は壁から地面に降りる。

 ここは館の外、地下倉庫の前だ。

 位置的には踊り場の壁を隔てた反対側ということになる。


 上がバルコニーだ。


 ボマーの爆発を最後に四ウェーブも終わったようだ。

 銃声もゾンビの呻き声も聞こえてこない。

 館の中も静かな様子――


「てんちょぉー! どこっスか!? ああぁー!」


 トウコも無事のようだ。


「トウコ! 俺は無事だ! いまそっちへ行く!」

「店長!?」


 通路を通り館の中へ戻り、トウコの元へたどり着く。


「ああ、店長ぉ! 無事だったんスねー。また、あたしのせいでやられちゃったかと思ったっス……」


 俺の姿を見て、トウコはその場にへたり込む。

 安心したような、気の抜けたような表情だ。


「俺は大丈夫だ。トウコはケガないか?」

「あたしは大丈夫っス。あれ? 店長二号はどこっスか?」


 トウコはきょろきょろと自律分身の姿を探している。


「ヤツも大丈夫だ。ボマーにやられる前――潰される前に解除した」

「解除……っスか?」


 分身は俺の意思で術を解除――消すことができる。


「死なないように消したってことだ。ヤツが死ぬと俺もヤバイからな」

「二号が死ぬと店長もヤバイんスか……?」


 トウコは首をかしげる。


「前に自律分身の弱点について説明しただろう? 自律分身の記憶や意識は俺にフィードバックされるんだ」

「あー。聞いたっスねえ」


 聞いてたか? ほんとぉ?


「自律分身がボマーにヤられたら、その衝撃や痛み(ダメージ)の記憶が、その場で俺に還元(フィードバック)される。そうなったら、俺は動けなくなる。ボマーの爆風に巻き込まれて死んでいただろう」

「ふむふむー」


 トウコは真剣な表情でうなずいている。

 なんとなく不真面目感も(ただよ)っているが、まあいい。


「便利なだけじゃなくて弱点でもある。かわりに、自律分身の記憶……俺が知らないことを体験できる」

「ああ、なんか聞いたような気もするっス。店長二号の痛みは店長の痛みってことっスよね!」

「自律分身は俺自身みたいなものだ。痛みだって引き受けなきゃな。経験値とかもちょっと入るしな」


「じゃ、経験値二倍っスね!」

「二倍にはなんないけどな。記憶も薄れるし、経験値も全部じゃない。一部は消えちゃうというか、伝わらないんだな」


 ちょっともったいない。

 だけど、記憶が全部流れてきたら俺の頭がパンクしてしまう。


 意識のフィードバックが起きるのは【意識共有】というスキルのおかげだ。

 だが、このスキルはレベルをあげたくないんだよな。


 共有……還元される経験値や記憶の量が増えるのは負担が大きい。



「まあそんな感じだ。とにかく、四ウェーブは無事に乗り切ったようだな」

「そっスねー。チョット休憩してもいいっスか?」


「ああ、少し休んでろ。俺もちょっと瞑想する」

瞑想(めいそう)?」


「ちょっと、静かに休憩な。俺も疲れた」

「リョーカイっス!」


 ぜんぜん静かじゃなくトウコが返事を返す。



 トウコの横で瞑想しながら、さっきまでのことを整理する。

 自律分身を解除したときのこと、とっさに記憶のフィードバックを(おさ)えたことを考える。


 俺の意思で自律分身を解除した場合は、ある程度コントロールできる。

 記憶は受け取りつつ、読み取りは後回しにしたんだ。

 ……慣れてきたかな。


 これまで、意識のフィードバックで強い衝撃(ダメージ)を受けたことは何度かある。

 ――宝箱の閃光と轟音の罠でピンチの中、ゴブリン達にボコられたとき。

 ――ストーカー事件でオトナシさんの無事を確認できないまま消えて行ったとき。


 いずれも俺の意思で解除して消えたのではない。

 どちらも意図せず、制御できずに消えたり倒されたりしたときだ。

 自律分身が消える準備――納得できていないときに起こっている。


 自律分身は、消える前に記憶を整理する。

 優先順位の高い情報を伝え、いらない情報を伝えないようにしてくれる。

 急に死んだり、動揺しているとそれができない。


 今回は戦闘中とはいえ、効果が消える前だったので整理を始めていただろう。

 終活(しゅうかつ)的な感じ。引継ぎ準備って感じか。


 さっきの戦いでボマーに潰される直前、自律分身は俺が解除する(消す)とわかっていた。

 これまでの戦いの中で幾度も、俺と自律分身は言葉を交わさずとも連携がなされている。

 自律分身はさっきまでの俺を分けた身だ。俺自身だ。

 以心伝心(いしんでんしん)というやつだ。


 だから解除したとき、自律分身も納得した。

 圧死したり爆死したりはしたくない。

 俺ならそう思う。自律分身も同じように考える。


 ……今回もギリギリだったな。

 解除、間に合ってよかった……。


 さて、記憶のフィードバックは抑えただけだ。

 俺のところへ届いてはいる。


 荷物だとすれば、受け取り拒否したのではなく、手元に届いて開封していない状態だ。

 その大事な荷物を開封しなきゃな。


 慎重にその記憶を読み取り、自分の中に流し込んでいく。


 ――フィードバックが流れてくる。

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