【回避】は火力スキルです! アクロバット戦闘術!
一階左側の扉から来る敵は倒した。
あとは分身が釣りだしてきた中庭側の敵を片付けなければ。
ゾンビの群れを引きつけている分身をこちらへ向かわせる。
それと同時に俺自身も館の玄関側へ移動する。
トウコたちのいる階段から距離を取るためだ。
――そこで、頭の中に天の声が響く。
<経験が一定値に達しました。レベルが上がりました!>
<レベル 12→13>
「おお、ついに上がったか! ハードな戦いの甲斐があるな!」
レベルは前回デスペナルティで失った分を取り戻した。
もうちょっと経験値を稼いで、余裕を持っておきたい。
――さいわい、敵は予約済だ。
ちょっと息を整えたら次の戦いが待っている。
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【回避】 1→2>
「【回避】の熟練度も貯まったか。今回は前に出て戦ってるからな!」
【回避】とは長い付き合いだ。
ずっと頼りにしてきた。
だけど、熟練度が貯まるのは遅かった。
もっと早く成長してもいいはず。
たぶん、俺は被弾をせずに戦うことが多いせいだ。
飛び道具や【隠密】のおかげだな。
安全に戦っていては伸びないスキルもあるってこと。
いつもと違って、ここでは近距離での戦いを強いられている。
武器――忍具がないことで、より近い距離での戦いになる。
防具――ワイヤーや金属、革で補強した忍び装束や手甲による保護もない。
だから回避する機会が多かった。
余裕のない戦いだからこそ【回避】が生きてくる。
「さっそく【回避】を試してみるか!」
敵を釣りだしてきた分身と、トドメ係をさせていた分身を左右に散らせる。
敵は散らばって分身を追いかける。
俺はその中で孤立した敵へと近づいていく。
「おい! こっちだ!」
「シャアアッ!」
俺の発した声にランナーが反応する。
耳障りな声をあげながら、こちらへ向かって来る。
冷静に見極めれば、その動きは遅い。
たしかにランナーはウォーカーよりも動きが速い。
だが、勢いで動いているだけの素人……ゾンビにすぎない。
動きだけ見れば俺のダンジョン六階層のゴブリンにも劣る。
ゴブリンは足りないなりに頭を使うし、武器を扱う技術も持っている。
「ガアッ!」
ランナーが掴みかかろうと腕をくりだしてきた。
突き出した腕に対して【回避】が安全な場所を示してくれる。
これは感覚的なものだ。
スキルレベルが上がったことで、より精度が高まったようだ。
これまでよりもハッキリとそれを感じる。
より絞った範囲で安全圏がわかるのだ。
小さな動きで身を躱すことができるようになった。
「――見える!」
攻撃の軌道を見切る。
ランナーの腕を最小限の動作で外側に払いのける。
その動作のまま、流れるように腕を伸ばして顎を打つ。
これでゾンビの動きが止まる。
――まだ、俺は止まらない。
手首を鎌のように返す。
ゾンビの首へと手をかけて、刈り取るように足元へと叩きつける。
倒れこんだゾンビを踏みつけ、トドメを刺す。
――背後から、イヤな気配を感じる。
【危険察知】の知らせだ。
顔をめぐらせて背後を確認する。
ウォーカーが迫っている。
視認したことで【回避】が攻撃の軌道を知らせてくれる。
【回避】は俺自身が相手の攻撃を知覚していなければならない。
【危険察知】はもっとあいまいな危険を報せてくれる。
なにかヤバい! という感じだ。
この二つの組み合わせで、回避行動を取ることができる。
俺は素早く振り向き、ゾンビの攻撃軌道からズレるように足を運ぶ。
振り返る勢いを使って裏拳を放つ。
打撃力ではなく、吹き飛ばす打ち方だ。
ゾンビの側頭部へ命中した裏拳の衝撃によって、ゾンビが倒れる。
そのままゾンビの頭部を足で踏みつけ粉砕する。
二体のゾンビが向かってくる。
目前に迫った左のゾンビに向けて、距離を詰める。
腰から抜いたナイフですれ違いざまに喉を切り裂く。
返す手で後頭部へナイフを突き刺す。
さらにナイフを押し込んで、ゾンビを塵に変える。
右のゾンビは、俺の動きを追うようにこちらを振り向いたところだ。
ゾンビの頭部を両手で抱え、顔面に膝蹴りを打ち込む。
そのまま首をひねり、頚椎を砕き塵へと変える。
「よしっ! 次!」
敵を引きつけている分身の一体が囲まれて逃げ場を失っている。
分身救出のために走る俺の前にゾンビの一体が立ちふさがる。
勢いを落とさずに床を踏み切って、ゾンビめがけて前に飛ぶ。
ゾンビ跳び箱だ!
ハンドスプリングの要領で、ゾンビを両手ではたくようにして、高く跳びあがる。
跳び箱にしたゾンビはべちゃりと頭から床に叩きつけられる。
続けて前方のゾンビの頭上から空中踵落としを食らわせ、着地する。
十分な加速と体重を乗せた一撃は、ゾンビを塵に変える。
ほかのゾンビは分身に気を取られ、俺の接近には気づいていない。
手近なゾンビに背後から忍び寄り、後頭部へナイフを突きこむ。
【暗殺】【致命の一撃】が乗って、一撃で塵に変える。
魔石を空中でつかみ取り、次のゾンビを暗殺していく。
背を向けている敵を倒すのは簡単だ。
一体のゾンビが俺に気付いて振り返ろうとする。
その動きは鈍く、俺は素早い。
振り返る前にナイフを側頭部へ叩きこみ、そのまま振りぬく。
脳漿をまき散らせ、ゾンビが塵となる。
これで、分身の周囲から敵が消えた。
もう一方の分身の周りには数体のゾンビが残っている。
分身に攻撃を指示する。
二体の分身と俺で、そいつらを処理する。
「一階側の敵は始末したな。増援はなし、と。回避のおかげで戦闘が楽になったぜ!」
【回避】はただ攻撃を避けるだけでなく、攻撃の幅も増やしてくれた。
忍者にとっては基本であり、応用の利く技術だ。
近距離格闘もなかなか楽しいな!
こっちの敵は片付いた。
二階側から攻め寄せてくる敵と戦っているトウコたちの様子は――
――トウコが叫んでいる。
「やばっ! ボマーっス!」
あっちもなんとかしないとな!
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