モノリスに触れてみた結果がコレ……!
やってみなければわからないこともある。
モノリスは不気味に直立している。
長方形の一枚板は、前回と変化はない。
艶のない黒色は、不安な気持ちをあおる。
高さ2メートルほどの一枚板は、妙な圧迫感を俺に与えている。
俺の頬を汗が伝う。
何かあれば、いつでも動ける態勢を取る。
意を決して、その表面へ手を伸ばす。
「よし……。どうなるか……?」
俺の手がモノリスの表面に触れる。
……よかった。爆発はしない。
まだ俺の幸運は残されているようだ。
触ってみた感じ、硬い材質だ。
普通の石や金属のようでもある。
石のようなざらつきはない。
つるつるとしていてガラスに近いかもしれない。
不思議と、温度は感じられない。
冷たいとか熱いとかいうことがない。
洞窟の中は少し涼しく感じられる温度になっている。
そのせいか、洞窟の壁は触るとひんやりしている。
だが、モノリスからは温度を感じない。
どういう材質なんだ……?
しかし、触っても何も起こらな――
『魔石を投入してください』
「うおっ!」
――頭の中に、声が響いた。
俺はとっさに、飛び退って離れる。
腰が引けてるとか言うなし。
声は、レベルアップの時に聞こえるシステム音声に近い。
「頭の中に声……慣れないなコレ」
音声とともに、モノリスの表面に文字が浮かび上がる。
その文字は……読める。
日本語だ。
声と同じ内容が文字でも表示されている。
「魔石を投入……これは、当たりだ!」
WEBサイト「リアル・ダンジョン攻略記」に書いてあった内容を信じるなら、これはアイテムの交換機能を持ったモノリスということになる。
しかし、魔石を投入?
どうやるんだ?
穴やくぼみなど、それらしい投入口は見当たらない。
とりあえず、ゴブリンの魔石を置いてみるか。
「上に置けばいいのか?」
手を伸ばして、モノリスの上にのせる。
「お……吸い込まれていく」
魔石がモノリスに触れると、水面に沈むかのように吸い込まれていく。
黒い表面に水面のような波紋が浮かんで、魔石はモノリスの中に取り込まれてしまう。
手で触れたときは硬い感覚があったのに、まるで液体みたいだ。
魔石を乗せた後、俺は距離を取っている。
ないとは思うが、身体が引き込まれたら怖い。
『交換したいアイテムを選択してください』
声が響くとともに、選択できるアイテムの一覧が文字としてモノリスの表面に浮かび上がる。
「これは……。もう間違いない! あのWEBサイトに書かれてたアイテムの交換機能だ!」
やはり、あのサイトは正しいのかもしれない。
このダンジョンに近いものなのか……?
つまり……ダンジョンを知る者が公開しているんだろうか。
いったい何のために……。
しかし、これは大当たりだ。
俺にとっては朗報だ。
貯まるばかりだった魔石の使い道ができた!
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ゴブリンの魔石:1
1 :ゴブリンの牙、ゴブリンの肉
5 :ゴブリンの棍棒、ゴブリンの腰ミノ、汎用ポイント1
10:ゴブリンのナイフ、薬草
汎用ポイント:0
5 :水
5 :食料
10:さらなるリストの解放
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「商品のラインナップは……ショボめだな。しょせんゴブリンか」
ゴブリンの魔石が1、汎用ポイントが0の表示だ。
それぞれで交換できるアイテムが違っている。
「1ポイントで引き換えられるのはゴブリンの牙……肉? 要らんだろ。もっと魔石を追加してみるか」
一階で間引いたゴブリンの魔石をモノリスの上に乗せる。
先ほどと同じようにモノリスの中に魔石が吸い込まれていく。
ためしに上でなく側面に押し付けても、結果は同じだった。
上に置いたら沈み込んでいくのはわかるんだが、横にくっつけた魔石が横向きに沈んでいく様は違和感があるな。
引き込まれていくという感じ。
見慣れないものを見て脳が混乱する。
ちょっと原理はわからない。
そういうものだと思うしかないだろう。
ファンタジー物体として、検証は諦める。
調べる手段がないから、しょうがない。
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ゴブリンの魔石:13
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モノリスの表示が変わる。
魔石を入れた分だけ、表示が増える。
ちゃんとカウントされるみたいだ。
魔石はそれぞれ多少形やサイズが違ったりしているが、単に個数でカウントされている。
魔石の大きさや質にはほとんど違いがないのかもしれない。
ゴブリンの個体差なんて無視できる程度ってことだろうか。
「汎用ポイントに替えるのも気になるが……今交換するとしたらナイフだな。……ポチっと」
モノリスに表示されている「ゴブリンのナイフ」の文字に指で触れる。
タッチパネルのように反応してくれるかはわからないが……。
「お、変化してきたぞ」
モノリスの表面が水面のように波打ち、その向こうにナイフが現れる。
水の中に沈んでいるように、少しゆらゆらと揺れている。
ゴブリンの魔石の表示が3に変わる。
音声と文字で、交換完了が告げられる。
『交換が完了しました』
モノリスの中、ナイフはゆらゆらと揺れている。
モノリスの中、である。
外に排出されてきてはいない。
黒いモノリスの中にあるのに、透明になったかのようにナイフは見えている。
「これは、手を突っ込んで取り出すのか? ちょっと嫌だな……」
ここまで来ては、やるしかない。
警戒しながらモノリスの表面に触れる。
と、抵抗なくするりと表面を突き抜ける。
普通の水に手を突っ込んだ時のような抵抗感はない。
そしてやはり、温度はない。
空気中と変わらないような感覚だ。
俺の手がナイフをつかむ。
引き抜くときも抵抗はなく、手を引き抜くことができた。
手の中にはナイフがある。
小石をぶつけたときも、ゴブリンをぶつけたときも硬い材質だったのに。
どうなってんだ。不思議だ。
SFだ。すごく、ファンタジーだ。
「おお……変な感覚。しかしアイテムは引き換えることが出来たな。ナイフか」
やや小ぶりなナイフだ。包丁よりも短い。
金属の刃は鋭い。
ろうそくの灯を受けて、鈍い光を放っている。
汚れたりサビたりはしておらず、状態はいい。
ゴブリンって製鉄技術とか持ってなさそうなのにな。
不思議だ。
「手に持って使うには小さいが……投げるならいいか」
待望の刃物ではあるが、これを使うくらいなら包丁買ってきたほうがましだ。
でも包丁は投げるにはもったいない。
買うとまあまあ高いんだ。
これは投げナイフとして使うことにしよう。
同じポイントで「薬草」も選べたけど、ダンジョン内の食べ物を食べる勇気はない。
回復薬のような効果があるのだとしたら試してみたいが、ちょっと怖い。
いや、ちょっとじゃないな。かなり怖い。
ぜったい腹を壊す。
汎用ポイントで引き換えられるなかに、水や食料がある。
これだって食べたくはない。
汎用ポイントはゴブリンの魔石を5払えば1ポイントに替えることができるということだろう。
汎用ポイントで水や食料が引き換えられるってことは、食べることを想定しているみたいだな。
水や食料は汎用ポイント5である。
つまりゴブリン25匹で水ひとつか。
量にもよるが、ゴブリンの価値低いな!
だが、これを引き換えるのは今はできない。
ポイントがあるとしてもおあずけだ。
ダンジョン内の食べ物は食べても平気なのか、という問題。
これは結構大きな問題だ。
ダンジョンの中で食料が手に入るかどうか。
今はプロテインバーやゼリー飲料を持ち込んで食べている。
長期的にダンジョンに潜るとなると荷物がかさばってしまうだろう。
ダンジョン内で食料が得られるなら、飢え死に渇き死にの心配はせずにすむ。
ダンジョンの物品は持ち出せないことがすでに分かっている。
薬草にしても、食べ物にしても、それを体に取り入れるのは不安だ。
食べて体に取り入れたら、自分の体がダンジョンの物品のような扱いになってしまうかもしれない。
食べられるけど、食べたら外へ出られなくなるというのが一番困る。
こればっかりは試して失敗したら取り返しがつかない。
ああ、そうだ。
これを例のWEBサイトの掲示板で質問してみるか。
答えが返ってきたとして信じていいかわからないけど、アイテム交換機能はサイトに書いてあった通りだしな。
別に空振りになったからって損はない。
とりあえず、これで貯まる一方だった魔石に使い道ができた。
ゴブリンの素材は興味がないから、汎用ポイント行きだろうな。
コウモリの魔石を入れたら、コウモリの素材が引き換えられるんだろうか。
リストの解放というのも気になる。
がぜん、やる気が出てきたね。
予想通りだった! という方。よろしければブクマ・評価をおねがいします!
■追記修正履歴
「ゴブリンの皮」を商品リストから削除。




