それでもゾンビは回っている!
「アアアァ!」
「おっと!」
ゾンビが伸ばした腕をかいくぐり、足を払う。
受け身も取れず、ゾンビが床に叩きつけられる。
……ゾンビが受け身なんか取ったら驚くけど。
「ウアッ!」
低い体勢になっている俺に覆いかぶさるように別のゾンビが迫る。
俺はかがみこむようにして、さらに姿勢を低くする。
ゾンビは俺をつかもうと、さらに下を向く。
その指が俺の背中をつかむ前に、足を担ぐように動く。
重心が前に傾いたゾンビを背中で転がすようにして反対側へ。
ゾンビは顔面から地面に激突する。
そのまま足から手を離さず、両手で掴みなおす。
「うおおりゃあっ!」
そうして、両足を掴んで水平方向に振り回す。
プロレスの大技――ジャイアントスイングだ。
ただし変則。うつ伏せ状態――逆ジャイアントスイングだ。
わざと持ち上げずに、地面にこすり付けるように回転させる。
床でゾンビの顔面がけずり取られる。
そのまま近づいてくるゾンビにぶち当てる。
あてられたゾンビは吹き飛ぶように倒れる。
俺はそれほど力を使っていない。
ジャイアントスイングはパワーで行う技ではない。
体重移動や重心――テクニックで行うものだ。
つまり、俺の得意分野。
ぐるぐると回せば相手の平衡感覚は奪われる。
だが、ゾンビには意味が薄い。何回転もする必要はない。
自分の目を回してもしょうがないからな。
「だっしゃあ!」
手を放し、ゾンビがかたまっているあたりに投げ込む。
ボウリングのピンのようにゾンビがなぎ倒される。
膝が砕けたり、のしかかられたゾンビたちは倒れて呻くばかりだ。
「――判断分身! 頭部を破壊しろッ!」
【判断分身の術】を発動する。
――近くの倒れたゾンビの頭部を破壊する。
――攻撃されたら敵の少ない方向へ回避する。
分身がゾンビにトドメを入れていく間に、俺は次の敵に意識を向ける。
「シャアアッ!」
壊れた扉から、さらにランナーが現れる。
ウォーカーも足を引きずりながら迫っている。
四ウェーブは、さすがに数が多いぜ。
「――シャアァ!」
二階へ向かう階段の下、中庭へ向かう通路からランナーの威嚇音が聞こえてくる。
ちらりと目の端で確認する。あっちからも来る。
「こっちだ! 来いッ!」
俺は大声を上げ、腕を伸ばして手をクイクイと動かす。
今はあえて忍ばない。
ゾンビたちを俺のもとに集めたい。
階段で戦うトウコたちのほうに向かわないようにするのだ。
中庭側から現れたランナーがこちらを向く。
そこに、銃声が連続して響く。
これは、一階に向けた銃撃ではない。
あちらも交戦中だ。
二階から迫る敵を迎え撃っている。
数の暴力の前にぎりぎりの戦いをしているようだ。
「アアッ」
その銃声に反応してランナーが階段踊り場のトウコのほうへ振り向く。
釣られてもらっては困る。
「おい、そっちじゃないぞ!」
俺は新たに判断分身を生み出す。
中庭側に出現させた分身が大きく手を振りながら手を叩く。
鬼さんこちら。手の鳴るほうへ――ってやつだ。
あとに続くゾンビの群れを、まとめてこちらへ誘導する。
音だけなら銃声のほうが大きい。
だからこちらは視覚にも訴えかけていく。
大きな体の動き、距離の近さで注意をひく。
ゾンビたちが釣り出され、集まってくる。
これも俺の役割だ。
敵を引きつける。位置取りを意識する。
敵をコントロールするんだ。
リンと回避盾としての立ち回りを分担したことが生きている。
ただ、前に出て動き回ればいいんじゃない。
俺は回避盾だ。純粋な攻撃役じゃない。
だが今は火力も担当しなきゃならない。
自分の戦いだけでは足りないんだ。
「ガアッ!」
「うおっと!」
近くのランナーが俺につかみかかる。
判断分身への操作に意識を割いていた俺は反応が一瞬遅れる。
ぎりぎりのところで【回避】が示す安全圏、後方へ飛び退る。
ランナーの腕は空をきる。
――だが、攻撃はそこで終わりではなかった。
さらに一歩、無茶な体勢のままに床を蹴ったランナーが大口を開けて俺へと迫る。
「んなろっ!」
俺はその頭を手で押さえ、さらに顎に手をかける。
そのまま跳びあがって横方向に回転する。
ゴキゴキと骨を砕く手ごたえを感じる。
手を離して着地する。
首の折れたランナーが崩れ落ちる。
「……いい感じに決まったな!」
自画自賛!
忍者っぽさも破壊力も抜群だ。
ちょっと、これ練習したい!
人間相手には練習できないし、ゴブリンだと体格が小さすぎる。
「ん、塵にならないな。もしかしてコイツがタフなゾンビか……?」
前に首をへし折ったゾンビは塵になった。
コイツはまだ塵になっていない。つまり死んでいない。
四ウェーブから現れるタフなゾンビか。
まあ、首の骨が折れているから、動けずに唸っているだけだ。
動けないなら害はない。
だが、ここでは死んでいない敵が不幸の種になる。
死体すらも有害だ。
「塵になったゾンビだけがいいゾンビだ!」
俺はブーツの底で倒れたゾンビを塵に変えた。
ジャイアントスイングは実用性に乏しい説もある。
相手が人間でちゃんと動ければ、抵抗されてしまう。
人間に試すと大ケガをするのでやめよう!(当たり前)
ゾンビで練習しよう!(ムリ)




