三周目第四ウェーブ! もっと光を!
「四ウェーブは引き続きこのエントランスホールで迎え撃つぞ!」と俺。
「おう。ここは月明りで明るいから戦いやすいしな」と自律分身。
「リョーカイっス!」
俺は少しでも光があれば【暗視】で戦える。
自律分身にはスキルがないので、明かりが必要だ。
トウコは広い場所のほうが銃という遠距離武器の力を発揮できるだろう。
あと、できることはあったかな?
いろいろと考えてはみたが、最善の行動を取り続けることは難しい。
「店長、どうしたっスか?」
「いや、なにか準備すること、見落としがないかと思ってな。トウコはなにか気づいたことあるか?」
「んー。そうっスねえ。さっき店長二号が言ってた明るさの話っスけど……」
「明るさ?」と自律分身。
「前回、地下倉庫でネズミがたくさんわいたっスよね?」
「ああ、トウコの言う通りネズミはやばかったな……」
思い出してもぞっとする。
床を埋め尽くすネズミが蠢くさま……体を食いちぎられる痛み。
トウコが腕をぐっと胸の前で握りながら言う。
「そうなんスけど、違うんス!」
なにが違うんだ?
俺は続きを促す。
「違う?」
「ネズミはいつも、あんなに多くないっス! せいぜい十匹くらいなんスよ!」
広くない地下倉庫とはいえ、床一面を覆いつくすほどのネズミの群れだ。
十匹程度なら、さすがに倒せたはずだ。
「あのときは数える余裕はなかったけど、数十匹ということはないだろ?」と俺。
「百匹は超えるんじゃないか?」と自律分身。
トウコはうんうんと頷いている。
「そうっス! だから数が異常だったんス! 死体ひとつでネズミ十匹くらいが普通っス。あの場所にいた目無しは五匹っス! だからせいぜい、五十匹のネズミしか出ないはずなんス!」
トウコは力説している。
俺はその話をかみ砕いて考える。
ボマーの爆発に巻き込まれて死んだ目無しは最大でも五体。
爆発範囲外で死ななかったとか、過剰なダメージで死体を残さずに塵になったやつもいるはず。
……いや、不運のせいで最悪の状況になったと考えるべきだ。
そこにいた目無し五体が死体として残ったと仮定しよう。
それでもネズミは五体分で五十匹。
結構な数だが……倒してもきりがないというほどではない。
視界がない状況だったことを考えても、あのとき結構なネズミを倒したはず。
「そうだな……。俺たちは数十匹のネズミを倒した。だけど減ったようには感じなかった。五十匹ならもっと手ごたえがあったはずだ」
「そうっス! まあ、細かい数字はどうでもいいっス! 言いたいのは、暗いからじゃないかってことっス!」
暗いから?
たしかに、地下倉庫は暗くて見通しが悪かった。
ロウソクの火が消えてからは、完全な闇になるほどの……。
館の中は薄暗いが月明りが窓から差し込んでいる。
【暗視】のないトウコたちも行動できる。
この違いが、ネズミの数に影響した?
「つまり暗いほどネズミ……敵が増える、とトウコは考えてるのか?」
「多分そうかなーってくらいっス。これまでもそういう感じはあったんスけど……」
トウコは自信なさげな様子だ。
「いや、間違ってたとしてもかまわない。そうかもしれない、として対策を考えよう」と俺。
「もっと明かりを増やすってことだな?」と自律分身。
自律分身が燭台を見ている。
「トウコ、寝室以外には燭台とかロウソクはないのか?」と俺。
「暖炉の部屋にあるっス。だけど……その前に倒せない敵がいるから、しんどいっスね」
「倒せない? ネズミみたいなもんか?」と俺。
トウコがかぶりを振る。
「いや、敵はひとりっス。だけど硬くて倒せたことないっス!」
「ひとり? ボスってことか?」と俺。
ひとりという言い方は、ゾンビやネズミっぽくないな。
「前に食堂にボスがいると言っていたけど、そいつか?」と自律分身。
「いや、食堂のとは別っス。ボス、じゃあないと思うんスけど……」
ボスじゃないけど強力な敵ってことか。
「なんでそいつはこれまで姿を現さなかったんだ? ウェーブのたびに出てきてもいいだろ?」
モンスターは湧いて出る。そして移動する。
ウェーブのたびにモンスターは種類や強さが増えていく。
もともと部屋に配置されているようなモンスターもいるが、そいつらだって移動するはずだ。
「そりゃ、あたしたちが一階で戦ってないからっスね! だからいつも二階へ行くっス!」
「ああ……そういうことか。そいつと戦いたくないから、二階へ行ってるわけだ」と俺。
俺がクラフトしている間のレベル上げも二階でやってたからな。
一階は避けている。
「で、そいつはどこにいる?」と自律分身。
「一階の左側……さっき店長が戦ってたドアの先の廊下っス!」
これまで俺たちは経験のあるトウコのおススメに従って攻略してきた。
それで二階の衣裳部屋に最初に行くのがお決まりとなった。
だからトウコが会いたくない強敵と出会わないのは当然だ。
前回の地下倉庫もトウコは行きたがらなかった。
そこは危険だからだ。
「強敵を避けるのは当然だな。でも、そいつを倒したほうが有利になるなら……」と俺。
「倒せるっスかね? あたしはいくら撃っても倒せなかったっス!」
「トウコ。具体的に話してくれ。そいつはどんなやつだ?」と自律分身。
「……鎧っス。全身が鎧のゾンビなんスよ!」
鎧ゾンビか……。
銃で倒すのは難しいのかもしれないが、俺ならどうだろう。
そいつの様子を見てみたいが――
「そいつは手ごわそうだな……って、敵が来たみたいだな」
「ああ、四ウェーブ開始だ!」と自律分身。
「話はあとっス! バトルっスよ!」
俺たちは武器を構える。
「シャアア!」
「ガアッ!」
玄関からみて左の扉……三ウェーブで俺が戦っていたところ。
鎧ゾンビがいるという通路からランナーが走り出てくる。
同時に、二階の階段からも敵が押し寄せている。
「俺は一階! トウコたちは二階を頼む!」
「リョーカイっス!」
「まかせろ!」と自律分身。
自律分身の効果時間はもう少しで切れる。
このウェーブ中くらいは持つはずだ。
俺は踊り場を離れて一階を走る。
一階の敵を踊り場に近寄らせない。
接近戦や乱戦はトウコや自律分身には不利だ。
「うりゃあ!」
俺はすれ違いざまにランナーの足を切る。
倒れたランナーを無視して、もう一体へと向かう。
「シャアッ!」
こちらを向いて口を大きく開いて威嚇音をあげるランナー。
その口の中にナイフを投擲する。
「アガッ」
口中に深く突き立ったナイフは、ゾンビの命を奪うには足りない。
死んでいるのに命というのもなんだが……。
振り回された腕を身を低くして躱す。
そのまま、掌底をランナーの顎に打ち込む。
吹き飛ぶように後ろへと倒れるランナー。
上から刈り込むように蹴りを入れる。
ランナーが咥えたままのナイフを押し込み、蹴りが炸裂する。
塵に変わったそいつを尻目に、足を裂いたランナーを踏み砕く。
踊り場からは銃声が響いている。
だが、そちらを見ている余裕はない。
扉からはさらにウォーカーがあふれ出してくる。
ドアは両開きの豪華なものだが三ウェーブの時点で破壊されている。
つまり広い間口になってしまっている。
ドアに詰まって出てこないなんてことはない。
ひしめきあいながら、ドアからゾンビたちがぞろぞろと進み出る。
「やれやれ……また団体客だ」
さて、どう料理したものかな!
修正履歴
7/22 タイトルを修正。クロウは二度死んで三度目のチャレンジ中でした。
誤:二周目第四ウェーブ! もっと光を!
正:三周目第四ウェーブ! もっと光を!




