目指そう! グッドエンディング!?
「いけそうか?」
「うん! 諦めないって決めたっス! 店長とグッドエンディング目指すっスよ!」
トウコがぐっと手を握りこんで宣言する。
このダンジョンのグッドエンディング……脱出エンドだな!
「おう。その意気だ!」
「なんか……にぶいんスねぇ……。ま、いいっス! もうターゲッティングしたっスから」
俺の胸元に指を銃の形にして突きつける。
「ポーズきめてる場合じゃないぞ! ランナーだ!」
ランナーが二階から現れた。
腕を振り上げ、威嚇音をあげている。
「ガアァァァ!」
「シャアアアッ!」
「二ウェーブっス! ……あ、店長。ちなみにあたしのレベルは2まで下がったっス」
「2ってお前……! 戦えるのか!?」
前回の開始時は5だったはず。
デスペナルティ……下がりすぎだろう……!
トウコは楽観的な表情を浮かべて、銃を生み出す。
手の中に現れた銃のトリガーガードに指をかけてくるくると回転させている。
見事なガンプレイ……ガンスピンだ!
「銃を撃つ意思は残ってるっスよ!」
回転を止め、銃を構える。
それと同時に引き金を引く。
階段を降り、俺たちに向かっていたランナーの後頭部から血と脳漿が噴き出す。
糸の切れた人形のように、床に倒れ、跳ね返る。
「……そうだな。レベルなんてどうでもいい。戦おうとする意志があれば十分だ!」
「ういっス! ほら、もう一匹は店長の分っスよ!」
ランナーが走ってくる。
俺は前に出て、ウォレットチェーンを垂らすように構える。
「シャアッ!」
ランナーが床を蹴る。
それと同時に俺は体を開いて、横にずれる。
わずかに軸をズラす。これだけで、攻撃はあたらない。
「くらえっ!」
俺はウォレットチェーンを振るう。
ランナーの足に絡みついた鎖がぴんと張る。
ジャンプの勢いでランナーが床に叩きつけられる。
倒れているランナーの頭部へ鎖を振り下ろし、頭部を砕く。
さらに数回、鎖を振り下ろし、魔石へと変える。
鎖は少し非力だな。
靴がないのでゾンビを踏みつけるのははばかられる。
さらにウォーカーが三体。
トウコが銃で狙いをつける。
「もらうっス!」
「遠慮なく持ってけ!」
トウコはいつもより時間をかけて発砲する。
二匹のゾンビが頭部を撃ち抜かれて倒れる。
三匹目は倒れない。……銃弾は外れた。
「あっ! もう一発っス!」
三匹目は少し引きつけてから狙って撃つ。
命中。今度こそゾンビは倒れる。
手分けして死体を塵に変えながら聞く。
「外すとはめずらしいな……スキルのせいか?」
「そうっス……。【照準精度】と【安定化】のせいっスねー。全体的にレベルダウンしてるっス」
スキルがなくなったのではなく、スキルレベルが低下しているんだな。
「ほかに、できなくなったことはあるか?」
「自動式拳銃が出せなくなったっス! ちなみに、店長はどうっスか?」
「俺のレベルは12に下がってる。でも、スキルに影響はない」
「え? レベルが下がるとスキルも減るはずっスよ?」
スキルポイントは減っている。
6あったのが1になっている。
「13に上がった分のスキルポイントは使ってないから、変わらないってことだ」
貯金が目減りしたみたいな感覚……。
うぬぬ。なんか腹立つ。
でも実害はない。戦力は落ちない。
さらにレベルが下がるとレベル12で使った分のスキルポイント分、弱体化する。
【入れ替えの術】【毒術】のスキルレベルが下がる。
気を付けないとな。
「へえーっ! 取っておくとか、あたしはできないっスね! ちなみにレベルが上がっても、スキルは選びなおせないっス。前に取ったスキルが戻るっス!」
「へえ、そうなのか」
レベルが上がると元と同じスキルが自動的に選ばれるんだな。
毎回違うスキルを試すことはできない。
いらないスキルを消して取り直すこともできない。
うーん、便利に使うことはできないか。
「だから、いらないスキルをとると詰むっスよ」
「いらないスキルってなんだ?」
「【苦痛耐性】っスね……」
トウコは苦い表情を浮かべている。
「え? 痛みを感じずにすむんだろ? 良さそうじゃないか!?」
「……それが良くないんス……死にそうなのに……死ねないっス。死んだほうがマシな場合もあるっス……」
そうか……このダンジョンならではだな。
「ああ、そういうことか。痛みで意識が飛ばないのは……地獄だな」
「……取らないことをおすすめするっス」
「おう。わかった」
だけど、死なない前提なら便利なスキルだ。
痛みってのは侮れない。
コウモリと戦った時は痛みで回避が難しくなった。
魔力酔いで頭痛がすれば、動きは鈍る。
痛みは、これまで【自律分身の術】を使わなかった理由のひとつでもある。
意識のフィードバック。
痛みの記憶が俺に書き戻されるのが心配なんだ。
このダンジョンでは、ケガや死の可能性が高い。
戦闘中にその記憶が書き込まれれば、危険が大きい。
使わなかった理由のもう一つは、クールダウン時間だ。
「ところで、スキルのクールダウン時間って死んで復活するとどうなる?」
「クールダウン時間? あたしのスキルだと【緊急回避】が連続で使えないっスけど……数秒なんでわかんないっス」
トウコのスキルは常時発動スキルが多いのかな?
俺のスキルでも【隠密】などの常時発動スキルはクールダウン時間がない。
「んじゃ、試してみないとわからないな」
死んで復活するとき、消費した魔力は回復している。
傷も治って、魔力も補充される。
ということは、スキルのクールダウン時間もリセットされてもいいんじゃないか。
次回どうなるか、復活後に出せるか試してみよう。
次回、か。
俺も今回でクリアできない前提で考えてしまっている。
「てーか、店長。クールダウン時間なんて、なんで気にするんスか?」
「俺の【自律分身の術】は六時間かかるんだ。さっき使ったから、次も使えるかと思ってな」
トウコが大げさに驚く。
「六時間!? ひえー。そんなに待てないっスね! どんだけ強いスキルなんスか!」
「強いというか、便利だな。……いまごろは二階を探索しているぞ。そろそろ戻ってきてもいいんだが」
靴と服、寝室の物資調達だけ。
新しい部屋は探索させない。
「二階を探索? 勝手に動くってことっスか?」
「俺と同じように考えて行動する。ステータスは俺と同じだけどスキルはないからガチの戦闘は無理だな」
ひとりで三ウェーブは無理だろう。
ボマーが倒せなくて詰む。
「普通のハリボテ分身じゃないんスね! 別々に行動できるとか、いやー便利っスね!」
「弱点もある。死んだり消したりすると記憶が俺にフィードバックされる。ケガしたり死んだ記憶が戻ってくると俺は動けなくなる。そのときはフォローしてくれ」
「リョーカイっス!」
自律分身が二階から顔を出す。
なかなかの大荷物だ。
「お、ちょうど自律分身が戻ってきたぞ」
「噂をすれば影分身っスね!」
うまいこと言いよる!
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