何度でもやり直す! 泣いて謝ってももう遅い!
俺達は、洋館にいる。
三度目のスタートだ。
またもやり直し。
死に戻りだ。
だが、今回は振り出しに戻っただけじゃあない。
もっと悪い……!
「うう……はあ……!」
「トウコ! はじまったぞ! シャンとしろ!」
トウコは座り込んで立てずにいる。
その目は暗い。顔は土気色だ。
ぶつぶつと、なにかを呟いている。
なんだ? トウコの髪の毛が……。
前髪が一房だけ白髪になっている。
「あたし……あたしは……なんてことを。やっぱり店長を巻き込んじゃ……」
「おい、しっかりしろ!」
エントランスにゾンビが現れる。
こっちの都合などお構いなしに、敵は現れる。
「ウウア……アアア」
「来たぞ! ……お前は、ちょっと休んでろ!」
俺は包丁を構えて、敵を見据える。
「あたしのせいっス……あたしが……あんなこと……」
うわ言のようになにか言っている。
よく聞き取れない。
まずは敵を排除する。
敵はウォーカーが一体だ。
俺は走りながら包丁を投擲する。
包丁がゾンビの頭部に突き立つ。
「アガッ」
すれ違いざまにひねりあげながら包丁を引き抜く。
体液をまき散らし、ゾンビが塵に変わる。
そのまま走り抜け、残り二体のゾンビが現れる通路へ向かう。
出てきたところを包丁で始末して、魔石を回収する。
「ふう。これでエントランスの敵は片付いた。トウコは――無理そうか」
振り返ってトウコを見る。
まだ立ち直っていない。
暗い表情で床を見つめている。
……どうしたっていうんだ。
こうしている間にも、時間は無くなっていく。
ウェーブは進む。敵が強くなり、探索が難しくなる。
このまま待ってはいられない。
攻略を進めなければ!
まだ、トウコは戦力になりそうもない。
かといって、放置しておくわけにはいかない。
この身ひとつでは、両方こなすことはできない。
でも――
「――自律分身の術!」
身ひとつでできないなら、分身に任せる!
「よう、俺! んじゃ、行ってくる。トウコのほうは頼むぞ」
「よう、俺! 物資回収、頼むぜ」
包丁を受け取ると、自律分身は二階へと走る。
時間は無駄にできない。
トウコを慰める。攻略も進める。
自律分身がいれば、両方できる!
戦力や効率を考えれば俺が攻略役、物資回収役をするべきだ。
自律分身は俺と同じ記憶と人格を持つ。
俺自身と変わりない。
だから、トウコに寄り添うのは自律分身でも問題ないはずだ。
戦力的にも二ウェーブまでなら戦える。
本体と自律分身の人格は同じ。
俺と変わりない。
俺は自律分身を俺自身、俺と等価な存在だと考えている。
さんざん悩んで、そう割り切った。納得した。
だけど……矛盾するようだけど、トウコに寄り添う役は本体にしかできない。
……割り切れないが、そうだ。これは理屈じゃない。
こんなときには本物じゃないと……。
俺自身じゃなきゃダメなんだ。
俯いているトウコのもとに戻る。
しゃがんで目線を合わせ、問いかける。
「トウコ……落ち着いたか?」
「やれるっス……。あたしが、自分でなんとかするっス……」
トウコは俺から目をそらす。
そして、立ち上がろうとしてよろける。
支えようと俺の差し出した手を、はねのける。
「おい……」
「放っておいてほしいっス! もう大丈夫……あたしはひとりでも大丈夫っス!」
トウコの暗い目に俺は映っていない。
その目にも言葉にも、力は感じられない。
「大丈夫そうには見えないぞ」
「助けてもらおうとしたのが間違いだったっス! あたしにはそんな資格なかったんだ! 店長を巻き込んじゃいけなかった……あんなのはもう、耐えられないっス!」
トウコは首を激しく振る。
水滴が散る。涙と……血だ。
強く噛みしめた唇から血が流れている。
俺はまた手を伸ばす。
その手をトウコが振り払おうとする。
俺は逆に、その腕をつかむ。
「――ッ! 離せッ! 離して!」
「誰が離すか! この手は離さないと決めたんだ!」
トウコは腕をむちゃくちゃに振り回す。
だが、俺は手を離さない。
「……あたしが悪かったっス! つい、頼って……。店長がいてくれたらって……でももう……もう、帰ってほしいっス!」
トウコの頬を涙が伝う。
泣きながら、謝りながら俺の胸を力なく叩く。
なにを言ってるんだ、コイツは。
勝手なことを言うじゃないか。
「わざわざ助けに来た俺に帰れ? ……泣いて謝ってももう遅い! チートもないし力不足かもしれないけど俺はお前を助け出す!」
「は……? また追放ネタっスか……バカなんスか?」
トウコは間の抜けた声を出して固まる。
そして、あきれたような顔になる。
「バカかもしれないけど、本気だ。……何度も言わせるな。俺はお前を諦めない!」
「バカっスよ。諦めなければ最後には逆転っスか? 少年漫画じゃないんスよ!」
バカで結構。何度だって言ってやる。
俺は笑顔で言う。
「俺は少年漫画、好きだぜ。都合よく逆転? いいじゃないか。ここから逆転してやろうぜ!」
「これが漫画なら、ホラー漫画っス。最後にはバッドエンドもあり得るっス!」
「バッドエンドは嫌いだね。グッドエンドを目指すんだよ! こんなところで俯いていたってはじまらないぞ!」
トウコがじれったそうに言う。
堰をきったように言葉があふれる。
「話が通じないっスね! ……このままじゃ、店長まで帰れなくなるっス! 店長には帰る場所がある……待ってる人がいるじゃないっスか! あたしには帰る場所も……待ってる人もいないっス!」
話が通じないのはどっちだか。
帰る場所がない? 待ってる人がいない?
「もちろん、帰るさ。お前も一緒に帰るんだ。待ってるどころか、迎えに来たんだぞ!」
トウコが言葉に詰まる。
「ッ……そんなこと言ったら……ダメっス! あきらめきれなく……」
「だから、諦めんなって! 笑え!」
俺はトウコの頭をぐりぐりと撫でる。
「ちょっと……そういうの、やめてほしいっス! やば……」
トウコは俺を見上げながら、恥ずかしそうに笑った。