表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜辞めました! 忍者始めました! 努力が報われるダンジョンを攻略して充実スローライフを目指します!~ダンジョンのある新しい生活!~  作者: 3104
三章 冷蔵庫は無理ゲーで!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

220/1473

なぜなぜ死因分析!

「うおおっ……!」


 俺は冷蔵庫から吐き出され、床に叩きつけられる。


 また死んだ。

 今回はネズミだ。


 なんだ、あれは!

 あんな数……どうしろっていうんだ!

 理不尽にもほどがある。


 暗闇の中、無数のネズミにかじられた。

 ……食われた。


 激痛の中で気を失った。

 そうして俺は死んだ。


「ネズミ……! 想像以上にヤバかった……!」


 トウコがあれほどネズミを怖れていた意味がわかった。


 叩いても、切っても、倒しきることはできない。


 ましてや六連発の銃では対処できない相手だ。

 数が多すぎる。

 弾数の制限、リロードの隙……相性が最悪だ。


 それに今回は、暗闇の中だ。どうにもならない。

 トウコが言うように、詰みの局面だ。


 ネズミは弱い。一匹であれば、コウモリ以下だろう。

 だが、数が多い。あの数では手に負えない。


 そして、攻撃力も大したことはない。

 せいぜい、指一本をかじり取る程度の威力。

 一撃で致命傷を負うことはない。


 ……そこが、恐怖なんだ。


 ゴブリンのナイフやこん棒の一撃のほうが強いだろう。

 急所を刺されたり、頭を殴られれば俺は死ぬ可能性がある。


 だが、ネズミの場合は床を埋め尽くすほどの大群だ。

 その弱い攻撃……といっても激痛を与える噛み傷を死ぬまで受け続ける……。

 そんなものは、耐えられない。


 だが、激痛によりすぐに意識を失ったことはさいわいだった。

 人間は一定以上の痛みには耐えられない。

 意識が自動的に落ちるというが……そういうことなんだろう。


「はあ……思い返しても、耐えられないな……」



 ネズミへの認識を改めた。

 今まで出会った中で最恐(さいきょう)の敵だ。二度と出会いたくない。


 もっと対策を考えなきゃな。

 死体を残さないこと。必ず処理する。

 そうすればネズミはわかない。出会わずにすませるのが一番だ。


 今回の死因のひとつは、目無しの怪物だ。

 俺には見えない敵。その死体。

 死体の処理は気を付けていたのに、こいつは処理できなかった。

 どうしようもないだろう?


 死因その二。

 暗闇。視界の喪失だ。

 暗い地下倉庫に入ったのが、まずよくない。


 そして、不安定な明かりである燭台……蝋燭(ろうそく)。マッチ。

 蝋燭の火はかんたんに消えてしまう。

 水がはねても、風が吹いても、手で触れただけでも消える。


 こんな不安定な光源ひとつに命を預けていた。

 それが、不運の前に脆弱(ぜいじゃく)すぎた。


 死因その三。

 ボマー。爆発と爆風だ。

 あいつの爆発は、ただ破裂するだけじゃない。

 体液の化学反応なのか、魔法的なものなのかはわからない。

 爆弾のように、大きな爆風を生む。


 ゲームとは違って、一定範囲内だけにダメージ判定があるのとは違う。

 距離が離れても、爆風は届く。

 今回は、殺傷範囲外に届いた爆風が死因だ。

 風で火が消える。


 そして……死因その一とも関連する。

 目無しを殺されたこと。


 爆風は敵味方を区別しない。フレンドリーファイアありだ。

 ゾンビ同士であっても、殺傷する。

 これが、今回の死因の一番大きな要因だろう。


 ボマーの処理は前回からの課題だ。

 今回はトウコが先走って射殺したことが……いや、結果論だな。

 トウコを責めるつもりはない。


 おそらくトウコは距離が離れているから大丈夫だと思ったのだろう。

 あるいは、前回俺がボマーに殺されたので、守ろうとしてくれたのかもしれない。


 死因その四。

 これが直接的な死因だ。

 ネズミ。数の多さ。相性の悪さ。

 俺もトウコも、単体攻撃しかできない。

 広範囲を巻き込む攻撃方法がない。これが問題だ。


 火炎瓶がその対策だったが……まさかの不発。

 瓶が割れなかった。映画やゲームでは、すぐに割れるってのに。

 そして、火酒では火力が不十分だった。

 試さずに本番で使ったのがよくない。


 火炎瓶は工夫と試験が必要だ。

 【忍具作成】で加工すれば、使えるはずだ。


 暗闇にしろ火力不足にしろ、対策はある……。


 ――でも、もっといい解決方法がある。


 先延ばしにするのはやめだ。

 絶対に消えない火。圧倒的な火力。広範囲攻撃。

 検証も準備もいらない。信頼感は抜群。


 ……魔法だ。ファイアボールだ。


「……リン(オトナシさん)を呼ぼう。巻き込まないとか、格好がつかないとか……言ってる場合じゃない!」


 俺が困っているとき、ピンチのときに助けを呼ばなかったとあとで知ったら、リンは怒る……いや、悲しむだろう。


 ――それじゃあ、私もお手伝いさせてください!

 ――絶対に一人で無理なことしちゃダメです!


 そうだ。俺はヒーローじゃない。

 俺はただの元社畜……せいぜい忍者でしかない。

 世界を救ったり、誰でも助けられるような超人じゃない。

 足りない力で、できることをする。


 格好よくトウコを助けに来たつもりが、二度も先に死んでしまった。

 このまま続けてトウコを助けられるのか?

 死ぬほどに成功率は下がっていく。


 いま手を打っておかなければ!

 冷蔵庫ダンジョンの中では、時間の進みが違っている。

 俺との電話から、到着までの間にトウコは十回以上死んだという。


 いまリンを呼んでも到着までに時間がかかる。

 きっと俺達は何回も死ななければならない。


「――送信。すぐに来てくれればいいが……」


 端末でリンにメッセージを送る。

 場所と状況を簡単に書いた。



 俺はトウコが排出されるのを、冷蔵庫の前で待つ。

 そろそろ出てきてもいいはずだ。


 俺はすぐに意識を失った。

 トウコは俺を助けるためになにかしようとしていた。


 なにか対策があったような言い方だった。

 まだ頑張っているのか。対策が成功したのか?


 ――冷蔵庫の黒い水面が泡立つ。


 トウコが排出される。


「あああっ!」

「トウコっ!」


 俺はトウコを受け止め、冷蔵庫から距離を取る。


 少しでも、ダンジョンの外で時間を稼ぐ。

 援軍(リン)を待つんだ。


「わあああ! ああっ! はあはあっ!」

「お、おいトウコ……どうした!?」


 トウコはひどく取り乱している。

 腕を振り回し、周りが見えていないように暴れている。

 もう外に出ているのが、わからないのか?


「うう……。うええっ!」


 トウコが嘔吐し、床を汚す。

 酸っぱい匂いが立ち込める。


「……大丈夫か?」

「はあっはあっ……店長? 店長……? げほっ」

「ああ、俺だ。ここにいる! しっかりしろ!」


 俺はトウコの汚れた口元を指で(ぬぐ)う。

 トウコは激しく震えている。

 目はぼんやりとして定まらない。


「……うう」


 ひどい汗だ。呼吸も荒い。

 過呼吸のように、うまく息が吸えていない。


 トウコの背中をさする。


「落ち着け。ゆっくり息を吸え」

「はあっ……ふう……げほっ」


 どうしたっていうんだ?


 トウコは死に慣れているはずだ。

 これまで、こんな様子は見せなかった。


 前回は復活してすぐ、けろっとした様子だった。

 今回は……ネズミのせいか?


 たしかに、ネズミにかじられる苦痛と嫌悪感はかなりキツイ。


 だが、トウコはあのあとなにか対策を取ったはずだ。

 あの状況を打開して、四ウェーブまで生き延びたのか?

 そのあと五ウェーブまで戦った?


 本人に聞こうにも、いまはムリだ。


 こうまでダメージを受けるとは……なにがあった?


 俺は嘔吐するトウコを見守ることしかできないでいる。


 そこへ、冷蔵庫から黒い腕が伸びる。

 トウコを目がけて、腕が蠢く。


「くそっ! どうすりゃいいんだ! ちょっと、待ってくれ!」


 俺はトウコを必死に引っ張り、冷蔵庫から遠ざけようとする。

 だが、黒い腕はトウコを捉えて逃がさない。

 何本もの腕がトウコに絡みつき、強い力で引き寄せる。

 俺の力ではどうすることもできない。


 床に踏ん張る足が滑る。

 俺の腕が、トウコの体に食い込む。


「ううっ!」


 トウコが苦痛の声をあげる。

 ダメだ……。力では対抗できない。


 俺は抵抗をやめ、トウコとともに冷蔵庫に引き込まれた。

ホラー展開なので、怖いと思っていただければ成功です。

気持ち悪い、イヤだ、かわいそうと思ったかたは評価、いいねをいただければ幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ