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閉所で暗所! ネズミ恐怖症!?

ホラー展開!

苦手な方はご注意ください!

 ――ちゅうちゅう


 小さな足音が連続して、波音のように聞こえる。

 この耳障りな鳴き声は……!


「――ネズミっス! ああ……もうおしまいっス!」

「おい、諦めるなって!」


 ロウソクの炎に照らされたトウコの表情は絶望に染まっている。


「諦めたほうがいい場合もあるっス……この状況は詰みなんスよ!」


 これまで何度も繰り返してきたトウコには先が読めているのだろう。

 ネズミが現れれば、詰み。それがトウコの結論だ。


 だが、たかがネズミだ。

 コウモリとそう変わりはない。

 俺は数十匹のコウモリだって倒してきた。

 対処できるはずだ!


「なんとかなるかもしれないだろ。なにがダメなんだ?」

「ぜったいに殺しきれないんス……なぶり殺しにされるしかないっス!」


 がさがさ……。

 音はさっきよりも大きくなっている。


 【暗視】で強化された俺の視界に、その姿が見える。


 音の正体は、ネズミの群れだ。

 ちょっと待て! 何十匹いるんだ……!?


 床を埋め尽くすほどのネズミが、なにかにたかってる。

 見えないなにか……目無しの怪物の死体だろう。


 見えない死体を放置した結果が、これだ。

 ネズミを呼び寄せた。


 死体の分だけネズミがわいたとすれば……。

 目無しは何体いた? 死体は何体あった……?


「トウコ! ここから脱出できないか?」

「ムリっスよ! あいつらは結構素早くて、近づいたら飛びかかってくるっス! もう間に合わないっス」


 ばりばりと、死体をかじる音が途切れた。

 奴らは、食事を終えた。


 いや、まだ食事は終わっていない。

 ――次は俺達だ。


 だが、黙って食われるわけにはいかない!


「トウコ! 撃て! 戦え!」

「……リョーカイっス!」


 トウコが銃を連射する。

 床一面がネズミで埋め尽くされている。どう撃っても、外しようがない。


 撃ち抜かれたネズミは塵となる。

 弾丸が生成され、床に落ちる。


 その弾丸を、別のネズミがつかんで走り去る。


「なにっ!? アイテムを盗むだとっ!?」

「ああやって、弾丸や物資を盗んでいくっス」

「……これは厄介だな」


 ドロップアイテムが生み出されると、それを盗んでいく。

 攻撃よりも盗みを優先しているのか。

 攻撃するほど、弾丸が失われる。


 俺の投げたクギも同じだ。

 倒しても、魔石は手に入らない。盗まれてしまう。

 視界の外まで逃げていく。

 そしてそれを追う余裕はない。


 次々とわいたネズミがせまってくる。


 ――ちゅう、ちゅう


 床一面に広がっているネズミは倒しても倒しても数が減らない。

 俺は後ろに下がりながら、クギを投擲する。


「トウコ! 火炎瓶を使え!」

「あっ! そうっスね!」


 トウコがポケットから火炎瓶を取り出す。

 分身の持っているロウソクで着火して、ネズミの群れへと投げる。


 これでなんとかなる!


 ――しかし、その期待は裏切られた。


 瓶が床に叩きつけられる。

 しかし、瓶が割れない。


 転がった瓶から火酒が流れ出す。

 燃える布に引火し、床に炎が広がる。

 だが、すぐに消えてしまう。


「な、なんでだ?」


 俺は混乱する。

 火炎瓶は酒と布で作るものだろ?


 映画でもゲームでもよくある光景だ……。


「前回もこんな感じだったっス……あたしの投げ方がダメなのかと思ったんスけど……」


 前回、俺は第四ウェーブの爆発で死んだ。


 トウコは生き延びて、第五ウェーブまで行ったはずだ。

 そこで火炎瓶を使ったが不発だったということか。

 ……これは今初めて聞いた。


「そうか……アルコール度が高いとはいえ、ただの酒だ。火炎瓶にはならないんだ……」

「えっ? 酒って燃えないんスか? だって、試したとき燃えたじゃないっスか!?」


 布に(ひた)した火酒(ひざけ)は、短い時間燃える。

 だが、火炎瓶として使うには弱い。


 ガソリンや灯油など、もっと強力な燃料でなきゃダメなんだ……!

 くそ! ゲーム脳だった!


 【忍具作成】で作ったものではない。

 スキルでクラフトすればよかった!


「すまん! 俺のミスだ! ちょっと火をつけただけで試したつもりになっちまった!」

「あたしも気づかなかったっス。しょうがないっスね……」


 いつもなら、もっと準備する。もっと検証する。

 今回は、その時間が取れなかった。

 状況がめまぐるしくて、いつもの段取り(ルーティーン)を踏めなかった。


 環境の違い……。


 一つしかない火炎瓶を使って試すことはできなかった。

 だから……。


 いや、なにを言っても言い訳だ。

 よく考えれば気づけたはずだ……!


 そうしている間にも、ネズミの群れは迫っている。

 ……もう足元まで来ている。


 ――ちゅう、ちゅう


 体は普通のネズミよりも大きい。

 カミソリのような歯は、鋭く大きい。


「近寄るな!」


 俺はマチェットを抜いて足元を薙ぎ払う。

 あっけなくネズミは塵となる。


 ――弱い。倒せる。


 ネズミで埋め尽くされた床に空白が生まれる。

 だが、すぐに新しいネズミにより床が埋め尽くされる。


「――痛ッ!」


 鋭い痛み。

 なんてことだ! 俺の足をネズミがかじっている!


 頑丈なブーツが噛み切られ、足の指がちぎり取られる。


「うあああっ! 俺の指が……! くそっ! 離れろっ!」


 俺は足を振り上げ、ネズミを踏み潰す。

 だがその足を、別のネズミが登ってくる。


 マチェットを振るい、切り落とす。

 俺は後ろに飛びのいて距離を取る。


 ……ダメだ! きりがない! 下がるしかない!


「うああっ! 死ねっ! 死ねっス!」


 トウコがパニックに陥ったような声を上げる。

 銃声が連続する。

 マズルフラッシュで、部屋が一瞬明るくなる。


 ネズミの数は減らない。


 下がった俺のもとに、ネズミが殺到する。

 安全圏がなくなっていく。

 狭い地下倉庫には逃げ場がない。


 【危険察知】は常に危険信号を発している。

 【回避】が示すわずかな安全域へと、逃れ続ける。


 噛みちぎられた足の指が痛む。

 だが、避けられないわけじゃない。

 避けながら、クギを投擲する。


 このまま数を減らしていけば……!


 背後へバク転で逃れた俺の目に、分身が映る。


 下半身をネズミの群れに覆われた分身が、塵となって消える。

 手に持っていたロウソクが落ちる。


「――しまった! 火が!」


 ――暗い地下で唯一の光源がネズミの海に落ち、消えた。


 暗闇。


「うおおおお! 馬鹿な!」


 【危険察知】はさっきよりも強く警鐘を鳴らしている。

 だが【回避】は機能しない。

 俺の五感……視界に依存している。

 回避できる場所を認識できない今、身を躱す術はない!


 やみくもに動き回る。

 だが、ネズミは俺に飛び掛かってくる。


 暗闇の中、トウコの様子はもうわからない。

 声が聞こえる。


「――弾丸がもう一発しかないッス! そんな……これじゃあ……!」


 ……トウコもどうにもならない状況か……。


 詰みの状況というやつだな。


「うおおおっ! 離れろっ! ぐあああっ!」


 俺の体をネズミがかじる。足を、腕を……。

 体を這いあがってきたネズミが、顔まで達する。


 鼻がそがれ、耳がちぎり取られる。

 まぶたを切り裂き、目玉がえぐられる。


 やわらかい喉に歯が突き立てられる。

 体の中にネズミが潜り込もうとしている!


 はたき落そうと動かした腕にもネズミがたかっている。

 指が噛み切られて、すでに何本か失われている。

 血で滑ったマチェットが手から落ちる。


 ナタを抜こうとするが、そこに武器はなかった。

 ベルトごと、いつの間にかなくなっている。


 激痛に、考えることもできない。

 全身が痛みを発している。無事な箇所などどこにもない。


「あああっ!」


 思わず叫び声をあげる。

 その口の中に入り込もうと、ネズミが唇に歯を突き立てる。


「店長……! いま、助けるっス!」


 トウコがなにかを叫ぶのが聞こえた。


 だが、俺にはこたえる余裕がない。

 言葉を発する舌すらもなかった。


 ――そこで、俺の意識は途絶えた。

火炎瓶の製造・所持は違法です。マネしてはいけません!

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[一言] こういうとき魔法使いがいれば・・・!
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