閉鎖空間で爆弾処理!? ひとつの見逃しも許されない!
ハード!
この閉鎖空間で、ボマーをどう処理するか……。
階段から俺達は少し離れている。
爆発の直撃を食らう位置ではない。
だが、狭い地下では爆風の逃げ場がない。
なら、なんとかして外へ追い出す?
俺は対策を考え――
「――先手必勝っス!」
「ちょっ……!?」
制止する暇もなく、トウコが銃を連射する。
腰だめのファニングショットだ。
階段付近はわずかに外の光で明るい。
正確に頭部を狙う必要がないなら、当てることはたやすい。
そしてボマーは体がデカイ。
太った体に、六発の穴が開く。全弾命中だ!
「グ……ワバァァッ!」
ボマーが内側から光を放つ。
ぶよぶよとした体を透けるように、その光が大きく膨らんでいく。
「――ッ! 爆発するぞ!」
「伏せるっス!」
極限の緊張感に思考が加速する。
スローモーションのように、世界がゆっくりと動く。
ボマーが限界を超えて膨らんでいくのが見える。
みちみちと軋む肉の音が聞こえそうなほどだ。
トウコが飛び込むように伏せて、木箱の陰に入っていく。
俺は床を蹴って、壁際に積み上げられた木箱の陰に飛び込む。
陰に隠れる直前、ボマーが内側から弾けるように爆発四散するのが見える。
いつものクセで、片目と片耳を覆いながら頭部を保護して衝撃に備える。
分身を前に立たせる。
前回は、ボマーの爆発で死んだんだ。
これで十分かは、わからない!
今回は距離がある……大丈夫だ。大丈夫なはずだ!
爆発。衝撃。
思考の加速が途切れる。
俺には把握できないほどのスピードで、同時に事が起きる。
階段付近の木箱が粉砕され、木屑や木片が吹き荒れる。
周囲のゾンビたちが血煙となって消える。
道具置き場に乱雑に置かれていた道具がガチャガチャと音を立てる。
近くまで爆風が到達し、木箱に肉片や木片がぶつかる音が聞こえる。
気圧のせいで耳がおかしい。
だが、距離のおかげか身構えていたよりも被害は少ない。
前回のように体に何かが突き刺さったりはしていない。
「うおお……! トウコ、無事か!?」
「大丈夫っス! ……だけど、明かりがっ!」
爆風が燭台の火を吹き消したらしい。
真っ暗だ。
狭い地下室の中、俺達は完全に視界を失った!
「爆風のせいか、くそ! 俺にも見えないぞ! 火をつけろ!」
「……燭台がどっかいったっス! どこっスか!」
トウコがガチャガチャと音を立てて、近くを探っているようだ。
暗闇の中で手探りで探すのは、ムリだ。
「マッチだ! まずはマッチに火をつけろ!」
「ああっ! どこにしまったっけ! ない……ないっス!」
トウコはパニックに陥りかけている。
闇の中では仕方のないことだ。
俺も怖い。
抑えようのない恐怖が、心臓をぎゅうと締め付ける。
ただ暗いだけ。
だた、明かりが届かないだけ。
危険はないはずだ。
おそらくウェーブは終わり、ゾンビは爆発で吹き飛んだはず。
耳を澄ませても足音は聞こえない。
だが、暗闇そのものが、本能的な恐怖を掻き立てる。
暗いところは危険だと訴えかけてくる。
息が詰まる。
冷たい汗が背中を流れる。
この状態で、新しい敵が襲ってきたら?
そこらに散らばったクギや刃物を踏んだら?
よくないことが起きそうだ。
いやな考えが頭をよぎる。
――行動しろ!
俺は内心で自分を叱咤激励する。
俺がビビってる場合じゃないだろ!
「落ち着け! いま、火をつける!」
「は、はい」
トウコが気の抜けた声をあげる。
マッチは俺とトウコで半分ずつ持っている。
俺はポケットを探る。
指先に神経を集中する。
――あった。
一本のマッチを指先でつまみ、取り出す。
「ついてくれ……」
折ってしまわないように、慎重に木箱でマッチを擦る。
シャッとマッチが擦れる。
火がつかない。
……いや、少し反応が遅いだけだ。
シュボっと音を立て、小さな火が灯る。
「よし、ロウソクを探せ!」
「りょ、リョーカイっス……」
小さな明かりがあるだけで、こんなにも頼もしい。
だが、長くは続かない。
マッチの火が木軸を黒い炭に変え、どんどんと燃え尽きていく。
俺は新しいマッチをポケットから取り出しながら、トウコのそばへ寄る。
爆発の影響で、あたりはめちゃくちゃに散らかっている。
木箱の上に乗っていた弾丸やクギもなくなってしまった。
爆発から隠れるときに手放したシャベルもなくなっている。
「あったか?」
「ないっス! ああ、もうっ!」
トウコはじれたように頭をかきむしっている。
燃え尽きる前に、次のマッチへ火を移す。
マッチはこれを含めてあと三本。
息で吹き消してしまわないように、呼吸を絞る。
ポケットから残ったマッチを取り出す。
落とさないよう、慎重に……。
冷静さを保て。心を乱すな……。
忍者はいつでも冷静でいなくちゃならない。
だが、それが難しい。
落ち着け……冷静に……!
俺も足元を見ているが、燭台は見当たらない。
このあたりに強い爆風は届かなかったはずだ。
もしかすると不運にも、飛んできた何かがぶつかったのかもしれない。
当たり所が悪く、遠くに飛ばされてしまったかもしれない。
「あったっス! ……って、燭台だけでロウソクがなくなってるッ!?」
「大丈夫! ロウソクも近くにあるはずだ! 落ち着いて探せ!」
大丈夫じゃあない。
だが、落ち着かせるために声を張る。
……これも不運の力か?
……俺の考慮不足か?
最適の行動を取れば、防げた。
とはいえ、常に最適の行動をとり続けるなんてできない。
それが求められる難易度ってことだ。
マッチの火を移す。残り二本。
予備は一本しかない。
これが生命線だ。
――ロウソクは諦めて外へ出るべきか?
外はここよりも明るい。
火がなくても、戦えないわけじゃない。
明かりがないのは不便だが、致命的ではないはずだ。
「……もし見つからないなら、出口へ行くぞ!」
「あった! ロウソクっス!」
「でかした!」
トウコが手にロウソクを持って走り寄ってくる。
……間に合ったな。
いや、まだ気を抜くな。
トウコが手に持ったロウソクへ火を移す。
手をあぶり始めていたマッチを、振って消す。
「よし……」
「ふうっ! 間に合ったっス……あわわ!」
トウコが大きくため息をつく。
火が揺れ、小さくなる。
消えかけた火はなんとか持ち直した。
「落ち着けって……」
「む、ムリっスよ! だから地下はいやだって言ったんス!」
「まあ、武器は手に入った。さっさと出ようか」
「ちらばった弾丸は諦めるしかないっスね……。はあー。……ってあぶなっ!」
トウコの息に火が揺れる。
「ため息、気をつけろよ!」
「き、気をつけるっス! あつっ! あちちっ!」
今度は溶けたロウが手にかかったようだ。
不運のせいなのか?
単にトウコの落ち着きが足りないせいのようにも思えてくる。
「――分身! ロウソクを持て!」
分身がトウコの持つロウソクを取る。
分身の手に溶けたロウがかかる。
だが分身は痛みを感じない。
耐久力も十分ある。小さな火傷くらいで消えることはない。
「あ、アザっス……。もう、早く出たいっス!」
「そうだな。閉所恐怖症と暗所恐怖症になっちまいそうだ……」
これで火は確保した。
シャベルや弾薬を回収したいが、この頼りない視界では難しい。
というか、一刻も早く地上へ出たい。
ざざ……ざざ……。
何の音だ? 聞きなれない音だ。
小さくて、聞き分けられない。
どこから聞こえてくるのかも、判別できない。
「……なんか、音が聞こえるっス。……え!?……この音はッ! まさか! いやだ! 死体は潰したはずっスよね! ねえ、店長ッ!」
光の届く範囲に敵らしき姿は見えない。
爆発に巻き込まれたゾンビもいただろうが、その死体も見当たらない。
「ああ、見逃しはないはずだ! ちゃんと全部――」
トウコの顔色がさっと、青くなる。
「――見逃し……!? じゃあ、見えない死体はどうっスか?」
「……まさかッ! あの見えない奴の死体だとッ!?」
目無しの化け物。若い半裸の女。
俺の目には見えない敵。
戦闘中に巻き込まれて?
あるいは爆発に巻き込まれたか?
くそっ! こんなの気づけるはずもない!
そいつらは俺には見えないんだ!
後ろで射撃しているトウコからは遠い。暗くて見えない。
前で死体潰しをしていた俺には、そもそも姿が見えない。
俺達は目無しを攻撃しなかった。
それで、意識から外していた!
見えないからって、無視したからって居なくなるわけじゃない。
死ねば、死体ができる。
ざざざざ……。がさがさ……。
ばりばり……くちゃくちゃ……。
なにかが、死体を食んでいる。
小さな音の群れが、ちゅう、と鳴いた。
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