二周目第三ウェーブ! ~地の底で~
地下倉庫の入り口にゾンビが押し寄せている。
階段下にドアはない。
地上のドアは開けたままだ。
閉めると暗くなってしまうからな……。
わずかな時間で、準備を整える。
「押せ! そっちを頼む!」
「リョーカイっス! でも、こんなので効果あるんスかね」
木箱を押して、簡易的なバリケードをつくっている。
木箱は立ったときの膝ほどの高さだ。
積み上げる時間はないので、横に並べるだけ。
これでもゾンビを防ぐには効果があるだろう。
「まあ、やらないよりいいだろ」
「そっスね」
さらに、投げるのに手ごろな道具を木箱の上に並べる。
トウコは銃を作り出し、両脇のホルスターに収める。
手に持っている一丁と合わせて三丁だ。
トウコは木箱に短いバールと手斧を並べている。
気休めでも、できることはやっておく。
ゾンビは階段を転げ落ち、それを踏みこえて続々と集まりつつある。
階段の下にあるこの地下倉庫は、ある意味ではゾンビと相性がいい。
――問題は逃げ場がないことだ。
入り口は一か所。
敵を突破しない限り、外へ出られない。
「蝋燭はここでいいっスかね?」
「トウコの狙いやすい位置に置けばいいぞ」
「んじゃ、このへんで!」
――地下は暗い。
トウコが木箱の上に燭台を置く。
三本立ての燭台の火だけが頼りだ。
俺には【暗視】があるが、完全な暗闇では機能しない。
明かりを増幅するような効果であって、赤外線などで見ているわけではない。
原理は不明だが、使っている感じではそうだ。
俺のダンジョンで暗いのは三階層だ。
それでも完全な暗闇ではない。発光キノコなどの光源はある。
ここには月明りも届かない。
発光キノコのような親切な光源もない。
俺は長柄のシャベルを手に取る。
先端の尖った剣先シャベルだ。
最強武器とも名高い穴掘り道具だ。
軍隊でもいざというときの最後の武器として活躍する。
とくに塹壕戦では銃よりも頼りになるとも。
突いてよし、切ってよし、叩いてよし。
もちろん穴も掘れる。ゾンビも掘れる。
頑丈で壊れにくく、安価に手に入る。
あからさまな武器ではないので、自宅に置いても安心。
一家に一本あれば安心である。
「店長、なにスコップ見ながらニヤけてるんスか! もう来るっス!」
「……これはシャベルだ」
「どっちでもいいっス!」
ええ? どっちでもよくないぞ。
まあ、トウコは興味ないか……。
暗闇での戦闘に気が急いているのかもしれない。
トウコには【暗視】はない。
ここに来るのを嫌がっていたし、不安なんだろう。
俺も暗闇でゾンビと戦うのは嫌だな。
もうゾンビはそこまで来ている。
でも、まだ余裕がある。
引きつけてから攻撃すればいいのだ。
無駄に工具を眺めてニヤついているだけではない。
距離を測っている。
「カアアッ!」
階段を降り切ったランナーがこちらへ走り出す。
すかさず、トウコが発砲する。
銃弾はゾンビの肩口に命中する。
当たりはしたが、致命傷にはならない。
勢いは止まらない。
「あっ……暗くってうまく狙えないっスね」
「もうちょい近づいてからだな」
蝋燭の明かりは入り口までは届かない。
俺の手裏剣の必中距離よりも遠い。
「シャアアッ!」
蝋燭の明かりの中に、踏み込んでくる。
ここが適正距離だ!
「撃て!」
トウコが発砲する。
今度は、狙いもぴたりと定まっている。
頭を撃ち抜かれたランナーが派手に倒れる。
「ファーストブラッドいただきっス!」
「いいぞ!」
俺は包丁を投擲して、倒れたランナーへトドメを入れる。
分身を出して、包丁と弾丸を回収させる。
「ウウアア」
「アア……」
遅れて、ウォーカーが群れをなして押し寄せる。
分身を下げる。
トウコが連続して発砲する。
近いゾンビから順に倒れていく。
それを踏み越えて、さらにランナーが迫る。
「リロッ!」
「まかせろ!」
俺はトンカチをつかんで投げる。
回転しながら飛んだトンカチが、ランナーの額に直撃する。
顔面が砕け、倒れる。
「シャアアア!」
次のランナーが叫びながら走ってくる。
鎌を手に取る。湾曲が少なく刃が短いタイプ。
投げるにはちょうどいい形状だ。
手を振って、重心を確かめる。
あとは【投擲】さんのお仕事。
「おりゃっ!」
「アガッ」
回転した鎌の刃が、見事に頭部に突き刺さる。
……痛そう!
適当に投げては、刃が刺さらずに柄が当たってしまう。
経験や練習が必要だ。【投擲】はこの辺りをサポートしてくれる。
「オッケーっス!」
リロードを終えて、再びトウコが射撃する。
六発の弾丸が、それぞれゾンビの頭部を打ち砕く。
安定の全弾命中!
俺はクギをつかみ出して、倒れたゾンビの頭部へ投擲する。
柔らかい頭部に、クギが撃ち込まれ、血の花が咲く。
「お? 威力不足か?」
「リロっ! そうみたいっスね!」
ゴブリンなら頭にクギを打ち込まれれば死ぬんだけどな。
死体を破壊するには、攻撃が点すぎるのかもしれない。
銃弾のヘッドショットでもそうか。
致死的ダメージであることは間違いない。
だけど、アイテムをドロップさせる条件である死体破壊にはスマートすぎるんだ。
「んじゃ、数で補うか! うりゃっ!」
一本でダメならたくさん投げればいい。
シンプルな答え!
俺はつかみ出したクギをまとめて投擲する。
釘ショットガン投法!
「おお、人力ショットガンっス!」
コウモリ戦で使い込んだ技だ。
ゾンビが塵となる。
「これだけやれば、ちゃんと破壊できるな。しかし、クギの消費が激しいわ」
「あたしの弾丸もちょっと少なくなってきたっス」
「んじゃ、回収してくる!」
「死体は全部、潰してほしいっス! ネズミがわかないように!」
今、ゾンビは少し途切れている。
階段を転げ落ちて団子状態になって、そのあと立ち上がる。
場合によっては勝手に死ぬんじゃなかろうか。
階段下で待ち受けるのは、なかなかいいな。
シャベルをゾンビの頭部に突き立てて、足で踏む。
さして力を使うことなく、ずぶりと沈み込んでいく。
「うへえーっ! エグいことするっスね!」
「足をかける部分があるほうがシャベルだ! わかったか!」
「わかったっス! ……こだわりっスねー」
残りも同じように処理していく。
分身が弾丸やクギを回収して木箱へ置く。
散発的に襲ってくるゾンビはトウコが射殺する。
順調だ。
弾丸もプラス収支になる。魔石も手に入る。
「補充あざっス! そろそろウェーブも終わるはずっス」
「前にも越えたウェーブだし、余裕だな!」
「フラグみたいな発言はやめてほしいっス!」
余裕ぶったり、調子に乗った奴から死ぬ。
ホラーの法則だ。
……俺は慎重だ。余裕なんてないぞ!
気を抜いて言っているわけじゃない。
不安定なトウコを安心させるための軽口なのだ。
と、誰にともなく釈明しておく。
階段側から、鈍く重い音が聞こえてくる。
俺はびくっと身を竦ませる。
「な、なんの音だ?」
「ほら、余計なこと言うからっス!」
フラグとか、関係ないと思うぞ!
ずしん、ずしん。
なにか重いものが転がるような……。
「――グウェエ!」
あの声は……。
「げっ! 爆発ゾンビっス!」
「そういや三ウェーブにはコイツがいたな……」
倒すのは難しくない。
だが、この閉鎖空間では爆風の逃げ場がない。
どう処理するか……?
難問だぞ、これは。
東西(地域)でスコップとシャベルの呼び名は逆転したりする。
小型のものをスコップと呼んだりもする。
バラバラで統一感はない。正解はない。
JIS規格ではサイズではなく形で分けている。
足をかける部分があるほうがシャベル。
小説を掘るのはスコップである。
つまり、足をかけないってことだ。




