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地下倉庫は宝の山!? ~工具忍法帖~

「おお、宝の山じゃねーか!」

「道具置き場っスね」


 バール、トンカチ、クギ、シャベル、ナタなどの大工道具。

 カマ、剪定鋏(せんていばさみ)、大バサミ、熊手など。

 庭の手入れ道具だろうか?


 電動工具などの現代的な道具は見当たらない。

 やはりここは、現代ではないんだ。

 中世的な時間軸のダンジョンだ。


 チェーンソウがあればゾンビにピッタリなんだがな……。


 ともあれ、工具は俺にうってつけの装備品だ。


「よりどりみどりだな! とりあえずナタを探そう! ちょっと短いがバールがあったぞ! シャベルもいいな! クギもあるぞ!」

「店長のテンションが異常っス! ひくっス!」


 ヘンな目でみないで!?

 見えない生き物が見えちゃうのを信じてあげたでしょ!?


「俺にとってはこれは武器庫だ。考えてみてくれ。お前の前に、銃の山が出てきたとする。銃架(じゅうか)にずらっと並ぶ銃。弾薬箱からあふれるほどの弾丸。それを見ればテンションも上がるだろ? それと同じだ!」


 力説する。


「へ、へえ。店長にはこの道具がそう見えるんスね……。わかりそうで、わからんっス」


 伝わらないようだ。なぜだ。……()せぬ。


「この(くぎ)は手裏剣になる。普段使ってる五寸釘よりはちょっと軽いが、まあ使える」


 口で言っても伝わりにくいかな?

 なら実践だ。


 数本の釘をつかんで、木箱へと投擲する。

 トトトッと軽快な音を立てて、釘が板に突きたつ。


「おおっ! 確かに手裏剣っぽいっス! でも、手裏剣って星みたいな形してると思ってたっス」

「そういうのもあるが、俺は棒手裏剣派なんだ」


 持ち運びも便利。寸鉄のようにも使えるし、応用の幅は広い。

 とりあえず釘は確保!



 持っていく武器を選ぶ。

 まずはナタのような道具がいい。


「これは……マチェットか」

「ゾンビにマチェーテは基本っスね!」


 山刀(やまがたな)、マチェット、マチェーテ……呼び方は国によってさまざまだ。

 草を刈ったり、枝を打ったりするのに使う刃物だ。

 武器として使われることもある。


 薄くて軽量。柔軟だ。

 強度は分厚いナタより落ちる。

 薪を割ったりするには適さない。


 硬いものは切れないだろう。

 でも、ゾンビは柔らかいから問題ないな。


 これは全長六十センチほど。長さも十分、片手剣の範囲だ。

 片刃だ。


 重さは五百グラムを超えるだろうか。

 ペットボトル飲料よりちょっと重いくらい。


 振ってみると、びゅっと風を切る手ごたえ。

 うん。長さのわりに軽くて振りやすい。いいぞ。


 マチェットの(みね)を指でなぞる。

 薄くて、峰で打つことはできないだろう。


「これだと打撃武器にはならないな」

「え? どう見ても刃物っスよ」


 うさん臭そうな顔で俺を見るな!


 ナタは刃物であり鈍器なのだ。

 マチェットは、刃物にしかならない、という話だ。


「ナタの峰は打撃武器の扱いでスキルも乗るんだ」

「うそぉ……?」


 信じろや!


「ホントだって。スキルは思ったより柔軟だ。そういう認識を持っとけ」

「へえー。そりゃいいこと聞いたっス!」


「マチェットは持っていくとして、ナタはないか?」


 道具置き場は整理されていない。

 サビて使い物にならないものも混ざっている。


「こっちにあるっス」

「お、これは……ナタカマ、だな」


 手に取ったのは少し変わったナタだ。


 いつも俺が使っているナタは、刀身が長方形で、先端はとがっていない。

 腰鉈(こしなた)と呼ばれるものだ。


 対してこれは先端部分に(カギ)がついている。カギ爪状の突起だ。

 先端だけカマのようになっている。

 鉈鎌(なたかま)の一種だ。


 この部分で細い枝やツタをひっかけてたぐり寄せながら切るんだろうが……。


「これ……エグい()()っスねえ! これもお持ち帰りっスか?」

「道具というには殺意が高すぎるよな。もちろんお持ち帰りだッ!」


 なんとなく、俺が持つよりトウコに似合いそう。


 いつものナタより重く、長い。

 全長五十センチほど。

 片刃で(ミネ)は厚い。これなら打撃武器としても使えそうだ。

 鞘はないようだ。


 これも採用!



「お、道具を吊るための革のベルトもあるぞ!」


 やはりここは宝の山だ!


 俺は山刀と鉈鎌を両腰に吊る。

 さらに使わない道具の鞘を材料にして、クギホルスターも作成する。

 魔石の消費は二個。材料が十分だから安いな。


 それをトウコが物欲しそうに見ている。


「それ、いいっスね! あたしもホルスターほしいっス!」

「ああ、銃用のベルトも必要だよな……どれ。作ってみるか!」


 トウコはほとんどの場合、銃を手に持っている。

 両手を使わなければならない場合は、服のポケットに入れたりしている。

 それでは、とっさに撃てない。


 体から離すとスキルで作った銃は消えてしまう。

 置くこともできない。不便だよな。


「ガンベルトがあれば、はかどるっス!」

「どんなやつがいい? 現代風? 西部劇風?」


 ガンベルトといっても色々ある。

 ネットで調べられない今、なんとなくしか作れないが。


ウェスタン(西部劇風)ガンベルトで! 店長のやつみたいに両側に吊れるようにしてほしいっス!」

「ちょっと銃みせて……サイズはそんなもんか……」


 トウコの銃はスキル――【銃創造】で出している。

 西部劇やゲームで有名な銃――シングル(S)アクション(A)アーミー(A)に似ている。

 これを選ぶあたり、トウコはマニアックだな。


 さて……。ホルスターは作ったことがないし、使ったこともない。

 西部劇の映画でちょっと見たくらいだ。

 なんとなくのイメージを、具体的に思い起こしていく。


 どのくらいの余裕を持てばいいのか……。

 銃がスムーズに収まるゆとりがあり、それでいて銃がズレたり落ちたりしないサイズ。


 ホルスターのイメージはだいたい固まったかな。

 ダメならあとで調整と。


 作ったことのないものに挑戦するのは楽しい。

 クラフト楽しい。


「あたしのウエストも測るっスか? 西部(ウエスト)だけに……」

「えーと、腰の後ろには弾丸を挟めるようにホルダーをつけて……」

「スルーっスか!?」


 カートリッジホルダーというやつだ。

 ベルトにたくさんの小さなヒダのようなものがついているアレ。

 弾丸(カートリッジ)を差し込んでおくものだ。


 使うときどうやるんだろうか。後ろに手を伸ばすのか?

 使いにくいんじゃないか。それとも、飾りなのか?


「じっくり測ってくれてもいいんスよ? せっかくだから脱いじゃうっス!」


 トウコが服を脱ぐそぶりを見せる。


 だが俺は忙しい。

 ガンベルトのイメージは固まりつつある。

 映画の映像を思い浮かべながらの作業だ。おぼろげな記憶が頼りだ。


 腰に巻くベルトで、厚めの革。

 二丁拳銃に対応できるようにホルスターは二つ。

 腰の後ろにカートリッジホルダー。


 トウコはショットガンを使うこともあるらしいが、ピストル弾用のホルダーだけでいいだろう。

 ショットガン用のホルスターも必要になってくるな。

 まあ、それはおいおい……。


「……店長。聞いてるっスか? サイズっスよ」


 トウコがかまってほしそうにこちらを見ている。


「――ん? 適当でいいぞ。ベルト穴で調整できるし」

「ええ? なんかテキトウじゃないっスかね!?」


 なぜかトウコがしょんぼりしている。

 いや、お前のためのガンベルトを作ってんだよ。邪魔すんな。

 なんでしょげるんだ。


 あ、サイズ測ってほしかったのか?

 今はじっくりやってる暇はない。


 ……おっと、集中しなきゃな。

 せっかく組み上げたイメージが崩れる。


「さて、作るぞ。二丁拳銃対応のウェスタンガンベルトだ! ――忍具作成!」


 古いベルトと魔石を材料に【忍具作成】が発動する。

 魔石は残りのすべてを消費した。八個だ。ギリギリだな。


 ――ガンベルトが完成する。


 完成したぞ……。

 銃の関連パーツも忍具として認められたな!


 ガンベルトは忍具。銃は忍具!


 ……実際作ったのは革のベルトだが、些細なことだ!


 銃は忍具である!

 スキルを洗脳……教育していくのだ。



 出来上がった品をトウコに手渡す。


「ほれ、つけてみろ」

()()()サイズもピッタリっス! これでリロードがはかどるっス! アザっス!」


 トウコの腰回りは()()()()()()()()()()()()からな。


 トウコが腰に巻いたベルトの位置を調整している。

 銃をくるくると回し、ホルスターに収める。

 スムーズに収まる。


「いいっスね! 今度は抜いてみるっス」


 右手をホルスターへと伸ばす。

 素早い動きで銃を抜く。

 また戻し、抜く。

 何度か繰り返し、納得するとトウコは笑顔を浮かべる。


「いいっスね! ポケットやベルトに挟んだ状態よりずっといいっス!」

「ホルスターのサイズはどうだ?」


 トウコは銃をホルスターに入れて、銃把(グリップ)を手で動かしている。


「んー。ちょっとユルいかも……。でも、使ってれば慣れるかもっス」

「魔石が手に入ったら、あとからでも調整できるぞ」

「店長のスキルは便利っスねー。……あ、来たっス! 第三ウェーブ開始っス!」


 トウコが地下への入り口を銃で指す。


 ぎしぎしと、階段の床板を踏む音が聞こえる。

 階段を転げ落ちる音。うめき声。


 ぞろぞろと、ゾンビたちがなだれ込んでくる。


「まったく……ゆっくりクラフトさせてはくれないらしいな!」

「キメ台詞っぽいのに、全然かっこよくないっス!」

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