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激戦! 第四ウェーブ! その2

 俺は息を整えるため、トウコの近くまで撤退している。


 先ほど俺が倒したバルコニー側のゾンビの頭部を、トウコが撃ちぬいていく。

 あくまでも、死体を消すことを優先している。


 だが、新たなゾンビがその死体を乗り越えてやってくる。

 それを見てトウコはじれったそうに言う。


「今回は弾はあるのに火力が足りないっスねえ!」

「……俺がいても足りないか?」


 今回は俺がいる分、全体の火力は上がっているはずだ。

 それなりの貢献をしている自負はあるんだが。


「あ、店長のせいじゃなくて! いつもならショットガンが使えるんスけど……レベルが下がりすぎてて……」

「――デスペナルティか。レベルが下がるとスキルも使えなくなるのか……!」

「レベルが上がればまた使えるっス。もう一つ上がればショットガンなんスよ!」


 この洋館ダンジョンで死ぬと、ダンジョンの外で蘇生する。

 だが、経験値……レベルを失う。

 レベルが下がると、スキルも失う。


 ――これはまた、ハードな仕様だ。


 難易度は上がり、自分の強みが消える。

 レベルが下がりすぎれば、もはや打開は不可能。


 そうなったら、どうなる?

 レベル1の状態まで下げられ、難易度は上昇し続ける?


 これは、最悪の想像だ。

 死んでも蘇生する。外へ出れても連れ戻される。

 そしてまた死ぬ……。


 無限に続く地獄じゃないか!

 それはマズイ……マズイぞ!



「店長! 追加が来たっスよ!」

「お、おうよ! んじゃ俺がバルコニー側を抑える!」


 バルコニー側から大量の来客だ。

 おもてなししなけりゃな!


 最悪の未来を考える前に、最善の今を作らなければ!


「うりゃああ!」


 ゾンビの群れに【フルスイング】を打ち込み、強引に押し戻す。

 乗り越えてやってくるゾンビを突き、蹴り、押し倒す。


 だんだんと、ゾンビの群れとの戦い方も慣れてきた。


 とにかく、転ばせる。そして少し引く。

 乗り越えてくる新たな人波……ゾンビの波をまた押し返す。

 後続の圧力を、倒した敵を障害物にしてしのぐ。


 小さなナイフや貧弱なステッキ、短い分銅では決定力にかける。

 ダメージは与えられるが、一撃で倒せる威力はない。


 倒れたゾンビが積みあがる。

 乗り越えたゾンビを、押し返す。



「ははっ! なんか、楽しくなってきたっス!」


 トウコが笑いだす。

 銃は絶え間なく火を噴き、廊下側の敵をなぎ倒す。

 発砲、リロード。発砲、リロード。


 それでも、廊下から入ってくる敵の数に押され、距離を詰められている。


「カァァッ!」

「うるせえっス!」


 とびかかるランナーを空中で撃ち落とす。


 つかみかかるウォーカーから、身をひねって飛びのく。

 銃を構えながら飛び、そのまま引き金を引く。

 トウコが回転して着地する。ウォーカーが塵に変わる。


「おお、やるねえ!」

「へへっ! カッケエっしょ!」


 トウコが撃ち切った銃をリロードし始める。

 そこへ、廊下から現れたボマーが近づいていく。


「グウェ! ウエエエッ!」


 ボマーは水死体のようにぶよぶよと膨らんだ醜悪な頭部から、謎の液体を吐き散らかしている。

 床がジュウジュウと音を立てる。


「ちょっ! 待ってほしいっス!」


 トウコがかろうじて装填した二発の弾丸を発射する。

 弾丸はボマーの顔面をえぐり、目玉と頬を吹き飛ばす。


 だが、その歩みは止まらない。

 トウコは壁際に追いやられ、逃げ場を失う。

 リロードは間に合わない。


「グウェウェ!」


 ボマーの体が赤く光りだす。

 爆発の兆候か……!


 トウコが、俺を見て言う。


「店長、()()()詰んだっス!」


 その表情は、潔いほどのあきらめ。

 これから死ぬという、悲壮感はない。


 慣れが、そうさせるのか。

 そうもたやすく、死ねるのか。


 慣れたからといって、死んでいいなんてことはない。

 トウコを死なせていいわけはない!


「……だから、諦めんなって言ってんだろ!」


 俺は部屋の中央にいて、背後にはゾンビの山。

 ぎりぎりの状況。余裕はない。


 ――考えろ! 助けろ!


 極限の状況に、意識が加速する。



 どう、打開する? どうすれば、助けられる?


 ――【入れ替えの術】

 ――【分身の術】

 ――【フルスイング】


 今取れる選択肢は、これだけだ。


 トウコのいる位置は遠く【入れ替えの術】は射程外。


 ボマーは太っていて、俺の倍ほども体がデカい。

 射程内だが、サイズの制限のために術の対象にならない。


 分身では、ボマーに致命打は与えられない。

 トウコとの間に割って入らせても、爆風には耐えられない。

 周囲一帯を吹き飛ばされ、トウコごとやられるだけだ。


 俺が走り寄り、フルスイングで吹き飛ばす……。ムリだ。

 いかに俺が素早く動いても、爆発までにたどり着けない。


 ――詰み?


 他のスキルも考えてみるが、ダメだ。

 俺のスキルはソロ向きの構成だ。

 安定して攻略することを目的として組み上げている。


 だから、ここ一番での爆発力が足りない!


 って、俺が諦めてどうする!

 考えろ。感じろ。ひらめけ!


 発想の幅を広げるんだ。

 一つのスキルで無理なら、組み合わせろ!


「――分身の術!」


 俺のすぐ隣に、分身を生み出す。分身の肩をつかむ。

 そして次に、ボマーにスキルの照準を合わせ、集中する。


 加速した思考の中で、長く感じられる準備時間……!

 ゆっくりと、ボマーが膨らんでいく。

 いまにもはじけそうだ。


「――入れ替えの術!」


 ボマーのサイズは俺の倍ほど。

 俺と分身が()()()()()()()()()()()()


 条件を満たし――【入れ替えの術】が発動する。


 瞬時に、俺とボマーの位置が入れ替えられる。


 俺と分身はトウコのそばへ。

 ボマーは部屋の中央へ。


 そしてボマーの背後には大量のゾンビ。


 ――ボマーが破裂する。


 血と臓物と消化液をまき散らし、爆風が部屋を襲う。

 部屋の窓ガラスが割れて降り注ぐ。

 爆発に巻き込まれたゾンビが、ミンチになって吹き飛ぶ。


 俺はトウコを部屋の隅の壁へと押し付け、その上にかぶさる。

 その俺の上に、分身が重なる。


 爆風が到達する。

 まるで殴られたような衝撃が俺を襲う。

 意識がもうろうとする。


「うおおおっ!」

「ひええっ!」


 腕を突っ張り、耐える。

 俺と壁の間で、トウコが悲鳴をあげる。


 俺の背後で分身が消し飛ぶ。


 ゾンビの肉片や消化液がまき散らされる。

 飛んできたなにかが背中にぶつかる。

 鈍い痛み。


 部屋の中を吹き荒れた爆風がおさまる。

 耳鳴りがして、背後の物音は聞き取れない。


「……やったか?」

「……フラグみたいな言い方、やめてほしいっス」


「はは、これでまだ敵が無事だったら俺達が終わりだ」

「違いないっス」


 振り返ると、部屋の中に動いている敵はいない。

 家具は吹き飛び、頑丈そうに見えたベッドすらひどい有様だ。


 敵も打ち止めだ。

 つまり、四ウェーブは終わったんだ。


「しのいだ、な」

「まさか今回……四ウェーブを越えられるとは思わなかったっス!」

「ああ……ギリギリだった。諦めなけりゃなんとかなった、だろ?」


 敵は倒した。ウェーブは終わった。

 トウコも無事だ。


 気が抜けたのか、俺の体から力が抜ける。

 壁に押し付けたままのトウコに、もたれかかるように崩れ落ちる。


「ひゃっ! て、店長!? 爆発的な壁ドンにはドキドキしたっスけど……その、ちょっと待ってほし――」

「う……」


 なんとか腕に力を入れて、体をずらす。

 壁に手をつき体を支えようとして、そのまま倒れる。


 なんだ……? 立てない。

 めまいがする。視界が暗くなる。


 上がどっちなのかわからない。

 目の前にあるのは……床か。


「――店長!? 背中、ひどい傷っス!」


 背中になにかが突き刺さっている。

 意識したとたん、激しい痛みを感じる。


「ぐっ……!」

「ああっ! 店長! ……これはもう……致命傷っス……!」


 背中を熱い血が濡らす。寒い。

 体が意思とは関係なく震えだす。


 口から血があふれ、呼吸ができない。

 なにか言おうとしたが、喉にあふれる血がごぼごぼと泡になるだけだ。



 ――ああ、また背中か。ストーカーにも刺された。


 またしても後ろ傷(うしろきず)だ。

 背中の傷は勲章にならない。格好がつかない。


 武士だったら不名誉なことだ。

 でも俺は忍者だからな。別にいいか……。


「店長……! 待っ……! てんちょぉーっ!」


 そこで俺の意識はぷっつりと途絶えた。

 意識が闇に沈む。

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