激戦! 第四ウェーブ!
ゾンビのセリフはカタカナにしました。
「ウガアァア」
「シャアアアッ! カアアッ!」
まず入ってきたのはウォーカーとランナーが一体ずつだ。
「少し引き付けてからやるっス! 店長はウォーカーを!」
「よし!」
ランナーが威嚇音を発しながら走りこんでくる。
トウコは慎重にリボルバー拳銃で照準して、ヘッドショットを決める。
頭部に命中してのけぞったランナーは走ってきた勢いで地面に倒れる。
条件に従い、判断分身が動く。
駆け寄って、その頭部をステッキの先端で突く。
ランナーが塵となる。弾丸が転がる。
その一方で、俺はウォーカーへと距離を詰める。
ゆっくりと歩いてくるウォーカーが、俺につかみかかろうとする。
だが、まるで遅い。
かいくぐって背後を取り、ナイフを後頭部へ突き刺す。
そのナイフに力をこめ、深く頭部をえぐる。
一撃で倒せないなら、ナイフをえぐることで傷を深くする。
そうすればしっかりと倒しきれる。
ゾンビは塵と化す。魔石が転がる。
「バルコニーのドアに敵が集まってるっス! まだ破られないはず! 廊下から来るっス!」
この部屋は長方形で、今いる位置からは廊下側のドアが近い。
バルコニー側のドアは閉まっている。
力任せに叩かれ、ドアは軋んでいる。
いずれ破られるだろう。
「分身! 弾薬を回収してトウコの近くへ!」
トウコのそばにはサイドテーブルがあり、そこに明かりのついた燭台が置かれている。
そのサイドテーブルに銃弾を置くよう指示する。
トウコは弾丸を手早くリロードしている。
廊下側から新たなゾンビが現れる。
ウォーカーが五体。
ドアを通ってきたゾンビのうち三体を、トウコが銃撃する。
残りが俺の担当だ。
俺は無造作に距離を詰め、鎖分銅を振るう。
重いカラビナの一撃が、ゾンビの膝を砕く。
バランスを崩して倒れるゾンビをかわし、後ろのゾンビの側面を取る。
こちらへ振り返りかけたゾンビの頭部に手を添えて、体勢を崩す。
足をかけ、顔面を床にたたきつける。
「ウアッ」
ゾンビがうめき声をあげ、床にめり込む。
間髪容れず、頭部を踏み抜く。
「トウコ! こっちトドメ!」
「りょ!」
先ほど膝を砕いたゾンビの頭部をトウコが吹き飛ばす。
これで弾丸が稼げた。
今のところ順調だ!
タフなゾンビが混ざっているはずだが、頭を狙う限り差はないようだ。
この情報が事前になかったら、苦戦しただろう。
やはり事前の情報共有は大きい。
ごり押しで戦うだけじゃ、こうはいかない。
「リロードするっス!」
「おう!」
新たに、廊下から二匹のランナーが走りこんでくる。
分身を操作して、ステッキを突き出す。
槍のように突き出されたステッキは、走ってくる勢いでゾンビの柔らかい体を貫通する。
一匹はのどを、もう一匹は口から後頭部へまで貫く。
後頭部を貫かれたランナーはそのまま前のめりに倒れこむ。
前に立っていた分身が押し倒される。
のどを貫かれたランナーは、分身を腕でつかんで噛みつこうとしている。
ステッキを両手でつかんで抵抗するよう、分身を操作する。
分身が力負けして倒される前に、俺は回り込むように動く。
背後に忍び寄り、側頭部からナイフを突き入れる。
塵となり、魔石が残る。
バルコニー側のドアが、めきめきと大きく軋む。
「ドア、破られるっス! そっちはあたしが!」
「オーケー! 廊下は俺が防ぐ!」
廊下側から、続々とゾンビが現れる。
もはや数えることも難しい。満員電車から降りてくるようなありさまだ。
いったい、どこからこれだけのゾンビがわいたのか。
音に引き寄せられて、他の部屋から集まったのかもしれない。
それにしても、ちょっと量が多すぎるぞ!
「ウオアアア」
「アア……」
ナイフや分銅で相手するには密集しすぎている。
まずは、ばらけさせる!
立てかけておいたステッキをつかむ。
なだれ込んでくるゾンビの先頭に向けて、大きく踏み込む。
「うりゃああ! フルスイングっ!」
ノックバック効果が発動し、面白いようにゾンビが吹き飛んでいく。
廊下へ押し返すのではなく、部屋の壁へぶつけるように吹き飛ばす。
後続のゾンビたちは倒れたゾンビを踏み越えて進んでくる。
「キリないな!」
背後からはトウコの銃撃音が聞こえる。
六発の銃声ののち、銃声の響きが変わる。
銃を取り換えてオートマチック拳銃を使いだしたようだ。
「こっちも数が多くて押されてるっス!」
横目でバルコニー側を確認する。
うお、数が多い!
廊下側と違い、バルコニー側の敵は過去のウェーブで倒していない。
その分だけ、流入が増えているんだ!
「よし、そっち俺が受け持つ! トウコは廊下側を頼む!」
「お願いするっス! もうすぐリロードっス!」
攻撃対象を廊下側に切り替えたトウコが、残弾を撃ちきった。
すべての弾丸はゾンビの頭部へ命中し、ダウンさせる。
だが、後続のゾンビがそれを乗り越えてやってくる。
「判断分身! 一番近い敵を狙え! トウコを守れ! 回収作業はやめだ!」
判断分身の条件を変更し、防衛に回す。
時間稼ぎ程度にしかならないが、トウコのリロードまで持てばいい。
俺はバルコニー側へ向かう。
「シャャアッ!」
「カァァッ!」
二匹のランナーがバルコニー側から迫る。
「分身の術! 突っ込め!」
俺は二体の通常の分身を生み出し、突撃させる。
細かい操作はしていられない。
正面からぶつかり、相手の勢いを削ぐ。
はじき返された分身は塵と消える。
動きを止めた二匹の間を駆け抜けるようにして、割って入る。
その場で回転するようにナイフを振るい、二体の首を切り裂く。
血を噴き上げて倒れるのを尻目に、さらに踏み込み、敵中へ。
「うおらっ!」
前蹴りを腹にぶち込み、ゾンビを吹き飛ばす。
後続を巻きこんで転倒させる。
今、とどめを刺す余力はない。
トウコのリロードが終わるまでの間、ここをしのぐ。
転倒に巻き込まれなかったゾンビが、つかみかかってくる。
俺はその腕をつかんで、スイングし、別のゾンビにぶち当てる。
「ストライクっ!」
ボウリングのピンのように、ウォーカーがなぎ倒される。
これで、少し空間が開けた。
倒れているゾンビの頭部へ、ステッキを振り下ろし、ブーツで踏み砕く。
転倒しているゾンビを処理しなければ、いずれは立ち上がってくる。
倒して死体になっているものは特に優先してつぶす。
「はあっ! なかなかしんどいなコレ……」
俺は大きく息を吐く。
普段なら体力のステータスのおかげもあって、あまり疲れずに戦える。
だが、今回はこれまでで最大の敵の密度だ。
動き続けていては息が切れてくる。
くそ、自分のダンジョンなら体力回復丸があるんだが!
今回は【薬術】でのドーピングもない。
使い慣れた装備もない。
それが、俺の火力や持久力を落としている。
ウォレットチェーン分銅もないよりはマシだが、いつもの分銅に比べて短い。
中距離攻撃手段としては使えない。
手裏剣がないから、距離を取って始末することもできない。
壁を使って戦うにも、ゾンビの動きを止めるためにまんべんなく動く必要がある。
一人で戦う場合は、距離を取ったり位置を変えることができるが、今はそうはいかない。
前線を支えないと、背後のトウコが危険になる。
一人でカバーするには、敵の数が多い!
ゴブリンと違って、ゾンビは行動に考えがない。
構えて立ち止まったり、距離を取ったり防御行動をしない。
それが厄介だ。
ひたすらに前進。ただただ俺を狙ってくる。
行動は読みやすいが、密集したゾンビには格闘を仕掛けることが難しい。
バラけさせて孤立したやつを狙うしかない。
【回避】スキルが安全な位置を示してくれるとはいえ、囲まれてしまうと安全圏が少ないのだ。
俺は後ろに下がりながら、チェーンを振るい、ゾンビの足に巻き付ける。
足を払うように引き上げ、転倒させる。
何もかもがいつもとは違う状況。
そして、いつもと違う決定的なこと。
――それは、死の気配だ。
ゾンビの群れは、ひたすらに俺を食おうと迫ってくる。
殺そうとするだけではない。俺の肉を食おうとしている。
その生理的な嫌悪感。
一手間違えば、すぐに死に直結する緊張感。
焦りが、恐怖が俺の体を鈍らせる。
そして、不運だ。
ありえないようなミスが誘発されるのだ。
さらに後退しようとしたところ、何かにつまずく。
――いや、倒れていたゾンビに足をつかまれている!
「しまっ――」
俺はバランスをくずして倒れかけ――
――ゾンビの腕が、銃撃で吹き飛ぶ。
自由になった俺は、からくも背後へ手をついてバク転する。
「おまたせ! リロード完了っス!」
「ナイスだトウコ!」
廊下側の敵は途切れている。
バルコニー側の敵も、かなり減らすことができた。
もう一息だ!
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