お宝発見! 物資があれば、戦える!
明かりの灯された三本立ての燭台が、周囲にあたたかい光を投げかける。
「やっぱ、明るいと気分もマシになるな!」
俺は【暗視】があるとはいえ、緑色の視界で味気ない。
やはり、温かい自然な光のほうが心は落ち着く。
自分のダンジョンでは【隠密】のおかげで暗さが安心につながるんだけど、ここではそうならない。
「あれっ? あんなところに箱があるっス! 前まで見落としてたなあ……」
部屋の隅、窓際に木製のチェストが置いてある。
大き目の木箱で、宝箱に近い。
「宝箱みたいなもんか? 単なる収納家具か?」
チェストは衣装ダンスみたいな役割で使われていたりするらしい。
俺のダンジョンの宝箱に比べると、場になじんでいる。
この洋館の家具のように見える。
「この部屋で明かりがあるのははじめてなんスよ」
「へえ。じゃあ、トウコ。開けてみろよ」
「店長どうぞっス。窓の外は見ないように……なんか見えると怖いんで……」
えぇ?
窓の外になんか見えるの?
箱は窓際にある。窓の外を見ずにそこへ行くのは難しい。
目をつぶっていく手もあるが、それはそれで危険な気がする。
「そう言われると……何か見えそうな気がしちゃうだろ。ヘンなフリやめろよ……」
「窓の外に笑ってる女が見えたことあるっス。ここ、二階なのに……」
「だからヤメテね!? ま、俺は窓際に近寄らない! ――判断分身の術!」
俺は【判断分身の術】を発動し、いつものように箱をあさらせる。
自分は安全圏へ避難して、片目片耳を塞ぐ。
「店長、なにしてるっスか?」
「トウコも同じようにしろ。罠対策だ。光ったりうるさい音が鳴ったりするかもしれない。爆発したりな」
「ビビ……真面目っスね」
「うるせーわ! ケガしないためならビビってもいいんだ!」
俺は勇者じゃないんだから、正々堂々と宝箱を開けたりしない。
人の館の収納家具をあさるのは勇者だけの特権じゃない。
「行け! 箱を開いて中身をここに持ってこい!」
幸い、箱に罠はなかった。
分身は何往復かして、中身を俺たちの前に並べる。
シーツ、水差し、酒瓶、彫刻の施されたナイフ、宝石箱が並べられる。
「おお! ナイフあるじゃねーか!」
銀のような材質でできた柄は彫刻が刻まれ、豪華な装飾が施されている。
鞘もついている。
だが、刃は短い。刃渡り十センチほどだ。
芸術品を兼ねた、護身用の短剣だろう。
「店長使うっスか?」
「ああ、使うぞ。ちょっと短いから【片手剣】扱いにはならないか……」
振ってみても、スキルが乗った感覚がない。
これは【片手剣】というには小さすぎる。
それでも、刃物は刃物。サビもなく、ちゃんと研がれている。
【暗殺】や【投擲】には使えるだろう。
鞘を腰の後ろにさしておく。短いが、クナイの代用だ。
「まあ、使えそうだ。宝石箱はトウコがあけてくれ」
「リョーカイっス! ……弾丸と、魔石が五つ入ってたっス」
「んじゃ魔石は俺がもらう。で、酒瓶だが……」
「飲んでみるっスか?」
「いや……こんな得体のしれないもの飲むわけ……」
俺は酒瓶の栓を開け、匂いをかぐ。
強いアルコール臭がする。
「お、いいぞ! これは使えそうだ!」
俺はシーツをナイフで切り裂いて、細いひもを作る。
その先端を酒で濡らし、火をつける。
「あっ! 燃えたっス!」
「アルコール度は十分高いみたいだな。これで火炎瓶が作れるぞ!」
スキルでクラフトするまでもなく、この酒瓶に布をねじ込むだけでいい。
「ゾンビをまとめて焼き払う定番武器、火炎瓶っスね!」
「やっぱり火を手に入れたのはでかい! 酒がもっとあるといいな」
現代日本なら、いつでも火や水は手に入る。
食べ物も、電気も、情報もすぐに手に入る。
なんて恵まれているんだ。
豊かな状況に気づかず、無為に過ごしてしまっている気がする。
時間を無駄にして、やるべきことを後回しに暮らしている。
だけど、ここにでは一分一秒も無駄にできない。
手に入った物資をやりくりするしかない。
小さなナイフと酒瓶を俺達はありがたがっている。
ここでは、そんなものすら貴重なんだ。
「酒っスか……。一階の食堂にあるはずっス。油とかも。あと、食器類とか調理器具……ナイフや包丁は武器になりそうっスね」
食堂、宝の山だな。
だけどそこは――
「――食堂にはボスがいるんだったな。ボスと戦わずに物資だけ回収できそうか?」
「うーん。うまくやればいけるかも……。試したことないっス」
トウコには銃があるから、武器を取りに行く考えはなかったんだな。
「ほかに探索すべき部屋はあるか? それか、戦いやすい場所とか」
「あたしは開けた場所のほうが戦いやすいっス。この部屋か、エントランスホールが手ごろっスね」
「んじゃ、ここで四ウェーブを戦おう。そろそろか?」
「そろそろ始まるっスね! 四ウェーブは敵が多くて、タフな奴が混じるっス。頭を狙うんスよ!」
ゲームのようにウェーブ開始の合図などない。
さっきのボマーが現れたときのように突然、敵は押し寄せてくる。
「ウェーブの終了って、全部の敵を倒す必要はないのか?」
「ないっス! さっきまでのウェーブで発生したはずの敵はどっかに残ってるっス」
特定の時間になると敵がわく。そして、その敵は倒さなくてもウェーブは進む。
「つまり、探索しなかった部屋にも敵がわいていて、そいつらは残っているんだな?」
「そうっスね。だから、ウェーブが進むと探索はしんどくなるっス!」
「全部の部屋を回って物資をあさるのは厳しいわけだな……。だから暖炉の部屋行くのはしんどいって言ってたのか」
「そうっス。前はウェーブ一の間にウォーカーを倒しながら物資をあされてたんスけど……どんどんウェーブが進むのが早くなって、今じゃもうムリっス!」
理由はわからないが、ウェーブの周期が早まっている。
それが、攻略を難しくしている。
周期の早まりは、トウコ一人で挑んでいた時からだ。
これは俺がダンジョンに入ったこととは関係がないようだな……。
だから、二人プレイになったことで難易度が上昇したわけではない。
とにかく、早くクリアしないとヤバいってことはわかった。
「始まったっス! 廊下から足音がする! この部屋の入り口は二か所! 入ってきた廊下と、バルコニーに続くドアっス!」
「よし! 迎え撃つぞ!」
「敵が部屋に入ってから倒してほしいっス! 部屋の外で倒すと、死体をつぶせないんで!」
「ネズミ対策ね。了解だ!」
俺は【判断分身の術】をさらに二体呼び出す。
条件一、銃撃の射線を遮らない。
条件二、倒れた敵の頭部を破壊する。
ステッキを手渡しておく。
これで、トドメ要員は任せられる。
俺に余裕があれば直接操作して、戦闘もできる。
トウコも準備をしている。
手の中に光が集まり、自動式拳銃が握られている。
トウコは創り出したその銃をベルトに差し込む。
「お、リボルバーだけじゃなくて、オートマチックも出せるのか!」
「そうなんスけど、予備のマガジンがないからリロードが素早くできないんス!」
マガジン容量は十二発。
予備のマガジンがないから、マガジン交換ができない。
戦闘中にマガジンを抜いて、一発ずつマガジンに弾を込めて戻す。
……隙が大きい。
「基本はリボルバーで、そっちは予備か。……それだけの敵が来るってことだな!」
「リロードの隙は、店長に頼らせてもらうっス!」
「まかせろ!」
そして、第四ウェーブが始まった。
廊下から大量のゾンビが押し寄せてきた!
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