悪夢の攻略に向けて……!?
「ちなみに俺は【暗視】で暗くても動けるんだけど、トウコもそういうスキル取ってるのか?」
「あたしは【視覚強化】【聴覚強化】を取ってるっス! でも、暗いところはあんまり見えないっスね」
「遠くが見えるとか? 暗さには対応してない?」
「メガネしたみたいな感じっスね。くっきりハッキリ見えるようになるんスけど、明るく見えるようにはならないっス!」
「なら、よくこんな暗い中で戦えるな」
窓からさす月明かりが頼りだ。
電気など通っていないし、壁に松明が灯っているわけではない。
「まあ、慣れっスね。耳と、マップを覚えて戦ってる感じっス。遠くの敵は狙えないし、さっきみたいに乱戦になると危なくて撃てないっス」
「フレンドリーファイアか。そりゃ怖いな」
味方に攻撃が当たらないなんて、やさしい仕組みはない。
オトナシさんの魔法でも、俺はヤケドしかけたからな。
銃で後ろから撃たれたら、痛いじゃすまない。
「なら、明るさ対策が必要だよな。いつもはどうしてる?」
「さっきボマーが出てきた部屋が寝室なんスけど、あそこにロウソク立てがあるっス。ほかにもいろいろと……」
「なら、そこに向かおう。その前に、この部屋でもうちょい物資を漁ろう」
軽装で行こうと思ったが、今回はそれでは通用しない気がする。
俺は鏡の部屋と衣裳部屋で準備をする。
ステッキは武器として頼りない。
でも、いまはそれしかこの部屋に武器として使えそうなものはない。
なので、使えそうなものを五本選んで持っていく。
短すぎたり細すぎるものは使えない。
選んだステッキは、分身に使わせる。
俺はまともな武器を手に入れるまでは、分銅と体術で戦おう。
やはり、慣れた武器や練習した技術を頼るのがいい。
アドリブは最小限に。それが俺のスタンスだ。
衣裳部屋から持ってきたズボンを、即席の袋にする。
裾を縛って、ベルトで肩から掛ける。
不格好だが、入れ物は必要だ。
戦うときは置くか分身に預ける。
ここに、ステッキも入れておく。
ガチャガチャと音が鳴るので【隠密】は考えない。
どうせトウコと二人なので【隠密】を主とした行動はできない。
物資を漁っている間もトウコから情報を聞き出す。
「あと、ゾンビ以外にも敵は出るっス。別にゾンビ専用じゃないっス!」
「マジか。どんなのが出る?」
どうせ、ロクな敵じゃないんだろうけど……。
「動く鎧、動く人形、ネズミ……ネズミがヤバいっス!」
トウコの顔色が悪い。
何か嫌なことを思い出したのかもしれない。
「なんでネズミがそんなにヤバいんだ?」
「数が多いっス。銃じゃ倒し切れなくって詰むっス!」
「ああ……相性か」
銃は単体攻撃だし、リロードの隙がある。弾切れもある。
強そうに見えて、弱点も多い。
「それに、あいつらの攻撃はえぐいっス! 強くないけど、死ぬまでカジってくるっス……体中をかじられて死ぬのは……サイアクっス……」
トウコは顔色を真っ青にして、自分の体をかき抱く。
ネズミが苦手な未来の猫ロボットみたいになっている。
「俺も、範囲攻撃できるようなスキルは持ってないぞ。……ネズミ対策考えなきゃな」
オトナシさんがいれば、火魔法で倒せるんだけどな……。
外に出られなくなることは想定外だったから、助けは呼べてない。
死んで外に出れたら、電話で呼ぶか?
でも、オトナシさんを呼んでもクリア不可能な難易度だったら、どうする。
巻き込んで一連托生、三人でここに閉じ込められることになる。
それは……。どうだろう。
よく考えてから、だな。
「ネズミはまず、出ないようにすればいいっス。あいつらは死体を放置するとわいてくるっス……」
「死体を食べにくる、のか……。死体はなるべく早めにつぶそう」
「なるべくじゃなくて絶対っス! ゾンビに殺されるよりネズミに殺されるほうがヤバいっス! あいつら、マジでコワいっス!」
トウコはつかみかからんばかりの勢いで、ネズミのヤバさを訴える。
「わかったわかった! 死体つぶし優先な。そうしよう」
ネズミのヤバさはまだ目にしていないが、これだけ言うんだから信じるしかない。
「よし。とりあえず寝室へ行って明かりを確保するぞ!」
「リョーカイっス!」
鏡の部屋から寝室は廊下を挟んですぐだ。
さいわい、廊下に敵はいない。
「この穴、踏まないようにな」
「りょっス!」
略しよる。
足元にはさっき俺が踏み抜いた床の穴がある。
小さな穴だが一応は大きく避けて通る。
妙な不運が起きて、床が抜けて一階に落ちるとか、いやだし。
「寝室から足音がするっス! ウォーカーとランナーぽいっスね!」
「よし。先に入って倒してくれ!」
さっきと同じミスはしない。
ここは、状況や間取りの分かっているトウコが戦うのがいい。
俺が前で戦うと、誤射の心配がある。
俺はトドメ要員、サポートに徹することにする。
「んじゃ、突入っス!」
「ゴーゴーゴー!」
勢いよく部屋へと駆けこむトウコに続く。
部屋には大きな窓があり、廊下より明るい。
だが、明かりはついていない。
ロウソク立てはあるが、火はついていない状態か。
「アア……ウァ」
「シャアアァッ!」
ゾンビがこちらに気づく。
俺達は堂々と部屋に突入したので、バレてもかまわない。
「死ねっス!」
トウコが銃を撃つ。連続して二発。
狙い違わず命中した弾丸は、二匹の頭部をぶち抜く。
「ナイスショット!」
俺は倒れたゾンビの頭をブーツの底で踏みつける。
ぐしゃり、と妙に柔らかい手ごたえで、頭部がつぶれる。
気持ちいいような、悪いような……ヘンな感じだ。
これは俺の筋力や攻撃力が高まったわけではない。
ゾンビが柔らかいからだな。
「クリア! この部屋に敵はいないっスね! ロウソク立てはあそこっス!」
トウコは生成された弾丸を回収しながら言う。
大きな寝台の枕元に、サイドテーブルがある。
その上にロウソク立て……燭台が乗っている。
これが、目当ての品だ。
蝋燭が三本立てられる燭台だ。
手に持つこともできそうだ。
だが、火はついていない。周囲を探しても火をつける道具がない。
なんで、着火道具をセットで置いてないんですかね!?