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気のせいかは、だいたい気のせいじゃない!

「ん……? いや、気のせいか……」


 鏡に、ちらりとなにか映った気がする。

 さっきから、背後に気配を感じてばかりいる。


 場の空気に呑まれたか。


「いや、気のせいじゃないっスよ! うしろっ!」

「えっ!? うわあっ!」


 すぐ後ろ。俺の首筋にかじりつこうとするゾンビがいる。

 俺は前に身を投げ出し、距離を取る。


 ゾンビのくせに無言で背後を取るとか、どういうことだよ!?


「――いつの間にこんなに近くに!」


 俺は振り向きざまにステッキで殴りつける。

 (シャフト)がゾンビを打つ。

 ゾンビはよろけたものの、ダメージは小さい。


 やはり、軽い棒では威力はそれなりだ。

 強く叩いたら折れてしまいそうだ。


「なら、これでどうだ!」


 俺は(ステッキ)の先端――石突で突きをくり出す。


「アガッ」


 突き込んだステッキが、ゾンビの腐った眼球を貫く。

 そのまま、さらに力を込める。


 濁った体液が噴き出す。

 そして、杖にかかる重みが消える。

 ゾンビが塵になったんだ。


「おっと。ついヤっちまった、な!」


 俺は生成された魔石を空中でキャッチする。

 これで四個目の魔石だ。

 クラフトするには少ない。


「おおー。かっけえっス! あたしもそれ、やりたいっ!」

「銃だと遠距離で倒すから、できないんじゃね?」

「そうっスねえ……。倒れたゾンビにトドメをさすときもできないっス。ちぇー」


 残念そうに口をとがらせるトウコ。

 あえてゼロ距離射撃すればできるだろうけど、危険だな。


「しかしこの鏡……なんか見ているとヘンな気分にならないか?」

「なんか、つい見入っちゃう感じあるっスね」


 罠なのかもしれない。

 なんらかの特殊効果がある、とか。

 あんな距離まで近づかれながら気づけないなんて、おかしい。


「とりあえず、部屋を出よう」

「リョーカイっス」


 だが、部屋からは出られそうにない。

 部屋のすぐ前にゾンビがひしめいている。


「おいおい……どっから湧いてきやがったんだ!」

「ゾンビはそのへんから、わくっスよ!」

「その辺って! しかも早すぎるだろ!」


 さっき一掃したばかりの廊下だぞ。

 そこにもう、湧いている。


 リスポーンするにしても、早すぎる。近すぎる。

 爆発ゾンビ(ボマー)がいた部屋から出てきたのか?


 俺はステッキを突いて、ゾンビを押し返そうとする。

 だが、石突はゾンビの腹部を貫通してしまう。

 そのせいで、俺はバランスを崩す。


 これは、意図したことではない。

 やわらかすぎるのも考えものだぞ!?


「げっ!」

「ウアアアァ!」


 突き刺さっているステッキをものともせず、ゾンビが前に踏み出してくる。

 その重みで、さらに深く杖が体に埋まる。


 腐った体液が噴き出す。

 ああくそ! 汁でた! ゾンビ汁がはねた!


「着替えたばっかなのに、ふざけんなっ!」


 俺はつかみかかろうとする腕をかいくぐり、ゾンビを蹴り飛ばす。

 その勢いでステッキをひき抜きながら背後へ跳ぶ。


 ゾンビは後ろによろける。だが、他のゾンビが支えになって倒れない。

 五匹ほどのゾンビが鏡の部屋へと侵入してくる。


 数が増えると、ゾンビは脅威だ。

 一体一体は強くない。集団になると、手が付けられない。

 五匹程度なら、まだなんとかなる。


 ステッキでは打撃力も耐久力も不安がある。

 だけど、スキルを使えばいいのだ。


 【フルスイング】のノックバック効果は、武器が受ける反動を小さくして相手を大きく吹き飛ばす。

 ゾンビどもをなぎ倒せる。


「まとめて吹き飛べ! ――フルスイン……ぐあっ!?」


 踏み出した足が、ゾンビの体液で滑る。

 だが【歩法】のバランス感覚によって踏みとどまり、なんとか転倒を免れた。

 そう思った瞬間、体重を乗せた後ろ足が床を踏み抜いた。


 ぐらり、とバランスが崩れる。

 【フルスイング】は不発に終わる。


「な……なにっ!?」


 床板が腐っていたのか、さっきの爆発ゾンビの爆発の影響か……。


 踏み抜いた床板に足がはさまり、激痛が襲う。

 俺は後ろ向きに倒れようとしている。


 ゾンビたちが俺にのしかかるように、手を伸ばしてくる。


 ――意識が加速する。脳が覚醒する感覚。


 このまま倒れては、マズイ!


 倒れてしまえば、自分の体重で、はさまった足をさらにひねってしまう。

 動けなくなれば、()()()()()()の俺はすぐにやられる。


 なんとかしなければ!


「――分身の術っ!」


 術が発動する。

 分身が背後に現れて俺を支える。


 よし、これで転倒は(まぬが)れた!


 さらに、次の術を準備する。

 あせるな。急げ! 集中しろ!


 俺を食い殺そうと、ゾンビたちが迫る。


 まだ、術の発動には時間がかかる。


 ゆっくりと引き延ばされた時間のなか、ゾンビの汚らわしい手がのびてくる。

 つかまれてしまえば、術は発動できない。


「間に合え!」


 ぎりぎりのところで、準備が整う。


 ――【入れ替えの術】が発動する。


 術の対象は、背後の分身だ。

 瞬時に、俺と分身の位置が入れ替わる。


 稼いだのは、わずかな距離。だが、この距離は大きい。

 足がハマった床の穴から抜け出して自由になる。


 分身が俺にかわってゾンビに押し倒されようとしている。


 俺は痛めていないほうの足で跳躍し、高く跳びあがる。

 空中で回転しながらステッキを振り抜く。


「うりゃあああっ!」


 今度こそ【フルスイング】が発動する。

 インパクトの直前で【分身の術】を解除する。分身が消える。


 先頭のゾンビにノックバック効果を乗せたステッキが打ち込まれる。

 ゾンビが勢いよく後方――ドアの外へと吹き飛ぶ。

 さらに振り抜く勢いのまま、残りのゾンビを次々にステッキがとらえる。


 【フルスイング】は振り抜くまでの間、ノックバック効果をまとい続ける。

 ゾンビたちが次々と背後へ吹き飛んでいく。


 あるものは壁にぶつかり、またあるものは床に叩きつけられる。


 俺は足をかばい、手をついて着地する。

 満点の着地とは言えない。だが、最初の失点は取り戻せた。



 トウコが前に出る。


「死ねっ! 死ね死ね死ねッ!」


 トウコが廊下に倒れるゾンビの脳天を銃弾でぶち抜いていく。


 俺の打撃で十分なダメージを与えていたゾンビは銃弾を受けて塵となる。

 そうでなかったゾンビは、頭を踏み砕かれ、塵と化す。


 すべてのゾンビが塵となり、静寂が戻る。

 トウコがはあはあと息をきらせながら振り返る。


「……マジやばっス! 店長、やられたかと思ったっス!」

「これが例の不運(ハードラック)ってやつか? (ダンス)っちまったか?」


 このダンジョンでは、不運が起こりやすい。

 疑わしいと思っていたが、信じざるを得ないな!

没タイトルシリーズ!

■やわらかゾンビと、やわらか忍者!?

■逃れられない不運の連続!?

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