ガンファイア オア トリート!
気付けば二百話を突破していた!
トウコが鏡に映る姿を確認している。
結局、ロングコートを選んだ。
貴族とか吸血鬼が着てそうなものだ。
裾は引きずりそうなほどに長い。
足さばきの邪魔にならないかと不安だが、本人は着慣れているらしい。
「ハロウィンのコスプレみたいになるかと思ったけど、案外似合うじゃないか」
ロングコートと銃は鉄板の組み合わせだな!
トウコが銃を構えてポーズを決める。
「お菓子くれないと射殺するっスよー!」
「強盗じゃねえか!」
靴は膝上までの編み上げブーツだ。
脱ぎ履きが面倒だろうな……。
「その靴、動きにくくないのか?」
「イマイチっスけど、かわいいからオーケーっス! あと、膝をすりむかなくて済むっス」
「なら、ズボンにしたらどうだ?」
もともと履いていたスカートとパーカーはコートの内側に着たままだ。
ぶかぶかのパーカーで、スカートは隠れて見えない。履いてない感。
腿や尻は守られない。
「かわいくないからナシっスね」
「あ、そう」
トウコはあたりまえみたいな顔で言う。
カワイイ重視で装備選ぶとか、俺には考えられないことだ。
けどま、本人がいいならいいだろう。
ちなみに俺は着てきた上着を脱いで手に持っている。
ジャケットの内側に着るのはムリだから、しょうがない。
このジャケットの丈はトウコのと違って短い。腰までだ。
俺はしゃがんだり壁を走ったりする。丈が長いと邪魔なのだ。
ほどよい厚みがあるのに柔らかく、かなり上質な革でできているとわかる。
買ったら数十万はしそうな高級品だ。
気に入ってしまった。
「これ、いいな。持ち出せないものか……」
「ムリっすねえ……宝石とかも落ちてたりするんスけど、ダメっス」
やはり、このダンジョンでも同じか。
ダンジョンのアイテムは持ち出せない。
共通ルールなのかもしれないな。
ダンジョン、ケチだわ!
ジャケットの内ポケットにウォレットチェーン鎖分銅をしまう。
忍び装束と違ってフトコロがないのが不便だ。
打撃武器として使っている花台は傷んできている。
まあ、本来は武器じゃないからね。しょうがないね。
「これ、どうっスか?」
「おっ! ステッキか。紳士のたしなみだな!」
トウコが指さしているのはステッキ立てだ。
武器として使えるかもしれない。
紳士のたしなみ、ステッキだ。
俺はその中から一本選ぶ。
何本も持っていると動きにくいからな。
普段みたいに鞘や腰袋がないので、持ち運びに難がある。
今回は最小限の装備で行こう!
長さは九十センチほど。軽い材質だから強度が心配だ。
持ち手はエル字になっている。
金属製で華美な装飾が施されている。
残念ながら仕込み杖になっているものはなかった。
仕込み銃とか仕込み刀を期待したんだけど……残念。
「ちょっと強度に不安があるな。軽いから打撃力も微妙か?」
武器に適したステッキもあるだろうけど、これは違う。
装飾品としての色合いが強い。
オシャレアイテムなんだ。
「まあ、ないよりはマシっスかね」
「一応持ってくか」
「んじゃ、あたしはコレ持ってくっス」
俺がステッキ、トウコが花台を持っていく。
花台はトドメ用。銃弾節約用だ。
ちなみに花台は銃を撃つときにはポイっと投げ出している。
雑な扱いだけど別にかまわない。
トウコの銃はシングルアクションだ。
両手があいていないとファニングショットできない。
片手でも撃てるが、親指で撃鉄を起こして引き金を引くという動作になる。
ダブルアクションの銃なら引き金を引くだけでも撃てるんだけど。
俺が上着を持て余しているのを見て、トウコが言う。
「その上着は置いてっても平気っすよ。ダンジョンから出るときは一緒に出てくるっス」
「へえ!? 持ち込んだものが消えないのか。それって便利だな。俺のとこだと失くしたアイテムはそのままダンジョンに残る感じだ」
俺のダンジョンなら、時間が経たなければあとで拾えるけどね。
「壊れてもなぜか直るっス! ケガを治すついでなんスかねえ?」
壊れても修復される。失くしても戻ってくる。
そうじゃなきゃ、死んだ場合に服が大変なことになる。
死んでも復活するってほうがありえないんだけどね。
「ケガが治るってのも、なんか怖いよなあ……」
「え? なにが困るんスかね? 治らなかったら外に出てすぐ死ぬことになるっスよ」
死ぬからには大ケガしている。
その状態で外に出されたら、また死ぬだけだ。意味ない。
トウコがさっきダンジョンから出てきたときも無傷だったよな。
「そりゃそうだが。……いや、俺のダンジョンの場合はケガは治らないんだ。リンのダンジョンも同じだ。ということは――」
トウコが素っ頓狂な声を上げる。
「あれっ!? リン姉の呼び方が変わったっスね。なんかあったんスか!?」
「気になるところ、そこ!?」
トウコがうちに来たときはオトナシさんって呼んでたからな。
今それは、関係ない。
「リンの希望でだ。それは置いといて……。俺はダンジョンに入るときに移動していると思ってたんだ」
「え? ここもそうじゃないっスか?」
トウコは不思議そうな顔をしている。
同じようで、全然違う。
「移動ってのはさ、ドアをくぐるみたいな感じ。ダンジョンと自分の部屋を行ったり来たりしている、と思ってたんだよ」
「だから、ここもそうじゃないっスか?」
「いや……ダンジョンで死んで、冷蔵庫の外に排出されると体が治るんだろ? 壊れた服も元通りだ。それって……入ったときと同じものが外に再生成されてるんじゃないか?」
体はまあわかる。壊れた品物すら復元される。
たとえば入ったときの情報が保存されていて、出てくるときに読み出しているんだろうか。
死んだ体は捨てられて、入る前の状態を読み出す。
「え? ちょっと、わかんないっス。えーと……ケガが治った状態で外に出てくるんじゃないっスか?」
「そうとも考えられる。けど、違ったら? 入ったときと出てきたとき、同じ自分なのかな……」
俺のダンジョンでも同じことが言える。
ケガは治らないけど、同じ姿で再生成されているのかもしれない。
同じ体、同じ姿、同じ意識を持った別人になっているのかもしれない。
「うええ? わかんないっスよ! ダンジョンに戻ってもあたしの死体が残ってるわけじゃないし、あたしはあたしなんだからいいんじゃないっスか?」
「そっか……そうだな! 考えてもしょうがないことを言ったわ。俺は俺だ。それでいいか!」
トウコは深く考えない。それでいい。
俺はこういうの、気になってしまう。
でも、気にしても仕方がない。
自律分身のときも似たことを考えた。
結局のところ、結論は同じ。
俺の意識、記憶があるならそれは俺だ。
問題ナシ! そういうことにしよう!
毎回、似たことで悩むクロウ……。
ダンジョンは、いろいろと考えさせられるのです。