銃はゾンビより強し!
このダンジョンでは、不運が起こりやすい……らしい。
運なんて不確かなものは信じにくいんだけど、ひとまず信じる。
「ちなみに、弾丸はあと何発あるんだ?」
「さっき三発撃って、三発回収したから六発っスね!」
ということは、もともと六発持っていたんだな。
プラスマイナス、ゼロか。
弾丸が増えないとなると、戦い続けられない。
このペースで行くとすぐに弾丸不足になる。
倒すのはトウコ。トドメは俺。
そうすれば、弾丸の節約になる。
「この先、銃弾のためになるべく敵はトウコが倒す。それでいいか?」
「イイっスよー!」
俺が倒すと魔石になっちまうからな。
「じゃ、俺がサポートする。動きを止めるとか、倒さない程度に攻撃するって感じか?」
「でも、普通のゾンビならヘッショ一発っスよ?」
頭を撃てば、一発で倒せる。
倒せるが、死体が残る。
「なら、倒した後の死体撃ち……トドメは俺に任せろ。弾丸を節約するんだ」
倒した時点でドロップが確定する。トウコが倒せば弾丸が手に入る。
アイテムを得るための死体破壊は、俺がやればいい。
これで一発節約だ。
「リョーカイっス! 手が足りないときは攻撃もヨロシク!」
ビシリとトウコが敬礼する。俺はうなずく。
「ああ、もちろんだ」
俺は敬礼を返す。
「でも、まだ足りないよな。――お前の弾丸って、ドロップ以外で手に入らないのか?」
いずれ弾切れで死ぬ。いつもそうなるとトウコは言っていた。
なら、弾丸はいくらあってもいい。
他の入手ルートが必要だ。
「最初に銃を作るときにフル装填されるっス。それで六発。あとは、物資を漁れば手に入るっスねー」
銃を作る……?
物資を漁る……?
「銃って……そういえばさっきは聞くヒマなかったけど、収納した銃を出したのか?」
収納スキルで、銃をしまったり、取り出したりできる?
そうなら、うらやましいが。
「収納? 違うっス。あれはあたしのスキル【銃創造】っス!」
「銃を創造……作り出してんのか! それって凄いんじゃね!?」
収納より凄いの来た!
物理法則を無視しまくっている!
「スゴいっスよね? カッコいいっスよね! あたしの能力はハジキっス! 拳銃にゾンビは勝てない!」
事前にクラフトした銃を取り出しているわけじゃない。
その場でメギャンと手の中に出すわけか!
「銃はゾンビより強し……名言だな!」
「わかってくれるっスか!」
無から銃を生み出している。
実体化した銃……のように見える。
「仮にだけど、その銃を俺に渡したらどうなるんだ? 使えるのか?」
ちょっとした興味だ。
【投擲】の効果が乗るか、試してみたい。
銃が撃ってみたい、というのもある。
俺が銃で敵を倒しても、弾丸は生成されない。
だから、俺が銃で戦ってもじり貧だ。
「うーん。無理じゃないっスかね? 手から離すと、数秒で銃は消えるっス。一応試してみます?」
「消える? 持続時間みたいなものかな。一応試してみようぜ」
「ホイ、どうぞっス」
トウコが手の中で器用に銃を回転させて銃把をこちらに向ける。
差し出された銃把をつかもうとして……手が空を切る。
すり抜けた!?
もう一度試しても、すかっと空振りしてしまう。触れない!
「あれっ! 触れないのか!」
「あー。こういう感じになるんスねー」
「スキルで出した銃だからか? 職業の問題か?」
俺は銃を装備できない?
……ゲーム的な縛りみたいなものがあるのか?
ちょっと不自然に思えるけど。
忍者が銃を使えてもいい。
時代によっては忍者も銃を使うんだ。
爆薬だって使いこなす。問題ないはずだ。
「職業が関係あるんスかね? ちなみに、あたしの職業はシューターっス」
「シューター? ガンマンとか射撃士じゃないんだな」
「あたしの趣味がガンシューティング……いわゆるシューターゲームだからっスかね?」
当然だが日本の女子高生であるトウコが銃に触れる機会はないはずだ。
だから実際の職業や体験のために現れた職業ではない。
ゲームのおかげで、シューターという職業が選べたってわけだ。
俺だって現実には忍者ではないけど……ブラック労働に耐え忍んできたから忍者の職業が選べたんだと思う。
「ふーむ。シューターって職業は銃を生み出したり撃ったりできる……のかな。ほかの職業だとその銃は使えない、とか」
俺の職業のせいではなく、トウコの職業――シューターのルールかもしれない。
【銃創造】で作った銃は本人専用だとか。
「そうかもしれないっスね! ま、いいんじゃないっスかー」
トウコは銃のしくみや職業に興味はなさそうだ。
気にならないか、普通……。
ま、俺が銃を撃つ必要はない。
【体術】があるから素手でも戦える。
でも、武器があればなおいい。【片手剣】か【打撃武器】が欲しい。
チェーンと防刃手袋だけでは心もとない。
俺は武器で戦うタイプ。忍具使いだからな。
「あとは……」
「店長、そろそろ二階に行ってもいいっスかね?」
トウコはチラチラと二階へ続く階段を見ている。
あ、つい会話に夢中になってしまった。
二階に行く途中だった。
情報収集、すり合わせは足りてないけど、しょうがないな。
「二階に行く前になにがあるか教えてくれ。行き当たりばったりで進めても危険だ。安全第一だ」
トウコは先の展開を知っているかもしれないが、俺は違う。
最低限のことは知っておきたい。
「そうっスねえ……。えーと、二階に行くのは物資が欲しいからっス。まずは靴がないと、危ないっス」
「俺もお前も裸足だからな。ガラスを踏んで死ぬようなハードな思いはしたくない」
死なないにしても、痛いのはイヤである。
「靴は大事っス。服もあるし、そこで弾丸も手に入るっス!」
「他には?」
「えーと、衣裳部屋のほうだと……鏡の部屋と寝室みたいな部屋があるっスね。鏡の部屋を通らないと衣裳部屋へは行けないっス」
一階からまっすぐに階段のびていて、踊り場で左右に分かれる両階段となっている。
トウコは左へ続く階段を見ている。
「一階との違いとか、何か危険はあるか?」
「ゾンビもいろいろ居るんスけど……素早いのとか頑丈なのとかいるっス。二階から素早いヤツが、そろそろ来るっス! あと、普通のが庭のほうから来るっスね!」
二階と庭から敵が来ると。
庭ってどこだ……?
「庭って……一階だよな? となると……挟み撃ちにされるってことじゃねーか!」
「そうっスよ! 先に二階に行けばよかったんスけど。……まあ、二人だしどうにかなるんじゃないっスか?」
投げやりな様子でへらりと笑うトウコ。
ちょっと雑じゃないか!?
トウコはへらへらしているから、危機的状況ではないはずだ。
二人いるから大丈夫、余裕ってことだよな。
こうなっては仕方ない。
「しゃあない! 階段で迎えうつか!」
「リョーカイっス!」
編集履歴 2022/06/25
題名変更(旧:エンター・ザ・冷蔵庫ダンジョン! その3)と読みやすさの調整