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遅くなんてない! その手を伸ばせ! その2

 数十と伸びた黒い腕が、トウコを引きずっていく。

 トウコをつかむ俺にも、黒い腕が絡みつく。


 踏ん張って抵抗してみたが、どうにもならない。

 俺達は冷蔵庫の中……黒い水面へと引き込まれてしまった。



 暗転。

 俺は古い洋館のエントランスに立っている。

 隣にはトウコがいる。つないだ手は、離していない。


 トウコと俺に絡みついていたあの不気味な黒い腕は消えてしまった。


「助けてやる、とは言ったものの……俺も引き込まれてしまったな! ははっ」


 俺は笑う。

 とりあえず、ここはダンジョンだろう。

 よくわからない状況だが、まだ無事だ。


「なに笑ってんスか! もしかして、考えなしっスか!?」

「考えなんてないわ! でも、ちゃんと助けてやるさ。これからな!」


 トウコも笑う。

 泣き顔なんて、コイツには似合わない。


「さすが店長! 心強い……のかどうかわかんないっスね!」


 どうやれば助けたことになるのか、それはわからない。

 これから考えるしかない。


 俺は準備して、対策を立てていくタイプだ。

 今回みたいに突発的だと、予定なんて立てられない。

 だからまずは、情報を集めなくちゃな。


「ちなみに、さっきの黒い腕はなんだ?」

「最初はあんなものなかったっス……。外に出ても、アレがまたダンジョンに連れ戻してきて……詰んだっス」

「俺のダンジョンでは見たことないな。ここだけのものか?」


 うーむ。オトナシさんのダンジョンと俺のダンジョンは似ていた。

 地形は違うし、モンスターを倒した場合のドロップのルールも違っていた。

 でも、転送門は同じ見た目だ。黒い水面のような黒いもや。

 わずかに波打ってはいるが、ほとんど鏡のような静かな表面を保っていた。


 トウコのダンジョンの入り口は、ざわざわと不気味に(うごめ)いていた。

 もはや水面……液体とは思えない。


 そしてそこから伸びる腕。触手のように、うねうねと伸びる腕だ。

 あれは……なんなんだ。


「わかんないっスよ! とにかく、アレのせいでどこへも行けなくなったっス!」

「それに、出口はどこだ? 転送門はどこいった?」


 ダンジョンの入り口は固定だ。

 入ってすぐ、振り返ればそこに出口はある。


 あの玄関の外に、出口があるんだろうか。

 俺はドアを開こうとするが、ビクともしない。


 トウコは驚いた様子で言う。


「出口なんてないっスよ? え? 店長のダンジョンには出口があるんスか!?」

「いつでも出入りできるし、モノも持ち込めるぞ。ダンジョンのアイテムは外に持ち出せないが……」

「うそでしょ……。出入り自由!? あたしのダンジョンには出口なんてないっス! ズルいっス!」


 いや、出入り自由って普通だろ。

 ……そうでもないのか?


 ゲームだとダンジョンは奥へしか進めなかったりする。

 俺も最初、ダンジョンの階段が消えないかを疑ったりしたが……。


「え? じゃあ、どうやって外に出るんだ。さっき、お前出てきてただろ?」

「それは簡単っス! 死んだら自動的に外に出されるっス!」

「簡単じゃないよね!? 死んだらお終いだよね!?」

「死んだら、ダンジョンの外へ出られるっス。デスペナもあるんスけどね!」

「レベルが下がる……いわゆる経験値のロストか?」

「そうっス!」


 死んでも、本当には死なない。

 そして、デスペナルティがある。


 このダンジョンは、死んでも死なないタイプだ!

 リヒトさん(ブログ管理人)のダンジョンもそうだと言っていた。


 リスポーン(蘇生)可能なダンジョン。

 そういうダンジョンは、難易度が高い可能性があるという。


「マジかよ……ハードモードか!?」


 トウコがへらりと笑う。


「あたしもそう思ってたっス。だけど今は……ナイトメアモード(悪夢的難易度)っス!」

「マジか……」



 状況を把握するべく周囲を観察する。


 今いるのは広いエントランスホールだ。

 俺達の背後には玄関と思われる重厚な扉がある。


 ホールは二階まで吹き抜けになっている。

 正面には二階へ向かう階段がある。いわゆる両階段だ。

 一本の階段が踊り場に突き当たり、左右の階段へ続いている。


 階段の手すりは装飾が施されていて美しい。


 ホールの天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられているが、火は灯っていない。

 薄暗いが、明り取りの窓から差し込む明かりでぼんやりと見える。

 外は夜なのか、差し込んでいるのは月明かりのようなか細い光だ。


 だが、俺は【暗視】でしっかりと見えている。

 つまり、スキルは有効だ。

 ステータスウィンドウもいつも通り確認できる。

 レベルもステータスもいつも通り。この点は安心だ。



「出口がないこと、死に戻り可能だってことはわかった。それで、なにが問題なんだ? ちゃんと説明してくれ」

「説明っスか……。死んだら出られるけど、出ても連れ戻される。つまり脱出できないんス。死んだら経験値が減る。つまり、死に続けるとどんどんレベルが下がるっス。そうするとまた死ぬわけで……」


 トウコはげんなりした表情になる。

 そう言われれば、詰んでいるようにも思える。


「死ななきゃいいんじゃないか? 経験値を稼いで、レベルを上げる。強くなれば死なない。クリアしたら、出られるかもしれないぞ」


 対策はシンプル。死ななければいい。


「そりゃ、そうっスけど……死なないのがムズイっス……」

「一人ならそうだろうけどな。今は俺がいる。二人プレイならイケるだろ?」


 一人では無理な難易度でも、二人ならどうにかなる。

 俺のダンジョンもそうだ。一人で難しくても、オトナシさんに手伝ってもらえばサクサク進める。

 死んだり怪我をするリスクだって減る。


 トウコの顔に理解が広がる。


協力プレイ(Co-op)っスね! ……なんだか、イケる気がしてきたっス!」


 人数が増えると難易度が増えるゲームもあるけど……そうならないことを祈ろう。



「で、なにがムズイ? 敵が強いのか?」

「強いっていうか……えぐいっていうか……。ゾンビが出るっス。ほら……もう来たっスよ!」


 じっくりと説明を聞く時間はないらしい。

 敵は待ってくれない。


 トウコが指さす先、通路から人影が現れる。

 ずりずりと足を引きずり、うめき声をあげる人間。

 いや、人間と言っていいものか。

 その体は腐敗(ふはい)して、ところどころ崩れている。


 俺は顔をしかめる。

 ゴブリンがかわいく思えるな……。


「ゾンビか。しかも結構、グロい系だな……」

「グロいっスよ。でも、動きは遅いし簡単に倒せます――こんなふうに!」


 そういうと、トウコは手を俺に見せるように突き出す。


 トウコの手の中が淡く光り、その手の中に銃が現れる。

 ――回転式(リボルバー)拳銃だ。


 ゆらゆらと歩いているゾンビへと銃口を向け、ピタリと狙いをつける。

 トウコが引き金を引く。

 狙いはブレない。その射撃姿勢は、様になっている。


 乾いた発砲音と共に、弾丸がゾンビの頭部を撃ち抜く。

 腐肉が飛び散る。


 ゾンビがぐらりと、後ろ向きに倒れかける。

 続けて撃たれた弾丸がその頭部を撃ち抜く。


 ゾンビが塵となって消え、なにかが足元に落ちる。

 落ちたのは……弾丸か?


「とまあ、これがあたしの能力っス!」

「銃……か。すげえな!」


 俺のリアクションにトウコがニヤける。


「へへー。どうっスか! カッコいいっスか!」


 くるくると、銃を回してポーズを取っている。

 ガンアクションか。

 なかなかの手さばきだ。


「まあ、うん。それより、ダンジョンの中で銃って使えるんだな……」

「軽く流されたっ!? ……銃が使えなくてどうするんスか! ゾンビとくれば銃ですよ!」

「まあ、そうなんだが……俺のダンジョンはもっとファンタジーな感じでな。ゴブリンとか出るんだ。様子がずいぶん違う。銃が使えるのが意外なんだ」


 そもそも、ダンジョンの中では機械は使えない。

 スマホや時計などの電化製品は使用不可能のはず。


 銃もダメだと思うんだが……この冷蔵庫ダンジョンでは使える?

 ダンジョンによってこのあたり、ルールが違うのか?


 俺のダンジョンで銃が使えるかは試していない。

 試そうという発想もなかった。そもそも手に入らないからな。


「店長のダンジョンはファンタジーな感じっスか! こっちはゾンビでホラーな感じっス……取り替えないっスか?」

「いやだわ! っていうか、無理だろ」


 ダンジョンはクローゼットとか冷蔵庫にくっついているものだ。

 いや……冷蔵庫なら動かせるのか?



 そんなくだらないことを考えている場合じゃない。


 通路の奥から、新たなゾンビが現れる。

 二体だ。


 一目見て、コイツが倒すべき敵だとわかる。

 ゴブリンを見たときのような感覚。


 俺はハリウッド映画の主人公のように渋い顔をしてみせる。


「やれやれ……お客さんが来たようだぜ!」

「ノリノリっスね、店長!」


 ゾンビはコワい。グロい。

 難易度も高いという。


 それならせめて、明るいノリで行こう!

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえば、戦国時代の忍者は種子島などの火縄銃も使用していたそうですから、忍者の技能に銃器とか爆薬などの選択肢も出てきそうですな。 続きを楽しみにしておりますよ。
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