七階層! 走れ! 戻れ! つきさされ!?
地味な忍者ワーク!
俺達は階段で少し休憩して、七階層へやってきた。
「ここが七階層か……見た目は六階層と同じ感じだね」
オトナシさんが石畳や松明を見つめながら言う。
「ここって、誰が作ってるんでしょうね?」
「誰って……ダンジョンだしなあ。人間が作ってるわけじゃないと思う」
そういうモノだとしか……。
五階層までの洞窟であれば、自然にできたと言えなくもない。
だけど、石畳や松明のある迷宮風の階層は、人工物としか思えない。
ドアやイスなども、人間あるいは知性のある生き物が作る以外ないだろう。
ゲームでもそうだけど、なんでダンジョンなんてものがあるんだろう。
誰が用意しているのか……。
「ダンジョンって誰がどうやって作るの? システムさん」
あ、なんかヤバそうな質問を投げたぞ!
<不明です。または、権限が不足しています>
「あ、やっぱりね。もちろん、俺もわからない」
「わからないんですねー」
創作においてもダンジョンは謎の存在なことが多い。
現代世界に突然現れたりもする。
「ファンタジーなゲームとか異世界なら、神やダンジョンマスターが作ってたりするんだけどね。俺達のダンジョンは……得体が知れないな」
「そうですよね……」
少なくとも現実世界の人々に知られてはいけない禁忌だ。
ダンジョンやスキルの存在がバレるとペナルティがある。
中のものは持ち出せないし、ステータスも外では反映しない。
でも、スキルは弱まるとはいえ外でも使うことができる。
ダンジョンの中で食べ物を手に入れたり食べることもできる。
当たり前だが味もして、栄養も取れる。
ケガをした状態で外に出ても、傷は消えない。
ポーションで傷を癒して外に出ると、傷はちゃんと治っている。
外でケガして中で傷を癒した場合も同じだ。
仮想現実ゲームとは違う。ちゃんと実在した空間だ。
試した限り時間も同じように流れている。
「まあ、ダンジョンは異常なモノだと思うけど、こうして入れる。力も身につく。うまく使えばいいんじゃないかな」
「そうですねー。おいしい食べ物もありますし!」
美味く使う気満々だね!?
「さて、行きますか」
「はい!」
この部屋は階段のほかに出入り口が一つあるだけだ。
ドアはついていない。
その先は通路になっている。
長い通路で、奥に部屋の入り口が見える。ドアはない。
でも、この通路――
「――なんかイヤな感じがするな、ここ」
「え? ……な、なんですか?」
「悪寒がするというか……なにかヤバいって感じがする。罠か?」
「わ、わなですか……」
罠に【危険察知】が反応している!?
見たかぎりはただの通路だ。スイッチなどは見当たらない。
もちろん、見える範囲に敵の姿もない。
なにが危険だというのか……?
「一応、分身を先に歩かせてみますか。――分身の術!」
通路に分身を送り込む。
数歩ほど歩いたところで、分身が踏んだ石畳がガコっと沈み込む。
それと同時、床から鋭いトゲが飛び出してくる。
「げっ! 罠だ……!」
「きゃあっ!」
トゲは分身の足から腿を串刺しにする。
ダメージにより、分身が塵となって消える。
トゲは、ゆっくりと床に戻っていく。
「いやだっ! 分身さんがやられちゃいました!」
オトナシさんが取り乱して俺の服をつかむ。
「落ち着いて。分身は痛みを感じないし、大丈夫」
この説明も何度目か。
でも、分身がやられるのはびっくりするよな。
俺もかなりびっくりした。
結構、危険な罠だ。
食らったとしても即死ではないだろうけど……めちゃくちゃ痛いと思う。
戦闘中だったら足が潰されて、致命的だ。
宝箱じゃなくても罠はある。
床にも気を付けないといけないのか……。
「石畳を踏むと罠が発動する……石畳の隙間から細長いトゲが飛び出すんだな」
「すごく痛そうです……」
石畳はある程度デコボコしている。穴があったとしても遠目に見つけるのは難しい。
全部の石畳が罠のスイッチではないだろうけど……。
俺は刀を抜いて、さっき分身が踏んだ石畳を押してみる。
「反応しないな。踏んだ罠は解除されるのか? クールダウンか?」
「ゼンジさんの勘が当たっちゃいました……ここは怖いですね……」
さて、どうやって進もうか。
ここで引き返してもいずれは進むことになる。
一本道だからな。
逃げ道のない場所に罠とか、ズルくない?
「棒で床を叩いて進むのもいいけど……ここは分身で!」
「分身さんがかわいそう……」
オトナシさんが悲しげな表情になる。
やさしいっ。
「そんなこと言われても!? 分身は生き物じゃないからね!」
【自律分身の術】だったら俺ももっと丁寧に扱う。まだ温存だ。
こういう危険な仕事は普通の【分身の術】の役割だ。
分身を二体生み出す。
コストを節約するためにレベル3にする。
「並んで通路を駆け抜けろ! 罠ローラー作戦!」
分身が通路を駆けていく。
罠のスイッチを踏んでから発動にはタイムラグがある。
歩いていれば食らってしまう。
だが、走っていれば食らわないはずだ!
分身の走ったあとに、ザクザクとトゲが生えてくる。
やはり、走っていれば間に合う!
分身が部屋の入口へ到着する。
トゲは、しばらくすると床へと戻っていく。
床全体が罠というよりは、いくつかのスイッチがあるという感じ。
それさえ踏まなければいいわけだ。
トゲは引っ込んでしまうから、見て覚えるとか無理ゲーだけどね。
何か工夫がいるな。
「分身、戻ってこい! 今度は壁に触れながらだ!」
分身が壁に手を触れながら走ってくる。
壁際の床にもトゲの罠はある。
でも、壁には罠はなさそうだ。
そうして、分身の効果時間が切れるまで往復させた。
地道な作業! 忍者らしいぜ!
これで安全が確保できればいいのだ。
「これで、だいぶ罠は減ったかな?」
「見てるとひやひやしますー」
あとは、解除しきれていない罠をつぶせばいい。
「じゃ、今度は俺が行ってみますね!」
「ええっ! 大丈夫ですか!?」
「大丈夫。俺は危険察知もあるし、回避もあるんで。リンはちょっとここで待ってて」
「ううー。気を付けてくださいー……」
一応、腰袋のポーションもあるし。
即死しないなら、なんとかなる。
もちろん、食らうつもりはない。
俺は通路へ踏み出す。
走り抜けずに、一歩ずつ進む。
これは罠が解除されたことをしっかり確認して、オトナシさんと通るためだ。
オトナシさんは素早く動けない。
つまずいたりして串刺しになるところは見たくない。
防御力で耐えるのかもしれないけど、そういうわけにはいかない。
分身が歩いたあたりは【危険感知】の反応が薄くなっている。
最初に分身が踏んだ罠のトゲはもう床に戻ってしまっている。
一応、刀の峰で、石畳を叩いてみる。
「反応しないな……。一度発動した罠はしばらく作動しないんだな」
「トゲが引っ込んじゃうのが怖いですねー。また出てきそうでイヤですー」
オトナシさんが怖がるので、周囲の石畳を刀で叩く。同じ罠は反応しない。
「ほら、大丈夫。もうトゲは出ないよ」
「ほ、ほんとだ。でも、どれくらいのあいだ、反応しないのかなあ……」
「六階層の宝箱の罠は昨日の夕方に作動してから復活してなかった。だから同じなら一日かな?」
「な、なら安心ですね……」
じっくりと観察しながら進むと、ヤバそうに見える石畳がある。
あいまいな感覚なので、かなり集中しないとわからない。
あやしい箇所を叩いてみる。
すると、その石畳の周囲から数本のトゲが飛び出した。
「おおっ!」
「だ、大丈夫ですか!」
「うん。平気。基本的には踏んだ場所を狙ってトゲが出るみたいだ」
へこむ石畳が罠のスイッチになっている。
踏んでから発動までに時差がある。
そして、踏んだ石畳の周囲の隙間からトゲが出る。
スイッチとトゲの位置は連動している。
だからこそ、走って先に進めば無事なんだ。
もし、スイッチとトゲの位置が連動していないと厄介だ。
進行方向にトゲが出る仕組みだったら、走り抜けられない。
タイムラグがない場合も無理だな。
でも、この罠はそこまでは悪辣じゃない。
これはもう分身で確認済みだから、大丈夫なはず。
全部の罠が同じとは限らないから油断はできないけど。
それに【危険察知】が久しぶりに活躍している。
これがダメージ罠だからか。
閃光と爆音の宝箱には反応しなかったのは……ダメージのない罠だからかな。
いや、あの時は分身が宝箱を開けたんだ。距離が離れていたからかも。
しばらく刀で床を叩く地味な作業を続ける。
忍んでる! これぞ地味な忍者のお仕事よ!
この通路の罠はすべて無力化してやるぜ!
「よし、こんなもんかな!」
【危険察知】が知らせてくれる違和感もなくなった。
この通路はもう安全だ。
あとはこの罠が復活しないことを祈るのみ。
基本的には宝箱もモンスターのリポップも一日程度かかる。
ボスはもっとかかる。
同じ感じなら、罠も同じはず。
でも、油断はしないでおこう。
ちなみに壁や天井に違和感はないので、壁を走れば罠にはかからないな。
ちなみに【壁走りの術】は重量制限があり、人を抱えて走ることはできない。
もっとスキルレベルを上げれば可能になってくるかもしれない。
今回は、罠を無効化……解除する方法がわかった。
【危険察知】で罠が検知できることも知れた。
【危険察知】さんは頼れるぜ!
「さあ、行こう! これで進めるぞ」
「はいっ!」
地味ながら、七階層へのアタックは順調だ!
誤字報告ありがとうございます!