六階層のお宝……黄色いアレ!?
「宝箱か……罠を疑うわ……」
「私はいつも宝箱はすぐに開けちゃいますけど……気をつけなきゃですね!」
オトナシさんの言う宝箱はモンスターからドロップする宝箱だ。
俺のダンジョンでは、今のところモンスターから宝箱は落ちない。
魔石だけ落ちるのだ。
これはダンジョンのルールの違いだ。
オトナシさんのダンジョンのモンスタードロップ宝箱にも罠はあるんだろうか。
結構な数を開けても罠はなかったから、今のところはなさそうだな。
俺のダンジョンの宝箱は固定配置される。
毎回宝箱は気を付けて開けていた。
それでも食らっちゃう。
罠はちょっとトラウマだな。
「さて今回も分身を使って開ける。罠があるかもしれないから移動しよう!」
「はい! さすが、慎重ですね!」
「あ、そうだ。システムさんをここに残して移動できますか? 分身が見たものは俺には伝わらなくて、しゃべることもできないので」
分身は手足になって動いてくれる。
だけど、目や耳にはならない。感覚はないんだ。
「はい! じゃ、システムさんお願いねー」
オトナシさんはシステムさんを見えるように設定して、宝箱の前に残す。
分身とタコウィンナーが仲良く並んで宝箱の前で待機している。
システムさんはモノに触れられないが、目や耳になってくれる。
部屋の外まで出て、さらに距離を取る。
片目片耳を塞ぐ。
これで万全なはずだ。
――いや、まだだ。
自律分身用の装備品を出して用意しておこう。
前回はとっさで武器を用意できなかったから忍者刀を使わせることになった。
武器をロストするリスクは冒したくない。
トンファーは判断分身に持たせたので、自律分身用は鎖分銅と防具、ポーチ一式だ。
防刃防炎陣羽織は本来、自律分身用だけど、俺が着ておく。
オトナシさんとゴブリン呪術師の【火魔法】対策だ。
丸コゲになりたくないからね!
「さて、分身! 宝箱オープンだ!」
分身に指示を送る。
見えないが、操作は成功した。宝箱は開いたはずだ。
「宝箱は開いたはず。システムさんへ確認を頼んで」
「システムさーん。どうですかー!」
システムさんの声が聞こえる。
<宝箱が開封されました。罠はありませんでした>
危険はなさそうだ。
俺達は宝箱の位置まで移動する。
分身の術は指示を与えていないので棒立ちだ。
そろそろ効果が切れる。
俺は分身を消す。
「あ、分身さん消えちゃいましたね。ゼンジさん、分身さんも結構チートですよね。うらやましいです」
「ん。たしかにそうかも。離れて動かすことができるし、できることも多いからね」
システムさんほどじゃないとはいえ、なかなかすごい。
倒されてもデメリットがない。
普通の人間ができるような動作なら、だいたいできる。
汎用性が高いんだ。
とはいえ、発動するたびにコストがかかるし、効果時間は短い。
チートというか、便利である。
さて、宝箱の中身やいかに!
俺達は宝箱をのぞき込む。
「中身は……ポーションかな? 瓶の色が違う――黄色だな」
「いつものポーションは赤ですよね?」
治癒薬は赤い小瓶だ。似た瓶に入っているが、これは黄色い。
ゲームではポーションは色分けされてることが多い。
赤は回復、青は魔力回復みたいな。
魔力回復薬はモノリスで引き換えられるけど、まだ見たことはない。
オトナシさんの魔力枯渇対策に、今度買ってみよう。
さて、黄色いポーションと言えば……アレだ。
「うん治癒薬は赤だね。魔力回復薬はまだ見たことないけど、普通は青のイメージだ。となると黄色は……鑑定してもらってください」
「システムさん。これは何?」
<宝箱の内容物を鑑定します。――名称:状態異常回復薬。カテゴリ:回復>
「やっぱり、状態異常回復薬か! これは嬉しい!」
「状態異常って、なんです?」
オトナシさんが俺の顔を見る。
いや、システムさんに聞いたほうがいいと思う。
「毒とか麻痺とか? システムさんに聞いてみてください」
「システムさん、状態異常って?」
<正常でない状態となることです。毒、麻痺、硬直、魅了などがあります>
「目や耳の異常とか、魔力酔いも状態異常かな?」
「どう? システムさん」
最近、目つぶしと耳鳴り状態に苦しんだからな。
これも状態異常だとは思うけど。
<五感の異常、魔力酔いも状態異常です>
「おっ! これは助かる! あとでモノリスで引き換えて常備しよう!」
「魔力酔いは気持ち悪いですから、たすかりますねー!」
「疲労、ケガ、病気はどうだ? 正常な状態でないよね?」
「どう?」
いちいち中継してもらわないと答えてくれないの、なんとかならんかね。
<状態異常には含まれません。それぞれ、疲労回復薬、治癒薬、疾病治療薬が対応します>
「なんでも治せるわけじゃないのか……。まあ、解毒薬、麻痺治療薬みたいに個別になってるより便利だな」
「普通は分かれているんですか?」
「普通というか、ゲームだといろんなパターンがあるね。もっと上位の回復薬があれば、四肢欠損とか不治の病がなおったりするけど。あるのかな?」
「どう? システムさん」
<不明です。または、権限が不足しています>
「おっと、ダメか。でも、上位の薬は存在してそうな感じだなあ」
「物品鑑定スキルをもっと上げたらいいのかな? スキルポイントがないから上げられないのが残念です……」
オトナシさんのレベルは19だから、この階層でちょっと戦ったくらいじゃ上がらないのかな。
というか、あんまり戦わないと言っていた割に高レベルだよね。
期間の長さかな、やっぱり。
「疾病治療薬ってさ。もし手に入ったらパンデミックも怖くないよな?」
「あ、そっか! 持っていけば、病気の人をたくさん助けられますよね!」
オトナシさんがパンと手を打って笑顔になる。
やさしい……。
だけどそれは――
「――リン、残念だけどそれは無理だよ。外にアイテムは持ち出せないし、持ち出せて使ったら世界から追放される……」
「あっ……黒いドロドロにやられちゃいますね……」
禁則事項である。
ダンジョンの情報を知られてはならない。
ましてやアイテムの持ち出しや売却はかなりマズイ。
リヒトさんもお勧めしないと明言していた。
この情報は……ダンジョン内のアイテムを持ち出す方法があることを示唆している。
リアダンを読んで激しい頭痛に襲われた原因はこれかもしれない。
かなり危険度の高い情報だったんだ。
それをあえて忠告しなくちゃならないほど、俺の質問がヤバかったか、心配させてしまった。
「まあ、持ち出しはさておき、見つけたら確保しておきたいね。さて、六階層はこれでクリアだ。階段を降りてみますか」
「はい! まだ行けますよ!」
晩ごはんには時間がある。
このまま七階層の様子を見に行こう!