チートの魔女! 使えるタイプのマスコット!?
どのドアを開けるか……。
正面と左右に開けていないドア。
背後は来た道、退路だ。
正面のドアを開けるのは危険に思える。
左右のドアから敵が出てきたら、二チームに挟まれる。
正面にも敵がいたら三チームだ。
退路が遠くなる。
左右のドアであれば、入ってきた通路に敵はいないから挟まれても一方は包囲が緩くなる……気がする。
あてにならないけど、ちょっとでもリスクを減らそう。
「開けるのは左のドアにしよう。一応、片目と片耳を閉じておくんだ」
「宝箱の罠はもう動かないんですよね?」
「一応ね。宝箱じゃなくて部屋自体に罠があるのかもしれない。ドアを開けたらピカッとして同じ状況になりたくない」
「わかりましたー!」
オトナシさんが両手で目と耳をふさぐ。
俺は片手で目と耳をふさぐ。
俺は刀を抜いて右手に持っているので、片手しか使えない。
オトナシさんは手がふさがっていても魔法は使えるか。
俺はそっとドアを開ける。
「……空の部屋。行き止まりだ」
「誰もいませんねー」
石のイスがあるだけのシンプルな部屋。
特にお宝もなさそうだ。
通路もドアもないから、行き止まりである。
「もしかしたら、ここにゴブリンが待機していて、罠が作動すると入ってくるのか?」
「時間がたったら、ゴブリンがフッと湧いてくるのかなー? 他の部屋も同じですかねー?」
右のドアを同じように開ける。
行き止まり。ほぼ左の部屋と同じだ。
「ってことは、正面が正解ルートかな。ここも罠のモンスター待機部屋かもしれないけど……」
「行ってみましょう!」
正面のドアを開ける。
罠は作動しない。よかった。
あの罠は宝箱を開けたときだけ発動するようだな。
ドアの先は――!
「ウガ!?」
「ゴブリンだ! 四匹! 呪術師と盾がいる! いったんドアを閉める!」
「はい!」
ドアを閉める寸前、こちらに向かってくるゴブリンの姿が見える。
俺達は急いでドアから離れる。
「ドアが開いたら、大きなファイアボールを向こうの部屋に撃ち込んで!」
「わかりましたー!」
オトナシさんが手を構えて集中する。
これが魔力を練るってやつだろうか。
【魔力知覚】【魔力操作】のスキルで、威力を高めているのか。
あるいは、イメージを高めているのか。
俺には【魔力知覚】がないから、見た目にはわからない。
真剣な顔をしたオトナシさんが頼もしく見えるだけだ。
脳内録画したい……。
――って、俺も集中しろ!
左手に手裏剣をつかみ、右手に刀を構える。
飛び込んできたら、オトナシさんが魔法を放つ時間を確保する!
ドアが開く。
隙間から呪術師ゴブリンが杖を構えているのが見える。
げっ! 向こうも同じ考えだ!
「――ゴブブァァーゥ!」
火魔法だ!
これは前にも聞いた詠唱だ!
システムさんが挙げていた魔法の種類からして、ファイアブラストだろう!
ドアが開いて、火炎が部屋に吹き付ける。
ヤバい!
――瞬間、思考が加速する。
すでに放たれた魔法は、手裏剣を打ち込んでも消すことはできない。
回避はできる――俺だけなら!
だけど、オトナシさんが攻撃範囲内だ。
判断分身が条件通りに、オトナシさんを守ろうと動き出す。
でもトンファーで防ぐのは無理な気がする!
俺がオトナシさんを抱えて飛ぶか……?
間に合うか!?
――その時、オトナシさんの手が眩く光る。
魔法が発動する!
「ファイアボールっ!」
巨大な火球が放たれる。
そのサイズはドアを埋めるほどに大きい。
火球が、先に放たれた呪術師の火炎を飲み込み、押し返す。
そのままドアの奥へと火球は飛んで、炸裂する。
「おお……すっげえ……!」
部屋の向こう側は猛火に焼かれている。
【暗視】を切っていなかったら目がやられるところだ。
「こっちの部屋は熱くならないように調整しました! どうですか?」
「うん。熱くない」
ドアの向こうは焼却炉状態になっているのに、こちら側は熱くない。
ファンタジーだなあ……。
というか、もし相手の火炎が先に来ても【火耐性】とかで無事だったかもしれない。
俺だけ回避するのが正解だったのかも。
無事だとしても、どうだろうとは思うけど……。
二人プレイの難しさだな。
俺が狙われる状況なら回避でどうにかできる。
でも、オトナシさんが狙われた場合は取れる手段がない。
【入れ替えの術】でも今の場合は解決できないしな。
ううむ。ちょっと難しい課題ができてしまった!
「しかし、すごい威力だなあ!」
「えへへ。頑張りました!」
【火魔法】レベル3にしては威力が高すぎるように思うけど……。
これは才能だよな。簡易モードだからとか、そういうことじゃない。
魔法の才能。イメージ力の天才。
天才魔法女子大生だわ!
しばらくして、炎が収まる。
「確認するまでもないけど……ゴブリンは全滅かな?」
呪術師が【火耐性】【防火】【消火】を持っていたとしても無事では済まないはず。
生き残っていても一匹なら俺がとどめを刺せる。
「魔力の反応はないですね。バッチリです!」
「……あれ? ここからわかるんだ?」
「はい」
今いる位置から隣の部屋の全貌は見えない。
「壁越しでも魔力知覚ってわかるの?」
「壁を挟むとかなりぼんやりしちゃいます。システムさんが見てきてくれたんですよー」
オトナシさんがなんでもないように衝撃の事実を口にする。
「え? システムさんって自由に動けるの!?」
【サポートシステム】は不可視、透明な存在だ。
触れることができないので破壊不可能。
「いつもはすぐ近くに居ますけど、ちょっとなら離れることができますよー」
「マジか! それって……チート級の能力じゃね!?」
攻撃能力がないとはいえ、ノーリスクで偵察ができる。
無敵で不可視で探知能力がある。会話も可能で理解力もある。
偵察能力がハンパない!
FPSシューターで考えたら、破格の能力だぞ!
ファンタジー、ダンジョンで考えても強力だ。
曲がり角や部屋の入り口を先に覗くことができてしまう。
しかも【魔力知覚】で敵を強調表示できる。
やべえ……【サポートシステム】がサポート力つよすぎる!
魔女っ子のマスコットが有能すぎるよ!
「チートってズルいけどうらやましいってことでしたよね? よかったね、システムさん!」
誉め言葉じゃないけどね!
オトナシさんがシステムさんと会話しているようだ。
システムさんは今は俺に見えていない状態だ。会話も聞こえない。
「……ソウダネ。うらやましいよ、ほんと」
【サポートシステム】の取得条件が事前にわかっていればなあ……。
オトナシさんのように、ダンジョンやファンタジーに興味がないのに、ダンジョンを持つケースはレアだと思う。
隣の部屋には魔石が四つ転がっている。
ほかの敵はいない。
俺達は部屋に踏み込んでいく。
そして、宝箱が一つと、下へ向かう階段が見えた。
六階層のゴールだ!