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戦えることと、戦いたいことは違う!?

 オトナシさんの体調は回復してきた。

 土気色(つちけいろ)だった顔色も、だいぶ良くなっている。


「気分はどうですか?」

「はい。もう大丈夫です! 急に気持ち悪くなって……ごめんなさい」

「いえ、大丈夫ですよ。一応、これを食べておいてください」


 丸薬を手渡す。


「……これは? お菓子ですか?」

「魔力回復丸(かいふくがん)です」


 じわじわと魔力が回復する薬だ。

 回復量は大きくないけど、足しにはなる。


「魔力が回復するお菓子ですね!」

「薬術で作ってるから、一応クスリだね」

「あ、前にアメ玉作ってくれたスキルですね! お菓子作成スキル、いいなあ!」


 オトナシさんのダンジョンでスライムゼリーから花蜜(かみつ)のど(あめ)を作ったときも飴玉作成スキルだと思われたんだっけ。

 なかなか、クスリ扱いされないな。


 オトナシさんが魔力回復丸をほおばる。

 表情は微妙だ。


「あれ? これはあんまり……甘くないですね」

「一応、ハチミツや砂糖で最低限の味は調(ととの)えてあるけど、主な素材は薬草なんで」


「うんうん……だから薬っぽい味なんですねー。あ、ちょっと体がぽかぽかしてきた気がしますー」

「魔力がちょっとずつ回復する。地味だけどね。ほかにもいくつか渡しておく。これは体力回復丸で――」


 俺は体力回復丸、薬草丸を渡して説明する。


 これらの丸薬よりも兵糧丸(ひょうろうがん)のほうが、味は美味しい。

 兵糧丸はそれこそ、お菓子みたいなものだ。

 回復効果のない、ただの食べ物だからな。


「でも、さっきはなんで気持ち悪くなっちゃったんだろう……」

「ん? 魔力酔いだと思うけど……」


「こんなになったのは初めてです……。気持ち悪くて、頭も痛くなるんですね……」


 オトナシさんは気落ちした表情だ。

 反省というか、申し訳なさそうにしている。


「あれ? はじめて?」


 俺は少し、不思議に思う。

 ダンジョンで魔法を使っているはずだし、もう経験済みだと思っていた。


「私、いつもはあんまり戦わないので……」


 オトナシさんはダンジョンでは遠出も長居もしない。

 食材を集めたり、野菜を育てるのが主だ。

 あとは、トイレか……。


 戦闘狂じゃあるまいし、積極的に戦ったりしないんだな。

 その割にレベルが高いのは、ダンジョン歴が長いからだ。


 連続で戦闘したり、強敵と戦った経験は少ない。

 角ウサギだって、ケガをするから狩りにいかないって言ってたもんな。

 危険を冒してまでは食材集めをしない。


 ……普通、そうだよね。


 俺は戦うためにダンジョンに通っている。

 レベル上げや新しいスキルを手に入れるためだ。


 ぜんぜん動機が違う。


 強いからって、戦えるからって、戦いたいわけじゃない。

 無理強いはできない。


「そっか……。戦うのは好きじゃないのか。無理させちゃったなら、ごめん」


 俺は頭を下げる。

 褒めて育てるとか言って危険にさらしてしまった……。

 二階層までが余裕すぎて、過信してしまった。


「えっ!? 無理なんて、ぜんぜん! ゼンジさんと一緒なら楽しいですよ!」


 オトナシさんは驚きの表情を浮かべる。

 そして、ぶんぶんと首を振っている。


「いえ、ケガしたり死んだら元も子もないですからね。ちょっと反省しました」

「え……? た、頼りないところ見せてしまってごめんなさい! 次はちゃんとします! 私、ぜんぜん無理してません! ホントです! い、一緒にやらせてください!」


 オトナシさんは妙に焦った様子で頭を下げる。

 必死に取り繕っているという感じすらする。


「……俺の考えが甘かった。つい、無理をさせてしまった!」

「いいえ! 私こそ! うまく戦えなくてごめんなさい!」


 何故か二人で頭を下げあっている。


 ……なにこれ。


 ちょっとおかしくなってくる。

 ふたりして、顔を見合わせる。


「ははっ……もう頭を上げてください」

「えへへ。なんか、変ですね」


 俺は気を取り直して言う。


「……ここからは、もっと慎重に行こう。二人で戦う分担とか、立ち回りとかね!」

「二人で……はいっ! 作戦会議ですね!」



「お互いのできること、できないことを把握しておこう」

「はい!」


「俺は忍者だから素早く動ける。刀や武器で攻撃する。手裏剣があるから、中距離もイケる」

「すばやくって、カッコよかったです!」


「でも、防御力はぜんぜんない。攻撃を食らったら普通にケガするし、動けなくなったらすぐにやられる」

「それは嫌です! ぜったい気を付けてください!」


「あ、はい。心配かけないように気を付けます。 あと、俺は魔力のステータスが普通なので、あんまり術は連発できない。でも戦いの合間に瞑想すれば、魔力は回復できる」

瞑想(めいそう)?」


 俺は瞑想や薬術などで魔力を回復して長期的にダンジョンへ潜っている。


「戦闘中はできないけど、休憩してれば魔力が早く回復するって感じ」

「私はそういうのできないですね。時間が経てば回復するらしいんですけど……」


 さっき魔力回復丸も食べたし、少し休めば戦える程度には回復するだろう。

 オトナシさんは魔力を回復する手段がないのか。

 ……これは課題だな。


「温存して、いざという時に魔法を使う感じにしようか」

「はいっ」


「俺が前に立って戦います。敵が多いときに魔法を撃ってもらうのがいいかな」

「ゼンジさんは動きが速いから、間違って巻き込みそうで怖いですー」


 オトナシさんは不安げな表情だ。

 ゲームと違って、味方の攻撃でも容赦なくダメージを受ける。

 うっかり丸焦げになったら、死にかねない。

 そんな死に方はイヤだ。


「じゃ、攻撃のタイミングは口に出してお願いするようにしよう」

「はい! いつ撃てばいいのか、教えてくれればできると思います!」


「あとは忍術が使える。魔法みたいなものだ。分身の術のほかには……入れ替えの術がある。これは、見てもらったほうがわかりやすいかな。分身の術! ……入れ替えの術!」


 分身を出し、そこに【入れ替えの術】をかける。


「え!?」

「こうして、場所を入れ替える。分身と俺の位置が入れ変わったんだけど……」

「うん!?」


 両方見た目は俺なので、ちょっとわかりにくいか。

 分身は棒立ちで、俺は動いている。見分けはつく。


「ちなみに、リンと俺でも入れ替われるはずだ。やってみてもいいかな?」

「はい! ぜひお願いします!」

「では、入れ替えの術!」


 入れ替えの術が発動する。

 入れ替えの術にはサイズの制限がある。

 ゴブリンよりオトナシさんのほうが大きいから、問題なく発動できる。


 術が発動し、俺とオトナシさんの位置が入れ替わる。


「あれれ……?」


 振り返ったオトナシさんは不思議そうな顔だ。

 向かい合って話していたので、背中合わせになっている。


「位置が入れ替わるだけで、体の向きはもとのままになるんだよ」

「そうなんだー!」


「動いている相手には使えないけど、モンスターにも使える」

「これは便利ですね!」


 他のスキルもそれぞれ説明しながら見せていく。

 【軽業】【壁走りの術】を見せると、大喜びされた。


 俺のスキルや戦い方についてはおおむね説明できた。

 次は、オトナシさんの番だ!

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