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コウモリと踊る者!

「というわけで、ここが第三階層です。ここは……」

「わあ……広いですね!」


 オトナシさんへ三階層の特徴を説明する。


 三階層はドーム状の広い空間になっている。

 壁にあるコケやキノコがぼんやりとあたりを照らしている。

 二階層と同じ程度の明るさだが、空間が広い分だけ明かりの届かない範囲が大きい。


 鍾乳(しょうにゅう)石ゾーンだ。

 天井にはつらら石、床からはタケノコ状の石筍(せきじゅん)

 床は滴った水で濡れていて足場が悪い。


 二階でも三階でも、視界を確保しないと探索は難しい。

 俺はいつも通り【暗視】でバッチリ見えている。


 オトナシさんの場合は【魔力知覚】で補ってるようだ。

 本来は魔力を感じるスキルらしい。

 これを【サポートシステム(システムさん)】が補佐して、暗闇でも敵の位置がわかる。


「コウモリが飛んでる場合があるので気を付けてくださいね」


 二階ではほぼ寝ているコウモリも、ここでは元気に飛び回っている。


「あっ! なにか来ます!」


 さっそくコウモリだ。

 こちらに気づいて、向かってくる。

 狙いはオトナシさんだ。


 オトナシさんは俺よりも動きが大きい。

 初めての階層だ。

 物珍しげにキョロキョロと周囲を見回している。

 そのたびに、後ろで束ねた長い髪が揺れる。

 まるで俺のマフラーみたいに、コウモリを引き付けるのかもしれない。


 ……オトナシさんの揺れには、俺も引きつけられて見入ってしまう。

 幻惑効果はバッチリだな!


「とりあえず一匹ですね。やってみますか?」

「はいっ! ファイアボール!」


オトナシさんが攻撃するタイミングがわかるようになってきた。

 俺は目をやられないように、片目を閉じる。


 【暗視】は暗がりを見通せるが、明かりに弱い。

 コケやキノコの発する光や、松明程度なら目が眩むことはない。

 ファイアボールはそれよりも明るい。

 かなりまぶしく感じるが、片目を明るさにならせておけばとっさの状況にも動けるだろう。


 力をセーブした火球が飛ぶ。

 今回は、範囲を焼き尽くしていた撃ち方ではない。

 こぶし大の火球がまっすぐにコウモリへと向かっていく――


「――外れましたね」

「あれっ!? 難しいな! ファイアボール!」


 もう一度火球を放つ。

 ――だが、当たらない。


 回避されたのではなく、もともと当たらないコース。


 コウモリは変則的に飛ぶ。

 飛んでいるコウモリに狙いを定めるのは難しい。

 だから俺はコウモリには五寸釘でなく三寸釘をたくさん投げるようにしている。


 最近はコウモリ狩りが極まってきて、単発の手裏剣でも命中させられる。

 【投擲】のおかげもあるが、けっこう練習したからな。


 コウモリを打ち落としやすいのは、近づかれたとき。攻撃されるタイミングだ。

 どうしても、噛みついたり引っかいたりするのは近接攻撃だ。

 その瞬間を狙えば、攻撃を当てやすい。


「あわわっ! ふぁ、ファイアボール!」


 コウモリがオトナシさんに迫る。

 正面から飛来したコウモリを火球が明るく照らす。


「キィッ!」


 醜悪(しゅうあく)な姿が炎に照らされる。

 鋭い牙をむきだしたその口からは唾液がしたたっている。


 火球が命中する。


 ――ふう。大丈夫そうだ。

 俺は念のため手裏剣を構えていた手をおろし、ホッと胸をなでおろす。


 燃え上がったコウモリがそのままオトナシさんをかすめて墜落する。


「ひゃああっ!」


 オトナシさんは頭を抱えてしゃがみこむ。


 地面に激突して、コウモリが塵となる。


「やりましたね!」

「な、なんとか当たりましたぁ……でも、コワかったですー!」


 しゃがんだまま俺を見上げるオトナシさんは涙目だ。

 手を貸して、立たせる。


 かわいいけど、今は戦闘中だ。まだ終わっていない。


「次来ます! すぐ集まってきますよ」

「ひええー! ファイアボール! ファイアボール!」


 コウモリは仲間意識があるのか、一匹が戦闘を始めると集まってくる。

 群れを成して襲ってくるのが面倒なところだ。


 オトナシさんが連続して火球を放つ。

 だが、当たらない。

 天井に炸裂した火球が洞窟を明るく照らす。


 その光に、さらに遠くからモンスターが集まってくる。


「わああ! ファイアボール! ファイアボール!」


 当たらない火球に焦ったのか、連続して放たれた火球は威力を制御(セーブ)できていない。

 一つ一つの火球が大きくなる。


 マトが小さければ、火球を大きくすればいい。たくさん放てばいい。

 パワフル解決方法だ!


 大きな火球が敵を捉え、消し炭にする。


「はあっはあっ……ファイアボール!」

「……リン! ちょっと落ち着こう! よく狙って……」


 コウモリは次々と飛来する。

 放たれた火球はむなしく空を切る。

 その隙をついて、コウモリが飛びかかる。


「きゃあっ!」

「――危ない!」


 俺はオトナシさんを背後に(かば)い、忍者刀を抜き放つ。

 タイミングを合わせてコウモリを切り落とす。

 さらに、左手でつかみ出した三寸釘を投擲して、飛び回るコウモリの数を減らす。


オトナシさんの様子を窺うと、苦しげな様子で口元を押さえている。

 被弾した? いや、していないはずだ……。


「だ、大丈夫?」

「うう……ちょっと気持ち悪く……」


 ――これは魔力酔いだ!


 短期間に魔力を使うと、気分が悪くなる。

 ここまでにも魔力を使ってきたのと、今の連発のせいだ。


 うっかりした!

 当たり前のことを忘れていた。

 魔法使いだって、高レベルだって魔力に限界はある!


 オトナシさんが強すぎて、気付くのが遅れた。

 無理させてしまったんだ。


「ちょっと休んでて。ここは俺が片づける! ――分身の術!」

「は、はい」


 俺は分身を呼び出し、離れた位置でランダム回避を命じる。

 これはおとり(デコイ)だ。


 分身の長いマフラーがはためいてコウモリを引きつけ、幻惑する。

 さらに数体の分身を生み出す。


 コウモリは分身を……揺れるマフラーを狙って集まっていく。

 そこを、俺は手裏剣で仕留めていく。



「ゴブっ!」

「アギャギャ!」


 闇の中からゴブリンが現れる。

 二匹……四匹……まだ増えている。


 三階層は広い空間だ。部屋のように分断されていない。

 騒ぎを聞きつけて、どんどん集まってくる。


 いつもの俺は少数を相手取って順に始末する戦い方をする。

 まとめて大量の敵が集まる状況にはなりにくい。


「ゴブリンまで集まってきたか!」

「はあっはあっ……私もまだ、戦えます!」

「いや、リンは休んでいて大丈夫。……これくらいなら、なんてことない!」


 俺は魔力も体調も万全。

 数が多いと言っても、連携を取らない原始的なゴブリンだ。

 この階層のゴブリンなら、数が多くても烏合(うごう)の衆だ。


「判断分身の術! リンを守れ!」


 へたり込んで息を整えているオトナシさんの近くに【判断分身の術】で分身を生み出す。

 条件一つ目、オトナシさんに追従する。

 条件二つ目、近づいてきたモンスターを攻撃する。


 充分な条件とは言えない。

 これだけでは完全に守り切れるとは言えない。

 でも、これは保険だ。


 そもそも俺が敵を近寄らせない。

 こちらから打って出て、敵が近寄る前に倒してしまえばいい!


 荷物をおろして、身軽になる。



「アギャーっ!」


 ゴブリンが叫び、武器を頭上に振り上げながら向かってくる。

 俺は刀を逆手に構えて、走る。


 ゴブリンが棍棒を振り下ろす。

 俺は走りながら身を逸らして、それをかわす。


「うりゃあっ!」


 すれ違いざまに刀を一閃。

 首を切り裂き、血が噴き出す。


 背後で倒れるゴブリンをそのままに、次のゴブリンへ切りつける。

 ゴブリンは刀を棍棒で受けようとする。

 刀の軌道を変えて、打ち合わずにゴブリンの腹を裂く。


「ギエッ!」


 ゴブリンが倒れる。

 足を止めずに、さらに先へ。


「次っ!」


 分身達がコウモリを引き付けている場所へ駆け込む。


 マフラーがなびいて、俺の走る軌跡(きせき)を追いかける。

 刀を振るうたび、コウモリが塵と消える。

 魔石が次々と床に落ちて涼やかな音を立てる。


「す、すごい……!」


 オトナシさんが俺を称賛してくれる。


 駆け、跳び、刀を振るう。

 コウモリを、ゴブリンを塵に変えていく。



 しばらくすると、動いている敵はいなくなった。


「ふう……これで全部ですね」


 俺は周囲を見渡して敵が全滅したことを確認する。

 血振りをして、刀を背中の鞘に納める。


「すごいです! まるで踊っているみたいでした!」

「踊る?」

「くるくるって! ジグザグしてて! カッコよかったですー!」

「あ、ありがとう!」


 一人で戦うことの多かった俺は、褒められるのに慣れていない。

 ……いいもんだなあ。

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