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モノリスは食べられますか!?

「三階層へ行く前に、これが例のモノリスです!」

「自動販売機ですね! ……なんだか未来的な感じなんですねー」


 俺達の前にはモノリスが鎮座(ちんざ)している。

 サイズは自動販売機に近い。

 どこにも出っ張りや穴のない、無機質な板だ。


「ゼンジさん……魔石入れるところがないみたいですが……」

「魔石を触れさせると吸い込まれていきます。――こんな感じで」


 俺は魔石を一つ手に持って、モノリスに押し当てる。

 モノリスの表面が水面のように波打ち、魔石を吸い込んでいく。


 オトナシさんは目を丸くして見入っている。


「ふしぎですね……! 私もやってみていいですか?」

「どうぞどうぞ。魔石を入れてみてください」


 魔石はハズレじゃないのだ。

 オトナシさんは魔石を一つつまんで、おそるおそるモノリスに近づけていく。


「わあっ……吸い込まれました! もう一個入れても平気ですか?」

「全部入れても大丈夫ですよ。ざらざらっと流し込んでもいいし、投げてもいいです」

「へえー! まずは上に乗せて……わあー。投げても……? おおー! ホントですね!」


 オトナシさんは投げるのが気に入ったみたいだな。


「えいっ! えいっ! もうひとつ! これ、楽しいです!」


 投げた魔石はモノリスに当たると、ぴたりと表面で止まる。

 跳ね返されたり、突き抜けたりしない。


 表面で止まったあとは、押し付けたときのようにゆっくり沈んでいく。

 なにか、物理法則を無視した動きだ。

 見ていると不思議な感覚がするな。


 俺は楽しむオトナシさんの姿を見ているのが楽しい。

 物理法則に従った動きだ……不思議な感覚がするな!


「ぐはっ……いやほんと、楽しいですね!」

「全部投げちゃいましたー。魔石を入れたら次は……なにか買えるんでしたっけ?」


「買う……まあ、そうですね。交換できます。そういうイメージで触ってみてください」

「何が買えるかな……わあ! 声が聞こえます!」


「頭の中にアナウンスが流れたんですね。ちょっとびっくりしますよね」

「システムさんみたいですね! このモノリスさんも連れていけないですかねー」


 モノリスを連れてく……?


「動かすことはできませんね。リアダンによれば、壊すこともできないらしいですよ」

「そうですか。残念ですね。小さくして持ち歩けたら便利なのにー」

「たしかに……持ち運ぶ……」


 俺にはない発想だな。

 小さくするって……全く思い浮かばなかった。


 できそうもないけど、ダンジョンは常識なんて通じない。

 できるかもしれない。

 想像力の豊かなオトナシさんならではの発想かもしれない!


 モノリスの表面に日本語の文字が浮かび上がっている。


『交換したいアイテムを選択してください』



 --------------------

 ゴブリンの魔石:12

 1 :ゴブリンの牙、ゴブリンの肉

 5 :ゴブリンの棍棒、ゴブリンの腰ミノ、汎用ポイント1

 10:ゴブリンのナイフ、薬草


 コウモリの魔石:32

 1 :コウモリの牙、コウモリの肉

 5 :コウモリの皮、汎用ポイント1


 汎用ポイント:0

 5 :水

 5 :食料

 10:さらなるリストの解放

 --------------------



 オトナシさんは表示を見つめて、悩んでいる。


 オトナシさんが投入した分だけが表示されている。

 俺の魔石の貯金額と合算されたりはしないようだ。


 モノリスの中の魔石は個人ごとに管理されて、俺の魔石の残高はオトナシさんは使えない。

 ちなみに自律分身は俺の貯金を使うことはできなかった。

 それどころか、モノリスに触れても反応しなかった。


 ちゃんと個人を識別していて、人間とスキル(自律分身)も区別している。



「うーん。ゴブリンとコウモリかあ……」

「入れた魔石に対応するアイテムが表示される感じだね」

「そっかー……美味しそうなものは出てこないんだぁ……」

「ゴブリンの肉とか……食べないよね?」

「うーん。食べないなぁ……。人に似た形の生き物はちょっと……」


 よかった。

 ハラペコキャラのオトナシさんでもゴブリンは食えないか。

 美味しい美味しいとかほおばりだしたらちょっと怖い。


 あれ?

 そういえばオトナシさんのしゃべり方が自然な感じかもしれない。

 俺が敬語を抜くと、オトナシさんもつられて気負わずしゃべれるのかも。


 トウコとしゃべるときも、つられてたのかもしれないな。

 俺が気を付ければ、敬語抜きの気安い関係が築けるかも知れないぞ!


「でも……コウモリも美味しくなさそう……」

「まだ食べようとしてたっ!?」


「あ、この汎用ポイントにある食料ってなんですか?」

「俺もそれは引き換えたことないんだよな。ちょっと引き換えてみるわ。俺は魔石の貯金がたくさんあるからね」

「はい! お願いします!」


 モノリスに投入した魔石はちゃんとカウントされて、あとで使える。

 俺は充分な量の魔石をこの中に貯金している。


「汎用ポイントの食料を交換して、と」


 俺はモノリスの表面に表示されている「食料」をタップする。


 正直、あんまり期待していない。

 どうせ最低限の食料が出てくるだけだろう。

 ……俺のダンジョンは渋いからな。


 モノリスの表面が波打ち、奥から食料らしきものがせり出してくる。

 俺は水面に手を差し入れてそれを抜き出す。


「わあ! 手が……入っちゃった!?」

「大丈夫。これは……パン? 食パンみたいだけど……」


 それは何の変哲もない一斤のパンだ。

 やっぱね。こういうのだと思ってたんだ!


 魔石25も払ってこれか……。

 ファンタジーでよくある固い黒パンじゃないだけマシか。

 まあ、俺は食ったことないから知らないけどね。


 オトナシさんが俺の手にあるパンを物欲しげに見ている。


「食パンですね! 食べてみていいですか?」

「ん……いいけど……いきなり食べて平気かな……?」


 食うの!?

 まずはゴブリンあたりに食わせて、様子を見たほうがいいような……。


 オトナシさんは当然といった表情で言う。


「だって、食料って書いてありますよね? システムさんは嘘をつかないですし……モノリスさんも……」

「あ、そうだ! システムさんに鑑定してもらってください!」


 チート能力、鑑定である。

 【サポートシステム(システムさん)】は【物品鑑定】が使えるのだ!


 オトナシさんが中空に向かって話しかける。

 見えないが、そこにはタコウインナーの姿をした【サポートシステム】がいるはずだ。

 見た目はオンオフできる。今はオフ状態で、俺には見えない。


「どうかな? ……うんうん。やっぱり普通のパンみたいですよ。食べられます!」

「うん。じゃあどうぞ――って、はやっ!」


 もう食ってるし!

 昼めし食ってから来たのに……。


 オトナシさんがもぐもぐしている。


「んー。普通です。……ジャムとかバターが欲しいなぁ。牛乳があったら最高ですね」

「あ、普通なんだ。食えるんだ……。しかし、勇気あるなあ」


 俺はあやしいパンをすんなり食べるなんて無理だわ。

 ある種の才能というか……。


 いや、俺の考え方も間違ってない。

 ダンジョンを信じきることはできない。

 たまに殺しにかかってくるからな!


 オトナシさんはシステムさんのことを信頼している。

 それと同じ信頼感をモノリスにも向けているんだろう。


「あ、そうだ。リアダンの情報によると、モノリスにはいろんな種類があります。同じ見た目でも罠の場合もあるから気を付けてください」


 リアル・ダンジョン攻略記に書かれていた攻略情報だ。

 モノリスは様々な機能がある。

 その中には罠もある。

 転送は罠とは違うけど、片道で戻れない場合があるらしい。

 その場合は、かなり危険だ。


「このモノリスさんはイイモノで、悪いモノリスさんもいるんですね!」

「そう思っていてください。用心してくださいね」


「ところで、私も食料を買ってみてもいいですか?」

「え? まだ足りないの!?」


 手にはまだパンがほとんど残っている。

 一斤を一気食いするわけないし……。


「いえ。食料って色々あるじゃないですか? これはハズレかもしれないし……もっと美味しいのも出るかなって……」

「あー、たしかに。食パンとは限りませんよね」


 当たり外れはないと思うんだが……。

 ガチャじゃあるまいしね。


 オトナシさんがモノリスを操作する。

 同じ「食料」を選択して、商品を取り出す。


「あ、当たりです! やっぱり違うの出ました! 私、メロンパンが食べたいなって思ってたんです!」

「……マジで!? 食料って……当たり外れあるの!?」


 当たり外れ……?

 いや……思い描いたパンが出るのか!?


 オトナシさんの手には、焼きたてのような湯気を上げるおいしそうなパンがある。

 メロンパンだ。表面にはたっぷりの砂糖がまぶされている。


 オトナシさんはそれをちぎって、半分俺にくれた。


「どうぞ。ゼンジさんも食べてみてください!」

「ど、どうも。いただきます……」


 オトナシさんは美味しそうにメロンパンをかじっている。


「おいしー。私の好きなタイプのメロンパンです! 並ばないと買えないお店のにそっくりです! 外はカリカリ、中はフワフワです!」


 ニッコニコだよ!

 よっぽど好きなんだな。


 俺もかじってみる。

 ……うまい。


 俺の好みからすると甘すぎる。ほとんどスイーツだ。

 だけど、美味いことは間違いない。


 これはまさか……「認識」か!?


 俺は食料を引き換えるときに期待していなかった。

 どうせパンみたいなものだろうと考えていた。

 結果が、普通の食パン。


 オトナシさんは美味しい食べ物を求めていた。

 俺が食パンを引き換えたから、オトナシさんもパンをイメージした。

 おそらく大好きなメロンパンをイメージしていたんだろう。


 たぶん、肉をイメージしたら肉料理が出る。


 ダンジョンでは「イメージ」や「認識」が大事なんだ。

 ここでも認識か……。


「たしかに美味しいですね……驚いた」

「ゼンジさんのダンジョン、すごいですね! こんなおいしいメロンパンが出るなんて!」


 メロンパンは今日はじめて出ましたけど!


「うーん。確かにすごい。リンだから出たんだと思うけど……」


 モノリスも、俺が使うだけではその機能を生かし切れていなかった。

 やはり認識……もっと自由な発想を持たないとな!


 やっぱり、自分とは違う価値観を持ったオトナシさんがいてくれると助かる!

 俺だけでは気づかなかった発見がある!


 オトナシさんは俺の手に残っているメロンパンを物欲しそうに見ていた……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 逆に言えば思い込みはよくないってことかあ
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