二人プレイ……? 俺は何もしてません!?
一階のゴブリンは何をする暇もなく丸焦げにされてしまった。
もはや、襲いかかってくるヒマもない。
強すぎる……。
ファイヤーボール無双だ!
「あ、階段がありますよっ! ゼンジさん!」
「うん。捗るなあ」
俺は最初の攻略でここまでたどり着くのに結構時間がかかったもんだ……。
ちょっと複雑な気分ではある。
だけど、オトナシさんが強いのはいいことだ。
怖がって先に進むのに時間がかかりそうだと思った。
だけどこの調子なら、すぐに六階層まで行けるかもしれない。
「二人で一緒ならすぐクリアできちゃいますよ!」
「うん……俺は後半なにもしてないけど」
手を出す暇もないわ。
一瞬で消し炭にしちゃうんだもん……。
「この階段を降りると第二階層になります。そこにはコウモリが出ます。二階層では天井にぶら下がって休んでいる状態なので、飛び立つ前に倒せば簡単ですよ。これも俺が手本を見せますね」
「はい!」
俺達は二階層へ降りていく。
天井に止まっているコウモリを発見して、足を止める。
オトナシさんが居るので【隠密】しているときよりさらに距離を取っている。
小声で会話する。
「いました。あれがコウモリです。このくらいの距離なら、気付かれません」
「あれがコワい顔の……ちょっと暗くてよく見えません……」
遠目に見ても、コウモリの顔は怖い。
クワッ! って感じである。
寝顔なのにクワッ! としている。
「あ、そうか。俺は【暗視】があるから暗がりが見通せるんだけど……。リンの場合はハッキリみえないほうがいいかもね」
「そうですね。見えないほうが安心かも……」
「ちなみに、どのくらいまでわかる?」
今、俺からは見えないがオトナシさんの傍らには【サポートシステム】……システムさんが浮かんでいるんだろう。
オトナシさんのスキルの【魔力知覚】を補佐的に使って、敵の位置をオトナシさんに知らせているんだ。
「あのあたりに何かいるって、システムさんが教えてくれます。ぼんやりとした感じですね」
オトナシさんが指さす先にはコウモリの群れがいる。
【魔力知覚】もなかなかの性能だな。
暗い場所でも魔力を持つ生物がわかるのか。
……人間もモンスターも魔力はある。結構万能な能力かもしれない。
「だいたい十匹くらいのコウモリがぶら下がってます。寝てますね。顔は……」
「顔の説明はいらないですっ!」
オトナシさんは両手で耳を塞いでしゃがみ込む。
「じゃ、さっそく倒しますね! ――三寸釘ショットガン投法!」
俺は両手に棒手裏剣を掴み、投げつける。
回避しても避けきれないほどの物量をぶん投げるという、身もふたもない攻撃だ。
さんざん苦労して編み出したコウモリ対策の一つである。
素早い敵もチェックメイトできるのだ!
狙いはあやしくなるが、そこは【投擲】さんのお仕事。
ちゃんと命中させてくれる。
それに俺自身の練習の成果もある。雑に投げているわけではない。
「わあ! 全部倒しちゃいましたよ! すごい!」
全弾命中ってわけじゃないけどね。
コウモリは全滅だ。
俺は魔石と釘を回収しながら言う。
「最初はコウモリに苦労したんです。飛び立たれると厄介ですからね」
「そういえば……前に引っかかれたような傷があったこと、ありましたよね……?」
「……あれ!? 気づいてたんですか?」
「もちろんです! だって毎日……見てましたから。どうしたのかなって心配してたんです。けど、言えなくて」
とっくにバレてたのかよ!?
コウモリに苦戦してケガしてた頃は、ダンジョンのことを隠していた……つもりだった。
ダンジョンに気づかれていたわけじゃなくて、ケガに気づかれただけとはいえ……あぶねえ。
ちっとも忍べていなかった!
コワいコワい!
オトナシさんの観察力……ストーカー力おそるべしっ!
「ははは……。というわけで、飛び立つ前にやっつけるのがコツです!」
「わかりました! 強火で一気にですね!」
「ん……。まあ、ほどよい火力でね! 俺はちょっと下がっておきますね!」
「あ、もちろんゼンジさんがヤケドしないように調整します!」
オトナシさんはニコニコしている。
わかってるんだか、ないんだか読み取りにくい……。
機嫌がいいことは確かだ。まあ、大丈夫だろう。
俺は腰袋から飲み水の入ったペットボトルを取り出して水を飲む……ふりをする。
……消火準備ヨシ!
「あ、いましたよ。ファイアボール!」
「はやっ!」
俺はとっさに顔を腕で覆う。
腕の隙間から様子をうかがう。
ファイアボールが炸裂する。
……俺のもとへ熱はこない。アツくない。
だが、コウモリ達は焼き尽くされている。
すっかり塵となって、天井から魔石がポトポトと落ちてくる。
一瞬だ。一撃だ。
――コウモリは全滅だ。
「ちょうどよく包むような感じでやってみました! うまくいきましたよね!?」
「……凄いですね! ――もはやファイアボールじゃないような……」
後半は小声だ。オトナシさんには聞こえていない。
オトナシさんの手から放たれた火魔法は、コウモリへとまっすぐに飛んでいった。
球状の火が天井に命中したかと思ったら、炎が燃え広がって、コウモリをすっぽりと包み込んだ。
そして、そのままコウモリ達を焼き尽くした。
これは……ナパーム弾というか……。
もっとこう……炎が生き物のような動きをしていた。
普通にイメージするような火球とは違う。
「ゼンジさんが熱くならないイメージでやってみたんです! コウモリだけを熱くするように目に浮かべて!」
俺が熱を感じなかったのは、そういうイメージだからだ。
内側だけが高熱に包まれ、外側は熱を通さない。
そういう魔法として、ファイアボールがイメージされていた。
スキルは、ある程度イメージが反映する。
魔法もそうだろう。
もしかして、魔法はスキルよりもイメージの影響が強く出るのかもしれない。
そして、オトナシさんは想像力……イメージ力がハンパないんだ。
目に浮かべた映像を、そのまま魔法で具現化できる。
【火魔法】をストーカー戦で極振り強化したというのもある。
だけどこれは才能だろう。
思い込む力。調子に乗りやすい心。振れ幅の大きな精神。
そういえば、料理の時も炎を自在に操っていた。
空中に浮かせた炎で火力調整も自由自在だった。
料理で言うなら、ホイル焼きとかフタをして蒸す感じだろうか。
コウモリの包み焼き……。
俺には想像しにくいけど……。
すげえな!
チートなの!? チート魔法女子大生なの!?
「なるほど……イメージで。目に浮かんだとおりに……ね。さすがだ……!」
「えへへ……」
本人に凄いことをしているという自覚はない。
できて当たり前だと思っている。
それを言うべきか、言わずに自然なままにしておくべきか……難しいな。
説明すると、イメージを阻害してしまうかもしれない。
とりあえず、言わずに様子を見よう。
変な刺激や先入観を与えたくない。
そういう調子で、二階層もあっさりとクリアしてしまった。
おそるべしっ!
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