やる気の振れ幅がとんでもない!?
地の文では「オトナシさん」
セリフでは「リン」
敬語だったり違ったりするのは過渡期だからです。
「あ、向こうにゴブリンがいるね。ではリン、頑張って!」
「はいっ!」
オトナシさんはゴブリンに向けて手を突き出す。
ゴブリンは当然気づいていない。
普通にしゃべっていても気づかない。
こういうところが、ゴブリンのかわいげだよね。
え? 可愛くない?
「――ファイアボール!」
何の予備動作も、事前の詠唱もない。
オトナシさんの手から火の魔法が放たれる。
その火球は……デカい! デカすぎる!
通路全体を覆いつくすほどの大火力。特大火球だ!
「あじゃじゃっ! アツっ!」
オトナシさんよりも背後にいた俺の顔面が炙られるほどの高温。
視界全体が真っ赤に染まるほどだ。目がァ!
「あっ! ごめんなさい!」
オトナシさんがあわてて腕を振って火球を消す。
「やりすぎちゃいました! ちょっと……緊張してしまって」
「いや、大丈夫。防刃防炎装備なんで……。ただ、顔はちょっと危なかった。俺は防御力ないんで……紙装甲ですいません」
嫌味で言っているワケじゃない。
これを言わないと、いずれ俺が丸焦げにされてしまう。
言わざるを得ないんだ。
ちなみに、オトナシさんは自分の魔法でヤケドしたりしない。
魔法使いのスキルである【火魔法】に含まれる【火耐性】のおかげだ。
さらにモデルの【美肌】で肌が強いのだ。この肌の強さは物理的な攻撃にも強い。
モデル、実は強いのだ。
「ほんとにごめんなさい……次からは加減するように気を付けますぅ……」
オトナシさんはしゅんとしてしまった。
いかん、ちょっと言い方が悪かったかもしれない。
「これからは、敵の強さに合わせて魔法を使う練習すれば大丈夫ですよ!」
「そ、そうでしょうか……。またゼンジさんを危ない目にあわせてしまったら……」
彼女はイメージで魔法を使っている。
頭で考えていない。
だから、悪いイメージをつけさせちゃダメなんだ。
委縮して力をセーブし過ぎるクセがついてはいけない。
「この先、強い魔法も必ず必要になります! ファイアボール、カッコよかったですよ!」
「え? ……カッコよかったですか? そうですか……えへへ」
機嫌が直った。
チョロい。いや、素直だ。いい子だ。
「じゃあ、次は火力を調整しながらやってみます!」
「はい。カッコいいところ見せてくださいね!」
乗せておこう。
褒めて育てるのだ!
オトナシさんの機嫌は最高潮だ。
さっきまで怖がっていた薄暗い洞窟をずんずんと進んでいく。
「あ、ゼンジさん! あそこにいましたよ! ファイアボール!」
「お、おう。――はやっ!」
現れたゴブリンに向けて、火球を放つオトナシさん。
ちょうどゴブリンの体を包むくらいのサイズだ。
これでも充分デカいけど……さっきのように俺がアツくなることはない。
ゴブリンは回避も防御もできずに炎に包まれる。
悲鳴も上げる暇もなく燃え尽きて、塵になってしまう。
「やったあ! うまく倒せましたよ! どうですか!?」
オトナシさんが興奮した様子で俺に詰め寄ってくる。
近い近い!
そんなに近づかれると俺がアツくなっちゃう!
「――う、うん。上手だったね。さすがリン!」
「えへへ! じゃあ、どんどんいきましょう! ここからは私が全部やっつけちゃいますね!」
「うん。……頼もしいなあ」
オトナシさんはやる気になったようだ。
やる気になりすぎちゃったかもしれないね……!
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