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コスチュームはくのいちで!?

二人でプレイ……コスプレ!?

 作成したくノ一(くのいち)装束(しょうぞく)をオトナシさんが試着している。

 俺は後ろを向いて、着替え終わるのを待っている。


「ずいぶん柔らかい素材ですね。よく伸びますー。えーと、これは首を通すのかな。腕の穴かな……?」

「防刃防炎素材で柔らかいイメージで作っています。左右の腕を通してから真ん中の首を通せばいけるはずです」


 ノースリーブの全身タイツという感じだ。

 色は濃紺。地味である。


 というか今……上半身は……。

 考えるな。感じろ!

 じゃない! 想像するな!


「腕と……この部分に頭を通して……できました!」

「あとは脛当(すねあて)小手(こて)を付けて完成ですね。ワンタッチで装着できるようにしてあります!」


 コウモリの皮と鉄で作成した具足と小手だ。

 色は光沢のない黒。俺の装備と同じ、地味で目立たない隠密仕様である。


「装着オーケーです! 変身完了しましたっ!」

「ちゃんと着ましたね? 振り返っても大丈夫ですね?」

「はい! どうぞ!」


 俺はゆっくりと振り返る。


 ――そこには、俺のイメージした痴女……もとい女忍者(くのいち)が立っていた。


 恥ずかしげな表情で、こちらをのぞき込むように反応を待っているオトナシさん。

 その破壊力は……。


「ぐはっ!」

「ど、どうしました?」


 俺は勢いよく顔を逸らす。

 直視するには刺激が強すぎる!


 漫画なの!? 絵なの!?

 いや、立体感が……三次元なの!?

 完璧なスタイルの……理想のくノ一がそこにいる。


「いえ、想像以上に似合っていたので驚いただけです。大変すばらしいです。よく似合っています。完璧です!」

「……なんだか、すごーく敬語が激しくなっていますけど……大丈夫ですか?」


 オトナシさんは心配そうだ。

 リアクションが激しすぎた。


「ほら、距離感を保たないと平静を保てないっていったじゃないですか! それです。これで普通の反応なんです。こういうのスキなんです!」


 いかん。本音が出ちゃう!

 忍べない!


「そ、そうですか? もっと普通に喜んでもらえるかと期待していたのに……」


 オトナシさんは複雑そうな表情だ。


 もともと着ていたヨガウェアのほうが肌の露出度は高い。

 オトナシさんは布に覆われていればいいと考えているのかもしれない。


 そもそもオトナシさんにはこの服(くノ一装束)の良さ……きわどさがわかっていない節がある。

 薄さといい、フィット感といい……着ていないも同然……!


「――ぐはっ!」

「や、やっぱり変ですか? 期待外れでしたか……?」


「いや、大丈夫。ちゃんと着こなしています。期待通り、いやそれ以上……!」


 俺のリアクションがおかしいせいで、オトナシさんの表情は曇り気味だ。


 俺の喜びが伝わっていない。もっとわかりやすく伝えよう。

 俺は頭で考えてばかりで、伝えられてないことが多いんだ。


 俺は拍手して彼女をたたえる。

 スタンディングオベーションだ!


「いえ! 喜んでいます。ほんとです。(ヨロコ)んでいますとも。大変すばらしいです! 完璧です!」

「よろこんでくれたなら……よかったです!」


「じゃ、装備はこれでいいですね。これでいいんです! さて、武器はどうします?」

「武器は使ったことないですし……魔法があるからいらないですー」


「たしかに、武器を持つのも危ないかもしれないですね。ナシで様子をみてみましょう!」

「はーい」


 刃物なんて持つと、自分を傷つける可能性がある。

 トンファーとか持たせても使いこなせないしな。

 ゲームじゃないんだから、職業によって武器が装備できないということはないけどね。


 オトナシさんは魔法使いだし、武器はいらないだろう。



 攻略に入る前に、ここで簡単な状況説明(ブリーフィング)をしておこう。


「じゃあ、このダンジョンについて説明しておきます」

「はい。説明お願いします!」

「まず、ここ(拠点)にはモンスターはあんまり来ないので、安全です」


 この部屋には俺の所有物が多くあるので、モンスターは()きにくい。

 安全と言える。

 まあ、入ってきてもゴブリン一匹。脅威じゃない。


 オトナシさんは俺よりレベルも上だし、魔法使いだから戦闘力も充分ある。

 低い階層なら問題ないと思うが、いきなり攻略を開始するのは危険だ。


 なんせ、オトナシさんのダンジョンはここに比べると牧歌(ぼっか)的……ほんわかしている。

 スライムやウサギ、花畑に太陽……平和な雰囲気なのだ。

 もちろんモンスターの危険はこちらと大差ないはずだけど、見た目って大きいからな。


「俺のダンジョンはスライムとかウサギみたいな可愛い感じのモンスターは出ません」

「かわいくない……どんなモンスターが出るんですか?」


 ダンジョンごとに、出てくるモンスターは違う。


「ゴブリンとコウモリです。ゴブリンは醜い小鬼って感じですね。力は弱くて、頭も悪い。で、顔がコワい」

「えっ! 鬼……? コワい顔の鬼ですか……」


 ちょっとテンションが下がった。

 まあ、モンスターですし。怪物ですし。

 可愛くないのが普通です。


「それから、このダンジョンのコウモリは……普通のコウモリが大きくなった感じです。空を飛んで、噛みついたり引っかいたりします。で、顔がコワい! かなりコワい!」

「コウモリの顔も……みんな顔がコワいんですね……」


 テンションがさらに下がった。

 俺もコウモリの顔はいまだにコワい。


「うん、まあ……モンスターですし……。それに、倒しても魔石しか出ません」

「ええー。ハズレしか出ないんですか!」


 いや、ハズレじゃないし!

 ここでは普通だし!

 オトナシさんのダンジョンとは違って、宝箱はモンスターからドロップしない。


「ハズレっていうか……当たり外れはないんです。モノリスっていう自販機みたいなものに魔石を吸い込ませると、アイテムと交換できるんですよ」

「自動販売機……? あ、前に聞きましたね!」


 そういえば前に少し説明してたな。


「魔石とアイテムが交換できる、とだけ覚えておいてもらえればオーケーです」


 実物を見せたほうが早いので、今は簡単な説明でいい。


「じゃあ、俺が先に立って歩きます。最初は俺がいつもの感じでやるので、見ていてください」

「ま、待ってください! 鬼が出ますか? コウモリが出ますか!?」


 俺はダンジョンの通路に向けて歩き始める。

 オトナシさんが不安げな顔で、俺の服を掴んで引き止める。


 あ、もうビビってる。

 そりゃそうか。


「一階層はちっちゃい鬼……ゴブリンが一匹ずつ出ます。人間の子供みたいなサイズなので、あんまり怖くないかもしれません。凶暴(きょうぼう)ですが……」

「きょ、凶暴なんですね。漫画で見たゴブリンって可愛い感じだったのに……」


 ショックを受けた様子のオトナシさん。

 勉強で見た漫画は、可愛いゴブリンだったんだな。


「漫画とかアニメでは可愛いタイプもいますね。最近の漫画だとけっこう仲間になったりするけど……。ここのは狂暴で(みにく)いタイプです。慣れればコミカルでかわいげも……」


 たしかに最近の創作だと、デフォルメされたゴブリンが多い。

 古き良き時代のファンタジーは狂暴、卑劣、下品な生き物だ。


 そして、残念ながらうちのゴブリンはかわいくないタイプなのだ。


「かわいげも……?」

「百歩譲ればかわいいかな。ないかな……」

「ないんですか……」

「まあ、実物を見ていただくということで。離れていれば安心ですよ」

「はい! クロウさんが言うなら安心ですね……ゼンジさんが言うなら!」


 言い直した!

 そして俺もずっと敬語になっていた!


「まあ、ここは任せてくださいよ! 任せろ!」

「はいっ! ここで見てますね」


 通路を少し進むとゴブリンが現れた。

 この階層のゴブリンは小柄だ。装備も貧弱。

 腰ミノと棍棒の原始的ゴブリンである。


「隠密してサクッとやるから見ててください」

「はい」


 【隠密】【消音】を発動する。


「あっ……」


 オトナシさんが小声で息をのむ。

 俺が【隠密】により姿を消した――認識されにくくなったからだろう。


 さいわい、オトナシさんの声にゴブリンは気づかない。

 距離があるし、ゴブリンは無警戒だ。


 俺は忍び足でゴブリンに近づいていく。

 そして背後からゴブリンの喉をかき切る。


 ゴブリンは声もなく塵と化す。


「という感じです」

「うっ……なるほど……こういう感じなんですね……」


 あれ、ちょっと顔色が悪い?


 ああ、そうか。

 ゴブリンは人型の生物で、ちょっと殺してる感がある。

 刺激が強いかもしれない。


 見ようによってはグロいもんな。

 スライムやウサギとは違う。


「ああ、そうか。オトナシさんはいつも魔法で遠くから倒してるからか。ちょっと生々しい感じでしたね。すみません」

「いえっ! 大丈夫です。すぐに消えちゃうし、モンスターは敵ですし。やっつけちゃっていいんです。びっくりしちゃっただけです!」

「びっくりさせちゃいましたね。やっぱり今日はやめときますか?」


 当たり前だが、モンスターは敵である。

 これは頭で考える前に体が勝手にそう認識する。


 オトナシさんもモンスターをやっつけていいと考えているようだ。


 初めてゴブリンを殺したときから、俺は罪悪感を感じていない。


 たぶんこれは、ダンジョンの仕組みのようなものだ。

 モンスターは敵であると認識するようになっている。


 認識か……。

 これもよく考えれば……俺の精神、意識に作用している。

 最初は違和感を覚えなかったけど、今はちょっと怖いな。


「……大丈夫です。一緒に……その、クロウさんが一緒なら大丈夫です!」

「……じゃあ、少しずつ慣らしていきましょう。もう少し俺が手本を見せますね」


 オトナシさんはかなり緊張しているんだろうな。

 呼び方が戻ってしまっている。


 オトナシさんのほうがダンジョン歴もレベルも上だ。

 強さもそうだ。


 だけど、ダンジョン探索の心構えは素人同然だ。

 レベルが高いからって、無敵じゃない。

 コワいものはコワい。


 これは俺もうっかりしていた。

 オトナシさんは普通の女の子だ。普通……たぶん。


 ダンジョンの中じゃなくても、虫とかコウモリとか来たらコワいし。

 自然な反応なんだ。


「はい……がんばります!」


 オトナシさんは頑張れそうだ。健気だなあ。


 そのあと、めちゃくちゃ手本を見せた。



「カッコいいゼンジさんを見てたら、勇気が出てきました! 私がんばれそうです! 次のゴブリンは私が魔法でやっつけてみます!」


 オトナシさんはやる気になったようだ。

 いよいよ、オトナシさんの魔法が炸裂か!?

修正履歴

2022/05/28

具足→脛当に修正。


2022/10/03

モノリスについては過去に簡単に説明しているため、セリフを変更

「自動販売機……? それは便利ですね!」

「自動販売機……? あ、前に聞きましたね!」

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