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二人で過ごす……ダンジョンのある新しい生活! その2

恋愛小説……?

バトル派、ダンジョン派の皆様……しばしお付き合いを!

 オトナシさんと俺の距離感。

 これを縮める方法……。


 俺は、うまい言葉が見つけられない。

 オトナシさんが必死に言葉を紡ぐ。


「私はもっとクロウさんのことを知りたいです……! もっと私のことを知ってほしい! めちゃくちゃに……じゃなくて……強引に……ううん……えっと……ちがくて」


 オトナシさんが口ごもる。


 めちゃくちゃにして!?

 なに言ってるんでしょうか! ちょっとわかりません!


「……気楽に?」

「そ、それですっ! もっと気楽に……もっと近くに来てほしいんです」


 オトナシさんは顔を赤くして、目を潤ませている。

 ああもう。かわいい。

 すぐにでも抱き寄せたいくらいだ。


 彼女にここまで言わせて、俺は何をやっているんだ!

 気取った言葉なんて要らない。


 彼女は俺を、ヒーローだと言った。

 彼女は俺を探し当てて、引っ越しまでしてきた。


 最初から俺は彼女に求められている。

 愛されているんだ。


 だから俺も、気負わずに話そう。

 言葉を選ばずに。選びすぎないように。


「気楽にすると言われても、難しいんだよなあ……」

「な、なんでですか!」


 オトナシさんは衝撃を受けたような表情を浮かべる。

 いや……悪い意味で言っているんじゃなくて。


 なんて言えばいいんだろう。

 どうすれば伝わるんだろう。


 頭で考えていることなんて、伝わるはずはない。

 感情なんてものは、頭で考えるものじゃない。

 もっと、整理されていないものだ。

 気持ちを考えるっていうのは矛盾している。


 それでも、それを言葉で伝えないと相手にはわからない。

 言葉だってあいまいで、ちゃんと伝えることは難しい。


 俺は頭をかきながら、言葉を探す。

 浮かび上がってきた言葉を、そのまま口にする。


 なんで難しいかって?


「――それは、大切だから。オトナシさんの前だとどうしても緊張したり興奮したりしてしまうんです。……平静ではいられないんだ」

「た、大切? うう……それはその……」


 オトナシさんの目を見て言う。

 彼女の潤んだ瞳が揺れている。


「――それは、好きだから。傷つけたくないから。傷つきたくないからなんだ」

「す、好きだから? それならもっと……私は傷ついたりしません。いえ、傷ついたっていいんです!」


 大切だから大事にしたい。

 心地いい今の関係を崩したくない。

 失敗したくないし、傷つけたり傷ついたりしたくない。


 でも、失敗してもいい。傷ついてもいい。

 またやり直せば、新しい道を探っていけばいい。


「俺も……もっとオトナシさんを知りたい。近づきたい。その手に、肌に触れたい。温度を感じたい。でも今はこの距離感を大事にしたい。少しずつ、二人の距離を確かめて近づいていこう。……どうかな?」


 俺の口から出た言葉は、ちっとも格好よくない。

 歯切(はぎ)れも語呂(ごろ)も悪い。


 ロマンチックでも詩的(ポエミー)でもない。

 でも、これが俺の気持ちだ。


 オトナシさんは俺の言葉を受け止めて、ゆっくりと頷く。

 表情からは不安が消えて、泣き笑いのようになっている。


「……はい! じゃあその……少しずつですね」

「うん。俺もなるべく敬語をやめる。そのうち自然な感じになると思いま……思う」


 おおう。勝手に敬語が出る。

 直ぐにやめられるものじゃない。

 だけど、だんだん馴染んでいくだろう。


「えへへ……ちょっと、近づいた気がします」

「オトナシさんも敬語だけどね。ゆっくり、気楽にしゃべれるようになろう」

「私も敬語……ですね。でも、誰に対してもそうで……敬語じゃない話し方って、どうやるんでしたっけ……」


 コミュ障だからなあ……。

 でも、システムさんやトウコに対しては、敬語抜きのときがある。

 やっぱり、オトナシさん側も俺に対して構えているんだろう。


「無理して直さなくてもいいけどね。話しやすいようにしてくれればいいよ。ほかに気になることがあれば直していこう」


 オトナシさんがモジモジしている。

 何か言いたいことがありそうだ。

 俺は、じっと待つ。


「……じゃあ、前から気になってたことがあって」

「なんでも言ってみて」


 この際だから、どんどん本音で話していこう。


「やりたいこと、です。してほしいことです。……その……ぜ……ぜ……ぜん……」

「うん……?」


 ぜぜぜん?

 ううむ。ぜんぜんわからん!


 ゼンから始まる言葉か。

 やりたくて、してほしいこと?


 全力……? 全国……?

 難しいな。


 私と全力で戦ってほしい! とか全国制覇目指しましょう!

 ……とか? ……やりたくないな!


 ダメだ。想像がつかない。

 ゼン……?


 オトナシさんが、思いきった感じで言う。


「ぜ……善治(ゼンジ)さん!」

「……俺……の名前か! つまり、名前で呼び合いたい?」


 ――黒烏(クロウ)善治(ゼンジ)。俺の名前だ。

 俺を下の名前で呼ぶ人はいない。

 苗字が名前っぽい響きだから、そのまま定着しちゃうんだよな。


「そ、そうですっ! トウコちゃんのことは名前で呼んでたのに……ズルいなって……前から名前で呼んでほしかったのに……」

「それは全然気づかなかった! じゃあ、今から名前呼びにしよう……リン」


「はいっ! ゼンジさん!」

「なんか、こっぱずかしいな……」


 和風すぎて、ちょっと地味だけど。

 俺には合っているかもしれない。


「いい名前だと思います!」


 リンって名前もいい響きだ。

 って、考えてないで口に出せ。


「リンって名前もカワイイ響きだよね」

「あうっ……た、たしかに、恥ずかしいですね」


 距離は縮まった気がする。


「あ、オト……リン! 昼飯のあと、俺のダンジョン攻略を手伝ってもらってもいいですか?」

「はい! 今日は土曜日ですから、一日中でもお付き合いできますよ……ゼンジさん」


 俺はこれまで、一人でダンジョンに潜ってきた。

 だけど、これからは違う。

 大切な人と、共に歩むことができる。

 ダンジョンの攻略だけじゃなく、この現実世界を歩いていく。


 もう俺は、一人じゃない。


 これからは彼女との、ダンジョンのある新しい生活が始まるんだ!


 ―― 二章、完。

これにて二章完了!


次は三章です! 乞うご期待!

章ごとに一人、二人と登場人物が増えて、話もスケールアップしていきます。


・明らかになるトウコのダンジョン! 無理ゲーなのか!?

・ブラックな職場へざまぁするのか!? ピンチを救うのか!?

・ダンジョンの謎に迫る!? ダンジョンの外でスキルを使うと……?

・オトナシさんとの協力プレイも!?

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