二人で過ごす……ダンジョンのある新しい生活!
この話と次で、二章は終わります。
二章は主人公とヒロインの二人がテーマです。
トウコが帰って、部屋は静かになった。
「トウコちゃんもダンジョンを持ってるなんて、驚きました!」
「……結構、ダンジョンってあるもんですね。偶然にしては多すぎる」
「そうですね……」
知り合い皆がダンジョンを持ってるわけじゃない。
たとえばシモダさんはダンジョンを持っていないし、知らない。
しかし……人に言わないだけで、ダンジョン持ちは他にも沢山いるということなのか!?
……まさかな。
ダンジョンについて考える俺をよそに、オトナシさんが興奮を隠せない様子で言う。
「でも、面白い子でしたね。トウコちゃん! 私、友達ができちゃいました!」
よっぽど嬉しかったんだな。
俺も二人が仲良くしてくれて嬉しい。
トウコがダンジョン持ちというのも驚いた。
だけど、二人が友達になったことのほうが、大きな出来事だ。
どちらも友達がいないのが悩みだった。
お互いの欠けているところが、ちょうどハマったんだろうか。
最初はどうなることかと思ったわ!
ピリっとしてたからな。
俺だけが感じていたのかもしれないけど、間違いなく危険だった。
台詞一つ、行動一つでどうなっていたかわからない。
オトナシさんは思ったより不安定で、トウコはそれに気づいていない。
俺はわかっていても、うまい言葉が浮かばなかった。
ギリギリ回避できた感じだな。
「あいつはアホだけど、頑張り屋なんですよ。二人が仲良くなれてよかった」
店の件でも、かなりの頑張りを見せているらしい。
店長代理という謎の役職……バイトリーダー的なものに祭り上げられている。
高校生に店の責任を押し付ける鬼畜オーナーよ。
時給が百円アップしたとか、本人は大喜びだったが……。
百円でその仕事、大丈夫か。
俺の抜けた穴を百円で埋めようとしやがって……。
やりがい搾取ってやつじゃないの。
まあ、百円でも給料が増えただけ、マシになったと言える。
……俺の給料は百円すら上がらないまま数年経過しましたけどね!
報われないね。
仕事ってなんだろう……。
あ、脱線したわ。
オトナシさんはうんうんと頷いている。
「よかったです! トウコちゃんのおかげです! 私はあんまり上手に話せないので……でも、トウコちゃんは話しやすくて」
「アイツって、なんとなく雑に扱ってもいい感じするんですよね。ある種の才能かもしれない」
トウコは裏表のない性格で、思ったことは全部言う。
つまらないこともくだらないことも言う。
聞かれたくないこと、言われたくないこともお構いなしだ。
こんなご時世、こんな社会では生きづらいだろう。
すぐに取り返しのつかない失言をしてしまう。
現代日本では、言ってはいけないことが多すぎる。
……いや、海外はもっとか?
「雑……? うーん……確かに。大丈夫と感じると言うか……。トウコちゃんの才能がとっても羨ましいです……!」
「ええっ? 羨ましいかな……」
ちょっとよくわからないが……。
普通は大事にされたいんじゃないの。
俺ももっと大事にされたり評価されたい。
でも俺は、どれだけ働いても評価も昇給もされなかった。
それって違法じゃね?
労働と報酬が見合わない。
努力は必ず報われるなんて言うけど、場所次第だ。
俺はブラック企業では報われなかった。
だけど、ダンジョンでなら努力はきちんと報われる。
雑に扱われる才能……俺は欲しくないな。
「うらやましいです! だって……私もトウコちゃんみたいに雑に扱ってもらいたいなーって……」
「雑に扱ってほしいの!? なにその要望……むずかしいですよ!」
付き合っているんだから、もっと距離を縮めてもいいはず。
だけど、軽々しく触れちゃいけないような気がする。
なんだろう……。オトナシさんの発する不思議な雰囲気がそれを許さない。
サン付けで呼んでしまう。敬語になってしまう。
オトナシさんは少しむくれた顔をする。
……かわいい。
「もう! その感じですよー。トウコちゃんには、なんかこう……もっと砕けた感じというか……すごく仲良しなのに。私にはいつも他人行儀な話し方しかしてくれないから……なんだか遠くにいるみたいに感じて……」
「うーん。その辺はキャラというか性格というか……。これまでの関わりがそうさせるというか……」
オトナシさんはもともと、気になる隣人というポジションだ。
憧れに近いものもある。
ルックスが美人系というのもあるな。
相応の距離感になってしまう。
わざと距離を置いているつもりはない。
こういうのって、自分で決めてるわけじゃない。
自然とそうなるものだ。
じゃあ、どうすればオトナシさんへの距離感を詰められるんだろう……。
それこそ自然とそうなるものだから……難しい。
「私の性格じゃ……ムリなんでしょうか?」
オトナシさんは悲し気だ。
肩を落としてしまった。
やべ。ちょっと言葉選びをしくじった!
「いや……そんなことはない! オトナシさんの性格が悪いわけじゃなくて……」
俺は言葉を選ぶ。そして考える。
これは多分、トウコのせいだ。
ある種の嫉妬というか……刺激を受けたんだな。
俺がトウコと気楽に接するからといって、好感度や恋愛度が高いんじゃない。
アイツはそんな対象ではないんだ。
職場の部下だし。年も離れている。
手を出す間柄じゃない。
近いのは、妹とか親戚の子のようなもんだ。
と言っても、そんなのは俺の考えでしかない。
伝わらない。
不安になってしまうのが自然なのかもしれない。
「ええと……俺の側の問題というか……うーん」
難しい。俺の側の心境というか……遠慮というか。
今でも俺はオトナシさんが彼女だという実感がない。
だって、現実感がない。夢でも見ているのかと思う。
こんな美人が、俺の彼女だと言って誰が信じるだろうか。
答えは否である。俺もちょっと信じていない。
ダンジョンが現れたことよりも、こっちのほうが大問題だ。
俺の自信が足りないのか?
そうだ。
俺は彼女に釣り合う男だと言えるだろうか。
最近、そればかり考えている。
俺はイケメンじゃない。金持ちじゃない。
平凡な元社畜でしかない。
強さすら……彼女を守るには足りなかった。
そこに、俺は引け目があるのかもしれない。
彼女はそんなことを求めてはいないとわかっていても……こだわってしまう。
……どうすればいいんだろう。
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