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もう一つの相談!? その2

 トウコがダンジョンについて口にする。

 オトナシさんが激しい勢いで俺を見る。


「クロウさん! それって……!」

「トウコ! その話、ちょっと待った!」

「な、なんスか? 信じられないかもしれないっスけど……あたし……」


 俺達の反応に、トウコはびくっと肩を震わせる。

 オトナシさんがトウコの手を取って、安心させるように頷いている。


「信じるよ、トウコちゃん! だけど、その話は大きな声で話してはいけないことなの」

「え? どういうことっスか……?」


 トウコは突然の俺たちの豹変(ひょうへん)ぶりに、追いついていない。

 俺達が焦っているのは当然、ダンジョンの話題が禁則事項に触れることを知っているからだ。



 俺は玄関のドアを開けて、外を確認する。

 あたりまえだが、ドアの外には誰もいない。

 誰も、この話を耳にしてはいない。


 階段から一階をのぞく。

 シモダさんはいない。たまに外でタバコ吸ってたりするからな。

 音漏れの激しいアパートだ。

 うっかり聞かれてしまっては困る。


 トウコの話しぶりは……信じてくれるか不安といった様子だった。

 嘘や冗談ではない。

 そうではないと信じさせるだけの説得力があった。


 ダンジョンの話を、それを知らない第三者に知られることは禁忌だ。

 禁則事項に触れて、世界から追放されてしまう。


「……いいぞ。誰にも聞かれなかった」

「さっきから、急にどうしたっスか!? なんか二人とも怖いんスけど……」


 俺もオトナシさんも険しい表情だ。

 トウコはその様子にただならぬものを感じているようだ。


「いや、別に怒ってるとかじゃない。ええとな……説明が難しいんだ。お前の言っていることを信じる。もう少し話してみろ。声は小さくしてくれ」


 俺もダンジョンを持っている。

 でも、そうは言えない。

 まだ、勘違いということもあり得る。


 勘違いだった場合は俺が追放される。

 ダンジョンの話題を自分から話すのは……危険すぎる。


「信じてくれるんスかっ!?」


 トウコが大きな声で答える。

 だから、声を下げろ!


「信じる。続きを小声で話してくれ。人に聞かれるとマズイんだ。理由は後で説明する」


 トウコはよくわかっていない顔だ。

 それでも、小声で話しはじめる。


「えっと……冷蔵庫に黒いもやもやがあって、それに触れられると洋館の中に移動するんス。そこにはレベルとかスキルがあって……漫画とかゲームみたいな感じっス」


 間違いない。トウコはダンジョン持ちだ!

 相手がすでにダンジョンについて知っている場合、禁則事項には触れない。

 相手が俺達だから、トウコは追放されない。


「……それはダンジョンだ。その話を俺たち以外にするんじゃないぞ! 誰にも話してないよな!?」

「すごく怖いことになっちゃうの! どこかに連れていかれちゃうの!」


 俺とオトナシさんは、トウコに言う。


「だ、誰にも話してないっス。なんか……人に言うのはヤバいって感じがしてたっス。それに、そんなこと相談できる人がいなくって……」


 ダンジョンの話を人に話そうと考えると……不安感がよぎるんだ。

 俺もそうだった。なんとなく、話してはいけないことだと感じる。


「誰にも言わずにいたのは正解だ。ダンジョンのことを知らない人に、その話を知られるとペナルティ(罰則)があるんだ。よくはわからないんだが、たぶん……この世界から消えることになる。どこへ行ってしまうのかはわからない」

「な……なんスかそれ。消える? それにダンジョンのことを知らない人にって……つまり……」


 トウコが俺とオトナシさんの顔を見る。

 オトナシさんが答える。


「私もクロウさんも、ダンジョンを持っているのよ」

「ま、マジっすか!?」


 トウコは大げさに驚く。


「マジだぜ。さっきも潜ってきたところだ」

「ま、マゾっすか!? 朝からダンジョンとか……変態(ヘンタイ)っすね!」

「変な奴を見るような目で見るんじゃない!」


 趣味なんだから、朝からダンジョンに入り浸ってもいいのだ。


「朝ごはんは私のダンジョンで食べるつもりだったけど、お昼にしましょうね。トウコちゃんも食べていく?」


 このごろ朝食はオトナシさんのダンジョンでとっている。昼でもいいね。


「ダンジョンでごはん……無理っスね。遠慮するっス……」

「あれ? このあと予定あるのか?」


 トウコが頷く。


「店の皆に報告しなくちゃいけないっス! 店長が復帰するって!」

「いや、ちょっと手伝うだけだって。嘘を伝えるのはよせよ」


 変な期待を持たせたくない。


「それで……明日、店に来てもらってもいいっスか? 皆には話を通しておくっス。オーナーに土下座(ドゲザ)の用意をさせて待ってるっス!」


 ……土下座とか見ても、ねえ?

 俺にとってはもう、過去の話だ。

 おかげでダンジョンに潜って楽しい毎日を送れている気すらする。


「むしろオーナーと関わりたくないが……。何時に行けばいいんだ?」

「昼の十二時でどうっスか?」

「おう、いいぞ」

「じゃ、明日お待ちしてるっス! 絶対来てくださいよ!」

「おう。ちゃんと行くよ」


 もちろん、俺の予定は空いている。

 ずっと先までフリーだぜ!


 トウコが、不安げな顔で言う。


「……それと店長。今度、あたしのダンジョンを手伝ってほしいっス。ちょっと無理ゲーなんスよ……」

「おう、いいぞ! どんなダンジョンなのか興味もあるしな!」


 トウコがほっとした表情を浮かべる。


 俺のダンジョンも難易度が高いと感じていたところだ。

 一人で攻略できる限界があるのかもしれない。


「よかった……! 変態の店長が手伝ってくれるなら心強いっス!」

「マゾでも変態でもないわ!」

「ほんとに今日は相談できてよかったっス! ……これでどうにかなりそうっス!」


 そうしてトウコは帰っていった。

 ダンジョンについて人に知られないようにと、しっかり釘を刺しておいた。

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