ボッチ同盟結成!?
そろそろ二章は終わり、三章に向けて進んでいきます。
「……というワケで、店長が店に戻ってくれることになったっスね!」
「微妙に改変したまとめをするな。正式な復帰じゃなくてちょっと手伝うだけな!」
トウコが勝手なことを言いだすのを阻止する。
オトナシさんが言う。
「でも、クロウさんはお仕事大好きなんですよね? よかったじゃないですかー」
「仕事は嫌いじゃないけど……ブラック労働はもう卒業したので」
「お仕事に向かう時のクロウさんって、なんかカッコいいなって思ってたんですー!」
そういえば前にもそんなこと言ってた。
働く男の背中ってやつですかね。
寝不足でくたびれた背中のような気がするけど。
「ホラ! 彼女さんの合意も得られたっス! バリバリ働いていいんスよ!」
「外堀から埋めるのやめてくれる!?」
「彼女さん……えへへ……」
オトナシさんがふわふわした笑いを浮かべている……。
玄関前での問答時の不安定感、コミュ障モードを脱した原因はこれか!
「彼女」とか「クロウさんが気にしていた」というワードが安心スイッチなんだ。
オトナシさんはコミュ障ストーカーだからな。
自分の立場がまだ不安定……自信がなかったんだ。
それを保証されるような言葉に弱いってわけか……。
俺から見れば、不動のヒロインの座にあるオトナシさん。
別ルートなんてありはしないっていうのに。
ともあれ、安定してくれるのはいいことだ。
トウコに乗せられてる感があるのはシャクだが、悪いことじゃない。
仲良きことは美しきかな。
「でも、リン姉さんは美人っスねー。どうやったらそんな髪がツヤツヤになるんスか……? 店長が盛ってるのかと思ってたけど……二次元の存在じゃなかったんスね!」
隣の部屋に住んでいる現役モデル女子大生。
スレンダー巨乳で黒髪ロングで美人系。それでいてコミュ障。
うん。実在しそうもない。絵かよ!
「そ、そんなことないですよ。トウコちゃんのほうが小さくって可愛くって羨ましいなあ……。私は大きいとかキツそうとか言われるから……」
トウコは空気の読めない活発系女子高生だ。
小さな体。ショートヘア。かわいい系の顔立ち。そして中二病。
よくしゃべるのに余計なことを言い過ぎるせいで友達はいないボッチ系。
「キツそうなんてことないっス! それを言ってるやつは美人さにビビってるだけっスね!」
「ぜんぜんキツくなんてないですよ! むしろぽやんとしてますよね」
「そ、そうですか? え……ぽやんとしてます?」
俺も最初、ちょっと近寄りにくい空気を感じていたのは内緒だ。
今はよく笑っているオトナシさん。
でも当初は無表情というか、緊張した面持ちだった。
すました美人って、ちょっと触れがたいものがある。
苦手意識みたいな。遠慮して声かけづらいみたいなね。
「リン姉さんは癒し系っスね! いや、いやらし系!?」
「癒し系? そうだったらいいですねー」
「後半はスルーしましたね!?」
トウコは思ったことを黙っていられない。
考えたことを全部口に出してしまう。
そのせいで、いつも誤解されたり遠ざけられてしまう。
言われたくないことも言ってしまう。
距離感がつかめない。全力で突撃して、正面衝突するような奴だ。
前に相談を受けたけど、学校では周囲に距離を置かれてしまっている。
絶賛ソロ学校生活中だ。
活発で明るくてよくしゃべる。
それなのに、コミュニケーション能力はトータルではマイナスだ。
相手の地雷を全部踏み抜くような感じ。
対してオトナシさんは引っ込み思案系。自分から発信していかない。
防御全振りして一歩も前に出ないような感じだ。
自分に自信がなくて、殻にこもってしまう。
二人はまるで対極だ。
だけど、そのせいか相性がいいみたいだ。
どちらも友達ゼロのボッチ。
「トウコちゃんは、楽しい子ですね。私、女の子と久しぶりにお話しできました!」
「あたしもリン姉さんと話せてうれしいっス! ファンになってきました! ファンクラブ設立してもいいっスか!」
「あ、そしたら俺も会員になるわ」
「ファンクラブはちょっと……。でも……と、友達とか……」
「友達になってくれるっスか!? ぜひ! 結婚を前提にお友達になってほしいっス!」
「わあ! 今日からお友達ですね!」
「また後半はスルーしましたね!?」
二人は手を取り合って喜んでいる。
それを見る俺は、温かい気持ちになる。
どっちも友達いなくて悩んでたもんなあ……。
よしよし。幸せになってくれ。
応援するよ。
あかん。ちょっと泣きそうだ。
ご意見ご感想お気軽に!