初志貫徹? 臨機応変? 予定通りにはいかないものです!?
六階層の探索は切り上げ、拠点に戻ってきた。
今日はちょっと激しい戦いだったから、無理はしないでおく。
レベルが上がったので、スキルを振ってしまおう!
「レベル12か。当初の予定では分身の術を5にするつもりだったけど……」
現実世界で使えるスキルは強化しておきたい。
今はレベル4だから、実体の分身が出せるようになっているはずだ。
――はずだ、というのは試していないから。
ストーカーのようにこの世界から追放されてしまうのではないかと心配なのだ。
スキルを使うところを第三者に見られることがトリガーだと思うが、確証はない。
スキルを外で使うだけでも、影響があるかもしれない。
今の段階では、いざという時の備えとしてレベルを上げておきたい。
大事なものが危険にさらされたとき、力がなくて守れない……なんてことにならないように。
現状の分身の術でも最低限の戦力にはなる。
おそらく外ではスキルレベルが2程度、弱体化する。
レベル2だと分身の場所を動かせないのと耐久力が弱いので使い勝手は微妙だ。
だけど、ダンジョンの中で力不足になっては元も子もない!
まずはレベリング効率を優先して、先に戦力アップを図ろう。
「貯金しておきたいけど、いま上げるべきは【入れ替えの術】だよね!」
当初の予定も大事だけど……予定変更だ!
【入れ替えの術】はさっきの戦闘でもうまく使うことができた。
移動能力であり、回避能力である。
かく乱にも、使い方によっては攻撃的に使うこともできる。
なにより術っぽいのがいい!
NINJA感ですよ!
派手だ。効果がすごくファンタジーだ。
瞬間移動だからね!
「では、取得! これで入れ替えの術はスキルレベル2だ!」
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【入れ替えの術】
レベル1:停止している対象と、自身の位置を入れ替える。
レベル2:サイズ、移動に対する制限を緩和する。
レベル3:サイズ、移動に対する制限を緩和する。
レベル3への必要ポイント:8
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「サイズと移動に対する制限の緩和か。つまり、動いていて体格の違う相手に術をかけられるのかな」
レベル1では小柄なゴブリンや動いている相手には術がかからなかった。
それに、術が発動するまでに約一秒かかっていた。
この縛りが軽くなれば、断然使いやすくなる。
「さっそく、分身の術を出して検証だ!」
分身を相手に、距離を変えながら射程距離と発動時間を調べる。
これまでの射程距離はおよそ二メートル。
今回は……四メートルだ。
「おお、発動も早い! これまでの半分だな!」
実用的になってきた!
欲を言えば瞬時に使えればいいんだが、まあ、そこはおいおいだろう。
術の発動に時間がかかるとはいえ、事前に術をしかけておけばいい。
ロックオンと発動は別という感じだ。
加えて、相手が移動していると駄目だが、俺は動いてても構わない。
動きながら、相手を足止めできていればいいのだ。
「麻痺毒とのシナジーもあるな。こうなると金縛りの術にも存在意義があったのかもしれない」
でも、毒でいいよね!
スキルポイント足りなすぎ問題だ。
他で賄える部分は、節約していこう。
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名前 : クロウ ゼンジ
レベル: 12
筋力 : C
体力 : B
敏捷 : B+
知力 : C
魔力 : C
生命力: C
職業 : 忍者、中級忍者
スキル:
【忍術】
【壁走りの術】2
【分身の術】4
【薬術】2
【忍具作成】3
【忍具】1
【体術】1
【毒術】2(NEW)
【中級忍術】
【判断分身の術】1
【入れ替えの術】2(1から上昇)
【隠密】
【隠術】2
【消音】2
【致命の一撃】2
【暗殺】2
【投擲】2
【歩法】2
【身体強化・敏捷力】1
【身体強化・筋力】1
【身体強化・体力】1
【暗視】2
【回避】1
【受け身】1
【危険察知】1
【跳躍】1
【軽業】1
【瞑想】1
【打撃武器】1
【打撃武器・威力強化】1
【フルスイング】1
【片手剣】1
【片手剣・威力強化】1
【ファストスラッシュ】1
【エラー】
【自律分身の術】
【意識共有】
(残ポイント:1)
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「スキルポイントが1余るけど、これは取っておくか」
どんどん取りたい気もするけど、ある程度は新しい術に慣れながらやらないとね。
「さて……ダンジョンの外に出る前に……メモを用意っと!」
今度こそ忘れないようにしなければ。
メモを手に持つ。
――リアル・ダンジョン攻略記を調べろ。わからなかったらダンジョンへ戻れ!
強く意識しながらダンジョンを出る。
アパートへ戻る。
手の中にはメモがある。記憶も意識もちゃんとある。
「リアダン……リアダン!」
いちおう、ぶつぶつと呟きながらパソコンを立ち上げる。
ちょっとヤバいヤツになっちゃってる。
「リアル・ダンジョン攻略記……お気に入りに登録されているな」
ちゃんとお気に入り登録されていた!
アクセスしてみる。
おなじみのページが表示された!
「よし、ちゃんと見れる! 前回、書き込んだまま何日も放置しちゃったな。返事来てるかな?」
前回の俺の書き込みだ。
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リヒトさん、回答ありがとうございます。
大変ためになりました!
認識が大事……持ち物を再点検してみようかと思います。
ちなみに忍者のスキルはやっぱり忍術です。
壁走りの術とか分身の術は、なかなか楽しいですよ!
「リアル・ダンジョン」は奥が深いゲームですね。
もしも、ゲームからアイテムを持ち出せるとしたら、リヒトさんなら何を持ち出しますか?
俺はやっぱり回復アイテムですね。
ポーションが外に持ち出せたら……。
夢が広がりますよね!
そういえば、まだキャラが死んだことはないんですが……。
死んだらどうなるんでしょうか。
キャラロストするんでしょうか?
あるいはデスペナルティがあるとか?
もちろん、安全にプレイするのが一番なので、慎重に遊ぶつもりです!
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リヒトさんからの返事がついている。
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ブラッククロウさん。
このゲームではいつでも認識が大切です。
強い意志を持つことです!
さて、もしアイテムを持ち出せたらですか。
アイテムの持ち出しは慎重にしないといけませんね。
おっしゃるように回復アイテムを持ち出せたら便利です。
でも便利すぎて、世界のバランスを崩してしまうかもしれません。
バレたら大変なことになってしまいますね。
ましてや、売ってお金にするなんてことは……オススメしません。
まあ、仮の話ですけどね。
キャラがダンジョン内で死んだらどうなるか、ですね。
これはダンジョンごとに違ってきます。
難易度が高いダンジョンだとリスポーン可能な傾向があります。
難易度との釣り合いを取ってるんでしょうか。
僕が今挑んでいるダンジョンは、リスポーン可能です。
いわゆるデスペナルティはあります。
具体的にはレベルが下がります。
せっかく育てたキャラが弱くなるのは、なかなか応えますね!
まずは誰も死なない、死なせないことが大事ですね!
よかったら、そちらの冒険譚をぜひ聞かせてください!
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もう一つ書き込みがある。
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ブラッククロウさん。
もう何日も書き込みがありませんが、無事でしょうか?
先日書いたように、ダンジョンの品物を持ち出したり売ろうとしたりしているのでしょうか。
今の段階では■■■■■■■■■■■
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「ん……? そういえばそろそろ晩飯の時間か……?」
俺はパソコンを閉じようとして……手に書かれた文字を見る。
――メモを見ろ!
「……メモ? ああっ! あぶねえ! リアダンだ! 今読んだ内容がもう……!?」
記憶が消えかけている。意識が逸れて、別のことを考えようとしている。
くそ……早いぞ。
パソコンのディスプレイには何も映っていない。
……いや、ウィンドウは閉じなかった。パソコンは消さなかった。
いまも、ディスプレイにはリアダンが表示されているはずだ。
見えないだけ。見えなくされているだけだ。
「認識しろ……。見える。読めるはずだ!」
ぼんやりと、画面に表示が戻る。
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ブラッククロウさん。
もう何日も書き込みがありませんが、無事でしょうか?
先日書いたように、ダンジョンの品物を持ち出したり売ろうとしたりしているのでしょうか。
今の段階では■■■■■■■■■■■しません。
まずはダンジョンの深層を目指してください。
最初の目標は一定の階層の攻略です。
そうすれば、より■■■■■が得られます。
僕のダンジョン名は「リアル・ダンジョン」です。
ブラッククロウさんのダンジョン名を教えてください。
いつか■■■■■■■■■■ます。
■■が強くなってきていて■■■■■■■■■■かもしれません。
無事でいればいいのですが。
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「目がちかちかする。頭が痛い……。でも、いくらか読める!」
書かれている内容は正直、よくわからない。
ダンジョンのアイテムを持ち出したり、売ったりすることをやめさせようとしている?
何か危険があると考えているみたいだ。
あるいは、ダンジョン内で死んだのかと心配しているのか。
もっと深く攻略することを勧めているみたいだ。
そうすれば……何かが得られる。読めないけど……。
力? アイテムかな?
考えがまとまらない。
気分が悪い……。
脳みそをかき混ぜられているみたいな気分だ。
返事を書かなければ。
あまり、長い文章はかけそうもない。
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リヒトさん。
ブラッククロウです。
俺は無事でなんとかやっています。
今は頭痛がひどくて、認識を保つのが精いっぱいです。
ピンチはあっても、まだ死んでいません。
ダンジョンごとの違いだということは、試すことはできませんね……。
自分のダンジョン名をどうやって知るのかわかりません。
「クローゼットダンジョン」とか呼んでいます。
ゲームだったら「コウモリとゴブリンの洞窟」とかになるでしょうか。
六階層から先は迷宮風になってるんですけどね。
頭痛がひどくなってきました。
またご連絡します!
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「はあはあ……送信!」
俺は頭痛と吐き気をこらえながら、送信ボタンを押す。
書き込みが掲示板に反映される。
そのとたん、ひときわ鋭い頭痛が走る。
「ぐああっ! 頭が……!」
まるで頭にドリルを突き込まれたような……!
頭が割れそうだ……!
――限界を超える苦痛に、俺は意識を失った。
誤字報告ありがとうございます! 助かってます!