見える……! 俺にも敵が見える! 【スキル検証】【暗視】【身体強化】
スキル振りも終えたところで、二階の探索を継続する。
いや、帰るべきか?
浅いとはいえケガをしている。
手当をするまでもなく血は止まっている。
これが元で死ぬとか倒れることはない。
いや、バイキンとか入らないか?
コウモリって病気を媒介してたような。
伝染病の元凶だったりするよね。
よし、帰ろう。汚れたし、風呂入りたい。
消毒もしなきゃな。
無理はいけない。
安全第一で行くと心に決めたのに、どうしても先へ進みたい気持ちがわき上がる。
ブラック労働の癖はなかなか抜けない。
やればやれる気がしてしまう。
「いかん! 迷ったら撤退だ!」
安全第一!
これは絶対だ。
このあたりは敵がいないので比較的安全だ。
もちろん、安全を確保した状態でスキルを振っていたのだ。
警戒は怠らない。
痛い目を見たばかりだから、当然だ。
コウモリのドロップ品と投げまくった棒手裏剣は回収した。
棒手裏剣は何本か行方不明だが、数十円の釘を無理に拾うことはない。
在庫は戻ればたくさんある。
長居は無用。
一階への階段部屋まで戻るとしよう。
帰りながら、できる検証はしていく。
まずは取得した【暗視】スキルを発動させる。
「おお、バッチリ見える!」
暗かった視界が、スキルの効果で切り替わる。
光源から離れても、はっきりと見える。
よく見えるが、色は失われる。白黒だ。
俺はスキルをオンオフして、視界を切り替えてみる。
「おお! 写真アプリの映像加工みたいで面白いな!」
白黒の視界の状態で体を動かしてみる。
ちょっと違和感はあるが、行動に支障はない。
これも慣らしていこう。
光を増幅しているからか、ヒカリゴケなどの光源を直視すると、少し目がくらむ。
敵が明かりを持っている場合は、不利になってしまうだろう。
ゴブリンは武器など道具を使う。
たいまつを使う可能性はあるな。
一応、警戒しておこう。
ゴブリンって夜目が利きそうだけど、どうなんだろう。
【暗視】を持っているのかもしれないな。
スキルではないけど夜目が利くということもあるだろう。
後で試してみたい。
階段部屋に戻る途中、天井にぶら下がっているコウモリの群れを発見した。
【隠密】【消音】は発動している。
見破られる可能性はあるが、距離を取っているので今のところはバレていない。
天井で休憩中のコウモリは、刺激しなければ安全そうだ。
群れの数は先ほどと同じくらい。12匹か。
リベンジの機会ではあるが、今は触らずにおく。
眠っているように見えるコウモリはやっぱり顔が怖い。
避けられる戦闘は避けておこう。
刺激しないようにゆっくりと距離を取る。
「よし、無事に階段についたぞ!」
すぐに階段を進んで一階へ。
一階にはコウモリはいない。
単独のゴブリンしかいない階層だ。
ここは安全だ。
つまり、検証し放題だ!
まずはゴブリンが【暗視】を持っているかを確認したいと思う。
ゴブリンを探して隠密状態で背後に回る。
ゴブリンに声をかけて、持ち込んだ百円ライターを目の前で着火するという手順だ。
行きに倒したルートではゴブリンが居ないかもしれないので、少し道を逸れる。
もちろん地図を描くことは欠かさない。
迷子の心配はない。
洞窟の暗くなっている場所でゴブリンを見つけた。
【暗視】のおかげで俺の行動に支障はない。
背後に回り込み、ゴブリンの肩を叩く。
「ギッ?」
振り返ったゴブリンの前に、さっとライターを差し出して点火する!
シュボっ! 灯った火が、暗闇に慣れたゴブリンの眼を痛めつける。
「ギギィィアァ!」
「め、目がァァッ!」
そして俺の眼もバルスされてしまう。
【暗視】が絶賛稼働中だった俺は、見事に自爆する。
視界が白く焼け付き、目が見えなくなる。
馬鹿か俺!
【分身の術】を発動させて、ゆっくりと後ろに下がる。
ゴブリンとはいえ、発見された状態で無防備をさらすのは危険だ。
案の定、俺よりも早く視界を取り戻したゴブリンは分身を攻撃して暴れまわっている。
次々に分身を生み出し、後退する。
ゴブリンには本体を見分けるほどの知能はない。
安全に、隠密状態に戻ることができた。
俺の視界も回復する。
そしてゴブリンを片付ける。
ふう。ゴブリンごときに苦戦してしまったな!
でも、貴重な情報を得た。
【暗視】状態で光を直視すると危険だということが知れた。
早めに弱点を知れて儲けものだ!
【身体強化・筋力】【身体強化・敏捷】【身体強化・体力】を確認する。
これはオンオフできる常時発動スキルだ。
オフにする意味はないから、常にオンにしておく。
体感は、なんとも言えない。
筋力や敏捷は少し上がったように感じられる。
劇的に超人的な強さが得られた感じはない。
最初のレベルアップで敏捷が上がったときは、結構なパワーアップを実感した。
おそらく生身の俺の五割増し程度に素早く、器用になったように思う。
それと比べるなら、一割か二割程度の増加だろうか。
筋力は、体感があまりない。少し体が軽くなっただろうか。
少し荷物が軽くなったくらいだ。
スキルを発動したからと言って、身体がムキムキになるわけではない。
見た目は変わらないのに、力が増すという謎の状態だ。
体力については全く体感はない。
疲れにくさの上限が上がるんだろうか。
疲労回復の速度が上がるんだろうか。
このあたり、どうやれば検証できるかな。
常に発動しているんだから難しいな。
「あ、オフればいいのか。こりゃ検証がはかどる!」
常時発動スキルはオフにすることもできる。
普通ならオフにする意味はないだろうけど、検証するには都合がいい。
オフにできることを喜ぶ奴なんて俺くらいかもしれないな。
ちなみに、ステータスはオフにできなかった。
ステータスがない状態は、ダンジョンの外に出ればわかるからいいか。
ダンジョンの出口にたどり着くまでの間、飛んだり跳ねたりゴブリンを殴ったりして検証を重ねる。
結果、【身体強化・敏捷】はおおよそ一割増程度だと思われる。
筋力や体力もおそらくは同じ程度だろう。
厳密に測るのは難しいので、やめておく。
あくまでも個人の感想です。結果には個人差があります。
……くらいの精度でいいだろう。
ステータスが向上することは確かだ。
上昇幅は劇的ではなくて、それなり。
筋肉量が増えるとか、見た目には影響しない。
強くなったことは確かだ。
スキルにはレベルがあるようだから、おいおいスキルレベルを上げて検証したい。
夢が広がるな!
ダンジョンの入り口へ戻ってきた。
ドロップアイテムの魔石は外へ持ち出すことができない。
それは前に出口に引っかかって出られなくなる事件で学んだ。
前回ダンジョンを出る前に置いていった魔石は、消えていた。
ダンジョンの床に接触しているとダンジョン産の品物は消えてしまう。
それは試して確認済だ。
外から持ち込んだ現代日本の品物は、ダンジョン内に放置しても消えない。
少なくとも一晩は消えなかった。
それも試して確認してある。
ずっと消えないかは、おいおい試すとして……。
ひとまずのアイテム置き場として使えるはずだ。
そこで、ホームセンターで購入しておいたプラスチック製の収納ボックスの出番だ。
ダンジョンに入るときに、入り口横に配置しておいた。
魔石を取り出して、収納ボックスに入れる。
「これでよし! 次回まで消えないはず。これが俺の宝箱だ!」
いずれはこれをお宝で満たしたい!
ダンジョンがだんだん秘密基地みたいになってきていい感じだ!
ちょっとしたアクシデントはあったが、充実したダンジョン攻略だった!
修正履歴
2022/08/08
読みやすさの修正。
ギャグ要素のためにバカっぽさが出るのを軽減。




