六階層の攻略再開! 新忍術の検証! 【入れ替えの術】
「さて、久しぶりに六階層の攻略だ!」
石造りの迷宮になっている階層だ。
作戦は前回と同じ。
壁の松明を回収して暗がりを作りながら進む。
【隠密】を主軸にする。可能なら【暗殺】する。
優先して倒すのはゴブリンの斥候だ。
戦闘が始まったら分身を出して応戦する。
……いた。ゴブリンの集団だ。
斥候、剣士、盾持ち、呪術師の四匹だ。
俺は暗がりで黒いマスクをつける。
さらに持ち込んだ防塵ゴーグルを身につける。
これで準備万端だ。
斥候ゴブリンが足を止める。
こちらに気づきかけている。
だが、その前に殺る!
投擲した二本の棒手裏剣が斥候の胸に突き立つ。
うずくまったところに、さらにトドメの一投。
「アギっ!?」
倒れた斥候を見て他のゴブリンが混乱する。
敵中にさらなる混乱を――激辛目つぶし玉を投げ込む。
ゴブリンの呪術師が詠唱をはじめようとして……激しくむせる。
他のゴブリンも目や口をおさえて苦しんでいる。
「ゴブ……ゴフッゲホッ!?」
「アギャア!」
自分で刺激物を吸い込むミスはもうしない。
俺は遠くから手裏剣を投擲して呪術師を始末する。
さらに剣士ゴブリンを倒す。
残りは盾持ちゴブリンだけだ。
盾持ちゴブリンは盾を構え、壁を背にして姿勢を低くしている。
目からは涙があふれていて【隠密】状態の俺の位置を見破るのは不可能だ。
こうなれば、手裏剣でも分身でも、こいつを倒すのは簡単だ。
だが、まだ倒さない。
盾持ちは検証のために残すのだ。
こいつで【入れ替えの術】を試す。
ゴブリンは俺よりも体格が小さい。体重も軽い。
しかし、盾持ちゴブリンは他のゴブリンよりは体格がいい。
それに大きな盾を持っている。こいつならイケるだろう。
俺は射程距離ぎりぎりまで距離を詰める。
こちらは通路の中央側、ゴブリンは壁側だ。
入れ替えの術を発動させるため、意識を合わせる。
盾持ちゴブリンは盾を構えたまま動かない。
よし……そのまま動くなよ。
――【入れ替えの術】が発動する。
瞬間的に位置が入れ替わる。
俺の視界には間近に壁がある。
盾持ちゴブリンはさっきまで俺が立っていた位置――通路の中央側へと位置が入れ替わっている。
「ゴっ!?」
ゴブリンが間抜けな声を上げる。
俺は振り向きざまに刀を一閃する。
無防備なゴブリンの背中を切り裂く。
さらに刀を引き戻して突きを繰り出す。
「ファストスラッシュ!」
刀身が背中から胸まで突き通る。
「ゴフッ……」
ゴブリンは吐血して塵と化す。
俺は刀を振って血を払う。
ぴっ、と迷宮の壁に血しぶきが飛ぶ。
血はすぐに塵となって消える。
「うむ……決まったぜ!」
俺は一人でにやりと笑う。
実のところ、ダンジョンでは血を払う意味はない。
格好いいからやるだけだ!
刀についた血も、放っておけば塵となって消える。
刀のサビになったり、脂で切れ味が落ちたりはしない。
血振り、血振るいという動作である。
刀を持ったらやりたいことだったのだ。
実際の刀だったら、振ったくらいじゃ血は落ちない。
しっかりと紙や布、革で拭ってから鞘に納めないと後が大変なのだ。
血の塩分や脂分で刀身も鞘の内側も汚れてしまう。
鞘の内側の掃除は大変そうだ。
俺の場合、サビたり曲がったらクラフトで直せばいい。
このあたりもダンジョンは親切設計だ。
「入れ替えの術は使いどころが難しいな……」
位置を入れ替える効果は良い。
盾を持った相手の背後に回れる。
相手の意表を突くことができる。
乱戦の中で使えれば、同士討ちさせることもできるだろう。
戦いの幅が広がる。
問題は発動の遅さだ。およそ一秒かかる。
この遅さは戦闘中には厳しい。
特に、敵が静止している状態が難しい。
俺は速度重視の戦いをするので、足を止めていられない。
距離も二メートルとやや短い。
クールダウンやコストは問題ない。
いまのところ連発しない術だからな。
「今後の成長に期待、だな!」
スキルレベル1はお試し版みたいな性能だ。
素早く、長距離に、動く標的に使えるようになれば……。
スタイリッシュな忍術として活きてくるだろう!
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