お肌の強さとチートなアレ……!?
オトナシさんはウサギ肉をラップで包むと、銀色の保冷バッグに入れていく。
「おお、用意いいですね!」
「はい! お肉が悪くなっちゃいますから。ちゃんと準備してきました!」
このサバンナエリアは日差しが強く気温も高い。
生肉はすぐに悪くなってしまう。
ダンジョンの中には冷蔵庫はない。
置いておけばモンスターの肉も消えてしまう。
となれば、食べきるしかない。
今回の狩りも、食べられる量を取って終了となった。
普通なら経験値や他のドロップ品のためにもっと狩るんだけど、ここでは食べることが目的だ。
オトナシさんは戦利品を小さなリュックサックにしまって立ち上がる。
「さあ、帰ってごはんにしましょう!」
「運動したら腹減りましたね。朝、野菜だけでしたね」
先に立って歩きだしたオトナシさんの足元で、何かが動いた。
「危ない!」
「えっ!?」
飛び出してきたのはお肉……ではなく角ウサギだ。
鋭い角を突き出している。
脱兎のごとき脚力で跳び上がる。
動けずにいるオトナシさんとウサギの間に割って入る。
俺の胸をウサギの角が貫く。もちろん、分身の俺だ。
間に割って入った分身が塵と消える。
「きゃああ!」
「大丈夫! 分身ですから!」
オトナシさんが消え去る分身を見て、悲鳴を上げる。
まあ、見ているほうは心臓に悪いよな。
けどしょうがない。
オトナシさんにウサギが突き刺さるのは見たくない。
空中で支えを失ったウサギが、落下を始める。
「うりゃあ!」
俺は五寸釘を寸鉄のように握りこみ、上から叩き付ける。
地面に打ち付けられた角ウサギが塵となる。
「ああ……よかった。クロウさんじゃなかったんですね! 分身だとしても……無理しないでくださいっ!」
「ええ!? 分身はやられても大丈夫なので無理も何も……」
無理をおっしゃる!
分身は見ている側には区別がつかない。
いきなりやられると、怖いかもしれないな。
と言っても、どうしようもないことだ。
本体でやるわけにはいかない。
というか、分身の胸を貫通する勢いで刺さっていた角の威力よ。
即死しかねない。
ウサギ怖くない!?
「ところでオトナシさん……いつもってどうしてるんですか?」
「え……いつもは……刺されちゃいますね」
食らってるの!?
「いや、無理しないで!? 刺されちゃうって……大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です。あさーく刺さるだけです。傷跡も残りませんし!」
「浅く……? あ、防御力みたいなスキルがあるんですね?」
「システムさんが言うには、【モデル】の【美肌】のおかげらしいです。お肌が強くなるんですよ!」
「お肌、強すぎない!? 大丈夫なの!?」
美肌効果……。
日焼けしないどころじゃなくて、防御力が増えているのか!
俺の【分身の術】の強度はこれまでよりずっと強い。
スキルレベル3は殴った程度だったが、スキルレベル4はもっと強度がある。
何発も殴って試したが……すぐには消えなかった。
それを破壊できる威力の角の一撃を受けても、オトナシさんは無事ってことだ。
「それは……やっぱり痛いですよ。危ないから、お肉は我慢してたんです!」
「普段から危険を冒して肉を狩ってたわけじゃないんですね……そうならよかった」
オトナシさんはある程度敵の位置を感知できる。
でも完全じゃない。土の下……穴の中まではわからない。
角ウサギは基本的におとなしい。
だけど、近距離で攻撃の届く範囲の場合は別だ。
鋭い攻撃を持った、強力なモンスターなんだ。
ただ狩られるだけのザコではない!
ここは一応、第三エリアだ。
俺のダンジョンでも三階層の敵は油断すれば大ケガするような難易度だ。
この草原ダンジョンも難易度は変わらない。
食べ物が手に入りやすいし、草木も生えていて楽園のようではある。
だけど、本当にイージーモードなわけじゃない。
ちゃんと危険のあるダンジョンなんだ!
オトナシさんはまっすぐな笑顔で笑いかけてくる。
「大丈夫ですよ。一人でここへは来ません。クロウさんなら、あのくらいやっつけられるかと思って!」
……無条件の信頼だ。
確かに、オトナシさんは敵は強くないと言っていた。
狙われたのが俺なら、たぶん回避できただろう。
だけど、絶対じゃない。
思われているほど俺は強くない。
信頼に足るくらい、強くならなきゃな!
「まあ……任せておいてください。ここに来るときは、もっと気を付けて行きましょう!」
「はい! 頼りにしてます!」
「宝箱開けてみましょうか……お?」
「あ、それがツノです! きれいですよね!」
ウサギの額に生えていた角と同じだ。
茶色い円錐の角。
きれいというほど、特別なものには見えないが……。
「この角って、何か使い道あるんですか? システムさんに聞いてもらえます?」
「システムさん、鑑定してください!」
<名称:角兎の角。カテゴリ:素材>
「か、鑑定!?」
「素材にできるみたいですけど……詳しいことはわかりませんねー」
「さらっと、チートな感じのスキル使いましたね!?」
「え? ちーと?」
え、何かおかしいですか?
……みたいなきょとんとした表情を浮かべるオトナシさん。
そのリアクション……チート系主人公なの!?
「いや……鑑定スキルって、レアで強力なスキルなんですけど……普通に持ってるんですね」
俺はいくら頑張っても取れないんだけど。
「私が使えるんじゃないですよ。システムさんがやってくれるんです!」
「システムさん……! どっちにしろチートだわ……」
【サポートシステム】スキルがチートか!
そして俺にはどっちにしろ取れないスキルだった!
「チートってなんですか?」
「……ズルいってことです。いや、ただの嫉妬なので気になさらず」
「やっぱり私……ズルいですか」
しょんぼりするオトナシさん。
前に、オトナシさんは美容にスキルを使っていることをズルしていると気にしていた。
――だって、こういうズルしないと、クロウさんが振り向いてくれない気がして……
いや、そっちは別に構わないんだ。
「そっちのズルじゃなくて……。ちょっとうらやましいと思っただけです。いいと思います……もう、ぜんぜんオーケーです!」
「うらやましい? もし私がお役に立てるなら……なんだってするので、言ってください!」
「あ、ありがとうございます」
なんか、かみ合っていない気はするけど……いいか。
もう、ぜんぜんオーケーです……!