すばしっこくて美味しいヤツ! でも……モンスターなのよね!?
角ウサギ……ファンタジーではおなじみのモンスターだ。
だいたいはザコ敵として表れる。
特徴は素早い動きや、角での攻撃だ。
鋭い角は人間を一撃で倒せる場合もある。
目の前のウサギには、額に一本の角が生えている。
鹿の角のような、茶色っぽい材質だ。
節はなくて、まっすぐに伸びている。円錐で先端が鋭い。
そして角ウサギにはもう一つ、角のほかに特徴がある。
最大の特徴は――。
「ツノウサギさんは……すっごくおいしいんですよ!」
そう。美味いのだ。
たいていのゲームや創作の中で、美味しい肉とされている。
そして、臆病で逃げ足が速い。
この草原にいる角ウサギも、きょろきょろとあたりを窺いながら草を食んでいる。
警戒心が強いようだ。
まだ、こちらには気づいていない。
俺はじりじりと距離を詰めていく。
【隠密】と【消音】は発動している。
しかし、明るい昼間で丈の低い草が多いここでは、身を隠すことは難しい。
十メートルほどの距離に入る。
すると、角ウサギは耳をぴくつかせてこちらを警戒する。
「ウ!?」
「お……この距離で気づくのか」
ウサギの声は……「う」とか「ぷ」のように聞こえるな。
ウサギはこちらをじっと見ている。
目が合った……。目は赤く大きい。
バレたな。
やはり【隠密】も【消音】も効果が低い。
この距離から手裏剣を投げても当てられるが……。
じっとこちらを警戒している状態では……動作で避けられてしまうだろう。
「ファイアボール!」
「ウゥ!」
オトナシさんが問答無用でファイアボールを放つ。
ウサギは、すばやく跳躍して逃れる。
足元に着弾したファイアボールは地面と周囲を焦がし……煙を上げる。
もうウサギの姿は見当たらない。
「ああっ! やっぱり当たらないですねー!」
「惜しかったですね! 俺のほうに注意が向いていたのに、よく避けたな!」
今のファイアボールは直撃コースだった。
さらに、ウサギはこちらに気を取られていた。
そのうえで回避するとは……素早い。
「あー! 残念……穴の中に逃げちゃいましたね!」
「穴……? あ、あれか」
先ほどウサギがいた場所の近くに、ぽっかりと穴が開いている。
巣穴だ。
このウサギは砂の中に穴を掘って、そこに隠れている。
「攻撃するとすぐ穴に逃げちゃうんですよね。それに、穴の近くからあんまり離れないんです!」
オトナシさんは残念そうな表情を浮かべている。
「穴の中にファイアボールを撃ち込んだら、簡単に倒せないですかね?」
「……え? でも、穴は深いのでお肉が手に入りませんよ?」
きょとんとした表情を浮かべるオトナシさん。
たしかに、穴に火魔法をぶち込めば、確実に倒せる。
逃げ場のないウサギは丸焦げになる。経験値も手に入る。
だけど、ドロップアイテムは巣の中、地中に生成されて手に入らない。
巣穴は人間は入り込めないサイズだし、掘り起こすのも難しい。
ただモンスターを狩って、経験値やレベルを上げるのなら、それでもいい。
そういう考えがオトナシさんにはないんだ。
美味しい肉のために戦っているだけ。
無意味な殺生をする気持ちが端からない。
モンスターは敵だ。見ただけで敵と認識する。
嫌悪感も覚えるし、殺しても罪悪感はない。
モンスターとはそういう存在だ。
ゴブリンもコウモリもたくさん倒してきたが、俺は後悔したことはない。
ウサギはゴブリンよりも、見た目にはカワイイとも言える。
だが、スライムも角ウサギもモンスターだ。
ゴブリンと同じ存在だ。
だけど……どうせなら食べて供養してやるのが礼儀のような気がする。
そう、このダンジョンの敵は食べられる。ゴブリンとは違う。
どうせなら、意味のある狩りをしよう!
ちょっと甘い考えだけど、オトナシさんを俺みたいな殺伐として現実的な考えに染めることはない。
ここでは、食べるために狩りをする。
そういうことにしよう!
「……そうですね。次のウサギを探しましょうか!」
「あ、ほら、あっちにいますよ!」
ウサギは少し先にいる。
さっきと同じように、じりじりと距離を詰める。
「オトナシさん。合図をしたら攻撃を」
「はいっ!」
ウサギの行動パターンはわかった。
およそ十メートルに近づくと警戒に入る。
攻撃察知能力は高い。不意を打っても回避するほどの素早さがある。
攻撃されると巣穴へ逃げ込む。
俺はぎりぎりの距離から、ウサギの周囲を回り込むように移動する。
警戒されない限界を維持して、回り込む。
――あった。穴だ。
俺は気配を消して、穴の近くに待機する。
手を上げて、オトナシさんへ攻撃の合図を出す。
「ファイアボール!」
火球が放たれ、角ウサギがそれを回避する。
一目散に穴へ向けて走り出す。
反射的に安全な場所――巣穴へ戻ろうとしたウサギは、俺の存在に気づくのが遅れる。
「もらった!」
穴へ向かうウサギへ、俺は棒手裏剣を投擲する。
すでにこちらへ向けて走り出したウサギは止まれない。
棒手裏剣がウサギへ突き立ち、絶命させる。
宝箱が生成されて、砂の上に転がる。
「やりましたねっ! クロウさん!」
「よし、この調子でどんどん狩ろう!」
攻略パターンさえできてしまえば、あとはどうとでもなる。
俺達は狩りを続け、大量の肉とドロップアイテムを手に入れた。
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