強欲と憤怒と嫉妬と!
アパートの部屋に戻ってきた。
道中で、公儀隠密へ今日の出来事は報告しておいた。
白銀と宝石商の行き先はネットワーク越しに追跡しているそうだ。
任せておけばいいだろう。
コーヒーを淹れて一息つく。
「ふう。
やっと帰ってきたな……。
予定外の攻略だったけど、宝石商さんのダンジョンが悪性化する前でよかったな」
当初の予定は白銀とトクメツの仲裁だった。
そっちは丸く収まったけど、宝石商のほうが長引いた。
いろいろ話を聞けたし、トレードもできた。
だけどなにより意義があったのは、ダンジョンの間引きだ。
悪性化する前に手を打てたのは、よかった!
トウコのように、ダンジョンに食われずに済んだのだ。
トウコが手をひらひらさせて言う。
「しょーがないヤツっスよねー。
放置しすぎなんスよ、まったく!」
お前が言うんかい!
放置の第一人者め!
リンが思い出すように言う。
「宝石商さんはダンジョン攻略には興味がないみたいでした。
きっと、石のことばかり考えているんでしょうねー」
「たしかに、変わった人だったな。
コミュ障なだけじゃなく、人に興味がないんだろう」
何事も石が最優先。
人の気持ちなんて考えていないのだ。
純粋とも言えるし、薄情だとも言える。
トウコが不満げに唇を尖らせる。
「ひどいっスよね!
せっかく手伝ってあげたのに、イケメンにホイホイついってっちゃうし!」
「そうだねー。
少し失礼だったと思うなー」
おや?
リンも思うところがあるようだ。
「感謝が足りないっス!」
ぷりぷりと怒り出すトウコ。
俺はなだめるように言う。
「まあ、トレードのときは大喜びしてたし、
ボス討伐でも感謝してくれたぞ」
「石が手に入って、喜んでいただけかもしれませんねー」
「ボスの先の石を集められるから喜んでただけっス!」
二人して辛辣な意見だ。
気持ちはわからなくもないが、俺はあまり気にしていない。
「まあ、そうかもな。
白銀についていったのも、石拾いが楽しみなんだろう。
俺は感謝されるために宝石商を手伝ったわけじゃない。
俺はぜんぜん気にしていないぞ!」
「ゼンジさんがそう思うのでしたら……私も気にしないことにしますねー」
リンは溜飲を下げたようだ。
「それに、いろいろ珍しい品も手に入ったしな!」
その言葉にトウコがケロリと表情を変える。
「あ、そうっス!
ボスの魔石があったんスよね!」
「そういえば、宝石商さんは【強欲】のスキルをお持ちなんですよね?
その割には、簡単に譲ってくれましたねー」
「たしかにそーっス!
普通、強欲キャラはもっとがめついっス!」
「ふむ。
宝石商も言っていたように石が望むから、ってやつか?」
リンが俺の言葉にうなずく。
「そうですね。
私も、嫉妬や憤怒の魔石については、そうだと思います。
ボスさんの魔石については、きれいな黒曜石が欲しかったんじゃないでしょうかー」
「独り占めするかと思ったら、しなかったっス!」
「それをしたら、俺たちと険悪になるからな。
二度と手伝ってくれないことくらいわかるんだろ」
「案外、ちゃっかりしてるっスね!」
「いい意味にとらえるなら、交渉の余地があるってことだな」
「ふふ。
ゼンジさんは優しいですねー。
……どうせなら、私にだけ優しくしてくれたら……」
リンが何かつぶやいたが、よく聞こえなかった。
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