呼ばれてホイホイ!
「じゃ、宝石商さん。
俺たちは帰るぞ」
「……あ。
私はもう少し、新しい石と語らいたいので……ハイ」
石を並べてゆるんだ表情を浮かべる宝石商。
「勝手に帰れってことっスかね」
「楽しそうですし、邪魔してもいけませんねー」
「ちゃんと玄関まで送ってほしいけどな」
友達の家に遊びに行ったけど、ゲームとかに熱中して部屋から帰らせられる気分。
家族に出くわしたら気まずい感じになるやつ。
「ちょ、ちょっとしたら行きますので、先にどうぞ……」
「いや、帰ってから送りに来てくれても遅いだろ。
まあいいか。
ちゃんと鍵を閉めるんだぞ」
部屋の様子から一人暮らしに見えた。
不用心すぎるんだよな。
「ふふっ。
ゼンジさん、まるでお母さんみたいですね!」
「小言ジジイっス!」
「お母さんでもジジイでもないわ!」
そんな話をしながら、転送門に触れる。
意識が暗転し、ダンジョンの外へ。
む……?
目の前に誰かが立っている。
腕組みをした、偉そうな態度の男。
こちらを待ち構えていたようだ。
こいつは白銀じゃないか!
俺を見て、意外そうな顔をしている。
「む、クロウゼンジか!
宝石商の部屋で、なにをしている」
白銀とは宝石商の家に来る前に会ったばかりだ。
俺たちを追ってきた……わけじゃあるまい。
白銀は俺がいることを意外に思ったようだしな。
表情に敵意は見えない。
だが疑問はあるようだ。
こっちこそ、なぜここに現れたのか聞きたいが。
トウコとリンが俺の後ろで小声でつぶやく。
「うぇ?
なんでこんなところに半裸イケメンが居るんスか!?」
「今日はちゃんと服を着ていますけど……」
今回は、服を着ている。
さっきホテルに現れたときと同じ服装だ。
俺は白銀の問いに答える。
「俺たちは宝石商と話した流れで、ダンジョン攻略を手伝ってたんだ。
白銀こそ、なんでここに……?」
「宝石商が助けを求めてきたんでな。
知らない連中に呼び出されたから、すぐ来てくれと」
そういうことか……。
俺はため息をつく。
「たぶんそれは俺たちのことだ。
話をしたくて、呼び出したんだよ」
トウコが口を尖らせる。
「知らない相手とはつれないっスねー。
マブダチっスよ、あたしたちは!」
そこまでじゃないと思うが。
「誤解を生むようなことを言わないで欲しいよな……」
「ほんとうですねー」
この場にいない宝石商に小声で愚痴る俺たち。
トウコが白銀に言う。
「で、イケメンは呼ばれてホイホイ来たんスか?」
「トウコちゃん……言い方、ね?」
白銀がぎろりとトウコを睨む。
しかし返す言葉に怒りはない。
「ふん。
部下の助けに応じるのは王として当然のこと。
それで、宝石商はどうした?」
おっと、そうだった。
当の本人はまだダンジョンの中だ。
ややこしくなる前に、呼んだほうがいいな。
「宝石商なら、中で戦利品を整理している。
俺たちはダンジョンが悪性化しないように手伝ってたんだ」
「む、そうか」
白銀は素直にうなずいたが、俺たちの前に仁王立ちしたままだ。
じゃ、先に帰るぜ、とは言えない雰囲気。
そりゃそうだな。
白銀から見て、部下の安否がわからないままだ。
俺だったら、ちゃんと確認するまでは安心できない。
「トウコ、宝石商を呼んできてくれ」
「ほい」
転送門へ入るトウコを、白銀は黙って待つ。
すぐにトウコが宝石商を連れて戻ってきた。
宝石商は白銀を見て、目を丸くする。
「あ……白銀さん!
どうしたんですか、こんなところに……?」
「どうしたもこうしたもあるか!
すぐ来てくれと頼んだのはお前だ、宝石商!」
白銀が指を宝石商に突きつける。
宝石商が思い出したように言う。
「あ……そうでした!
この人達が来ると聞いて、焦って連絡したんでした。
す、すみません!」
がばっと頭を下げる宝石商。
白銀が呆れた顔で言う。
「まあいい。
来たついでだ。
前に言っていた悪性ダンジョンへ行くぞ!」
「あ……はい!
あ、あの、準備するので待ってください!」
宝石商がそそくさとダンジョンに戻っていく。
さっき攻略したばっかりなのに、行くのか。
「二人で悪性ダンジョンに行くのか?」
「そうだ。
お前も行きたいと言うなら、連れて行ってやろう」
「いや、けっこうだ。
今日はもう十分、ダンジョンを満喫したよ」
「そうか」
「お、お待たせしました!
いい石が見つかるといいですね……ハイ!」
「ふん。
この白銀ユウヤが倒せば、石でもなんでも手に入るだろう!」
いや、そうはならんだろ!
魔石なら落ちるだろうけど!
とは思ったがツッコまないでおく。
「ではな」
白銀は背を向けて部屋から出て行った。
宝石商がぱたぱたとその背を追う。
石を集められるのが嬉しいのだろう。
去っていく二人をトウコが半眼で眺める。
「なんだったんスか、あれ」
「……ふーむ。
よくわからんが、俺たちも帰るか」
「そうですねー」
って、白銀と宝石商はもういない。
おいおい、俺たちより先に出て行ってどうする!
「玄関のカギくらい閉めてくれよ……」
「困りましたねー」
「しょーがないやつっス!」
仕方がない。
俺はピッキングツールを取り出す。
スナバさん仕込みの鍵開けスキルで、なんとか鍵を閉めた。
「宝石商さんが鍵を持たずに出ていたら、困ってしまいますねー」
「それはさすがに知らん!
鍵屋でも白銀でも呼んで開けてもらうんだな!」
「それか、店長に連絡っスね!」
知らんぞ!
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