帰る前にボスエリアを探索しよう!
「さて、ボスも倒したし間引きはもう充分だろう。
そろそろ引き上げるぞ」
「そうですねー」
「あ……帰る前にこのあたりを掘っておきたいんですが……」
「ああ、ボスがいないうちに調べたいんだな。
下に降りるんじゃなければ付き合うぞ」
「あ、ありがとうございます」
「下の層に進んで、ボスを出現させたら面倒だからな」
宝石商が気まずそうな顔になり、うつむく。
「うっ……」
「どうした、宝石商さん。
まさか……」
「そ、それでしたらもう……。
下の階層のボスは出してしまっていまして……ハイ。
その、すみません」
宝石商が頭を下げる。
「いや、別に俺たちに詫びることじゃないだろう」
リンが納得したように言う。
「宝石商さんはボスさんと戦わずに下に降りていたんでしたね。
そのまま、次のボスさんのところに進んでいたんですねー」
「そ、そうなんです。
次のボスからは逃げきれたことがないので、その先には行けていません」
無理やり突破しようとしすぎだろう!
戦わずにひたすら掘り進んで、アイテムを収納して死に戻るスタイル!
復活前提の片道切符だ!
さすがの強欲持ち!
命より石が大事らしい!
トウコが人差し指と親指をエル字に伸ばして顎に当てる。
「てことは!
今頃そのボスもパワーアップしてるっス!
エクストラ報酬がウマウマ状態っスね!」
「それだけ強敵を倒さなきゃならないってことだけどな」
宝石商が両手の指をもじもじさせながら言う。
「あの……それで、手伝っていただけないでしょうか?」
「手伝うのはかまわないぞ。
ただ、今日じゃない。
別の日に、もっと準備してから挑もう」
「は、はい。
ありがとうございます!」
「じゃ、このボスエリアを調べたら帰るぞ」
トウコがショットガンを構えて意気込む。
「しゃー!
掘りまくるっスよ!」
「じゃあ俺は上から空気を送ろう。
空気が薄くなってきた気がするんだよな」
深く掘るほど、地表からの空気が届かなくなってくる。
【操風】で起こせる風にも限度があるし、四人で狭い空間にいると酸素は減る一方だ。
リンが同意する。
「たしかにうす暗くて、少し息が詰まりますねー」
「ほ、蛍石を出します……ハイ」
宝石商がいくつかの蛍石を追加で取り出し、各自に手渡す。
ぼんやりと発光する石のおかげで明るさが確保できた。
便利なものだ。
「そう言えば、この石はどこで手に入れたんだ?」
「この下の地層に蛍石のブロックがありまして……。
光っているので壊さないほうが掘り進むのにはいいんですが……」
「へえ。
設置された照明みたいなものか。
壊すと蛍石が手に入るんだな」
「壊してゲットしてるんスよね!」
「そうです、ハイ」
ボスエリアを横方向に掘り進む。
砂ブロックを壊しても、ほとんど石はドロップしなかった。
特殊な黒曜石も見当たらない。
ボスエリアの底には黒曜石のブロックがあった。
これを壊せば、さらに下のエリアに行けるわけだ。
今日はこれ以上進まないので、ボスエリアの底は破壊しないでおく。
「ふつーの石すら出ないっスねー」
「ミミズさんが食べちゃったのかもしれませんねー」
「スノーフレークのような石が見つかると期待したんですが……残念です、ハイ」
「それなら、ボスエリアの上の黒曜石ブロックを壊してから帰るか?」
「は、はい、そうしましょう……ハイ!」
硬いブロックも時間をかければ壊せないことはない。
判断分身を使ってコツコツ壊していく。
熟練度で成長したおかげで、与えられる条件数が増えた。
といっても、穴を掘るのに複雑な条件はいらない。
魔力消費量が増えるだけなので、一通り試した後は最低限の命令だけ与えて省エネ状態で使っている。
いくらかの黒曜石をゲットし、俺たちは地上へ脱出した。
<熟練度が一定値に達しました。スキルレベルが上がりました!>
<【操風】 1→2>
「おっ!?
【操風】のレベルが上がったぞ!」
「わあ、よかったですねー!」
「おめっス!
これで扇風機の術がパワーアップっス!」
空気を操る術は、実に便利だ。
「検証者から外して、新しいスキルを取るんですかー?」
「ちょっと迷ってるんだ。
基礎スキルの【風忍法】が【検証者】にセットされた状態だからな……。
外していいか、ちょっとわからん」
「あー、親スキルがないまま子スキルが独立しちゃうんスねー」
「消えるかもしれないし、独立して残るかもしれない」
「自律分身の術みたいに、エラースキルになるかもしれませんねー」
【自律分身の術】を取得したときは【上級忍術】はまだ取得できていなかった。
初討伐報酬でイレギュラーな方法で手に入れたから、特殊な状態になってしまった。
「エラー状態でも使えるから困らなかったが……。
その間は熟練度が貯まらなかったんじゃないかな」
「じゃ、今のままがいいっスね!」
「そうだな。
検証者にセットしたまま育てることにしよう。
そうしていれば【風忍法】のほうも育つはずだしな」
「基礎スキルを育てるには、たしか子のスキルを五段階まで育てればいいんでしたねー?」
「さすがリン。
よく覚えていたな!」
「てことは【操風】を熟練度で五段階まで育てるんスか?
はー、気の長い話っスねー」
「ま、二系統の術を使えるんだから、そのくらいの不便はしかたないさ」
「まー、ズルみたいなもんスからねー」
「人聞きが悪いな。
仕様の穴をかいくぐったと言ってくれ!」
「ふふっ。
さすが忍者さんですね!」
「さすが忍者、汚いっス!」
「そこは賢いと言ってくれたまえ!」
「真ん中とってズル賢いっス!」
ま、それもホメ言葉だな!
さて、後は持ち帰る品物を整理しよう。
【忍具収納】と【魔石収納】の容量を最大限に使って、戦利品をうまく持ち帰るぞ!
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