VSボス戦! 釣って叩いて貫いて!
ブロックを突き破り、巨大ミミズが分身を飲み込んでいく。
「釣れたぞ!
撃て!」
上から狙いやすいように分身を消す。
それに応えるように頭上から魔法と銃弾が降り注ぐ。
「ファイアランス!」
「ピアスショット!」
炎の槍がミミズを燃え上がらせ、弾丸が突き刺さる。
俺は声を張り上げる。
「宝石商さんもだ!
杭を使え!」
「は、はひっ!」
間の抜けた声を上げ、宝石商が答える。
だが杭は降ってこない。
収納から取り出すには準備時間がいる。
戦闘中の三秒は……長い!
ミミズの体をあぶっていた炎が消える。
炎が消えたのは、ヒットポイントの作用だろう。
ミミズは床に落ちた蛍石とクナイスコップを口に入れる。
やはり、狙いは石だったか!
用が済んだとばかりに、ミミズは穴に戻ろうとしている。
「杭、落とします……!」
頭上から風を裂くような落下音。
大質量の杭がミミズめがけて落下する。
だが、一足早くミミズは頭を引っ込める。
杭が地面を穿ち、ブロックを破壊して止まる。
「あー、外れっス!」
「す、すみません……」
消え入るような宝石商の声。
俺は準備しておいた術を発動する。
「逃がすか!
――【水噴射】!」
手からほとばしった水流が、穴の奥へ流れ込む。
「ググ……!」
体をのたうたせながら、ミミズが穴へ逃げ込んでいく。
俺はかまわず穴へ水を注ぎこむ。
水流が砂ブロックを削って穴を広げ、塵に変えていく。
ミミズは奥へ逃げこんだようだ。
「よし、追撃は入ったぞ!」
「ちゃんとお水も効いたみたいですね!」
「このまま穴を水浸しにして溺れさせるのはどうっスか?」
「水噴射の水は消えるから無理だ。
近くに川があれば【操水】で注ぎ込めるんだけどな」
【水噴射】で出した水はすぐに消えてしまう。
【水生成】で大量の水を作るのは魔力の面で難しい。
トウコが残念そうに舌を出す。
「ちぇー。
都合よく川なんてないっスよねー」
下へ掘り進むダンジョンだから、地表から大量の水を注ぎこめば簡単に攻略できそうだ。
だけど、そういうズルはできない。
宝石商が震える声で言う。
「す、すみません。
外してしまいました……」
「別に謝らなくていいぞ。
次はよく狙ってくれ。
いつでも杭を出せるように、先に集中して維持しておくといい」
「は、はい!
そうします……」
事前に集中を終えておけば、すぐに取り出せる。
宝石商はこういう使い方には慣れていないようだ。
これで次はもっと早く落石攻撃が出せるだろう。
「それに、さっきの杭も無駄にはならないようだぞ!」
「えっ?」
俺は足元を指さす。
地響きが、先ほど落とした杭に向かって動いている。
ミミズが大好物の岩へ向かって進んでいるのだ!
「杭を食べに来たみたいですねー!」
「てことは、狙い放題っスね!」
揺れが伝わってくる方向を見極める。
……来る!
巨大な石の杭が、グラグラと揺れる。
砂ブロックが爆ぜるように砕ける。
ミミズが大口を開け、杭を丸のみにしながら現れた!
「来たぞ!
ミミズが杭に食いついた!」
杭を飲み込み、ミミズが頭をひっこめようとする。
だが、その動きは遅い。
大きく重たい杭が動きを鈍らせているのだ!
リンとトウコはその隙を見逃さなかった。
「ファイアラァーンス!」
「チャージショットーっ!」
頭上から光と熱が走る。
岩のようなミミズの頭部に光の尾を引いた弾丸がさく裂する。
最大まで魔力をチャージした弾丸は十分な威力を発揮した。
岩を砕き、粘液のような体液をまき散らす!
そこへ極太の炎の槍が着弾し、傷口を焼く。
延焼した炎がミミズを包む。
たまらず、ミミズがうねうねとのたうつ。
「効いてるぞ!
宝石商さん、今だ!」
「お、落とします!」
宝石商のかけ声とともに、岩の杭が現れる。
今度は早い!
頭上から大質量の岩塊が落下してくる!
黒曜石の鋭い先端が、矢じりのように空を裂く。
これが当たれば……!
「ググ……ググ!」
岩がこすれるような音を立て、ミミズが動く。
土中へ逃げ帰ろうとしているのだ!
まずい、逃げられる!
俺はとっさに刀を投擲する。
刀が岩状の表皮を叩く。
だが大した打撃にならずに弾き返される。
硬いミミズに投擲が効かないことはわかっていた。
これは無駄な行動か?
違う!
投擲に威力は期待していない。
これは注意を引くための一撃だ!
俺は声を張り、大音声で叫ぶ!
「――動くなっ!」
「グ……!」
【金縛りの術】が発動する。
ミミズ相手に効くかは賭けだった。
だが成立した!
巨大ミミズの動きが止まる。
ほんのわずかな時間にすぎない。
しかしこれで十分!
動きを封じられたミミズの、首元にある帯状の節――環帯へ、黒曜石の杭が撃ち込まれる!
見事に命中した!
「ググッ……!」
鋭い黒曜石が大ミミズの環帯を貫き、床に縫いとめる。
大量の体液が噴出し、ミミズが激しく体を痙攣させる。
頭上からトウコの声がする。
「うぇーっ!
きも液ドバドバっス!」
ミミズは周囲の砂ブロックを破壊しながら、びくびくとのたうっている。
貫かれた環帯は生殖機能を持つらしい。
ちょっと近寄りたくない状況だな!
さて、このまま放っておいても倒せそうな気がするが……。
逃げられたら面倒だ。
俺は術を集中し、手を腰元に構える。
「んじゃ、ダメ押しいくぞ!
水噴射!」
「ピアスショット!」
「ファイアボール!」
容赦のない追撃を受け、ミミズが塵に変わる。
宝石商がぼうぜんとした声を上げる。
「あ、あれ……倒したんですか?
ずっと悩まされていた大ミミズを……?」
へたり込み、こちらを見ている宝石商へ笑いかける。
「そうだよ、宝石商さん!
杭の一撃、見事だったな!」
トウコが親指を立てる。
「ナイス連携っス!」
リンがほほ笑む。
「金縛りの術、いいタイミングでしたねー!」
リンとトウコ、宝石商もボスエリアへ降りてきて、喜びを分かち合う。
変わったボスだったが、なんとか倒せたな!
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