VSボス戦! バイトアンドアウェイ戦法!?
「来ないな……?」
「逃げたんじゃないっスか?」
「でも、ボスさんが逃げたりするんでしょうかー?」
俺たちの疑問に、宝石商がつぶやくように答える。
「に、逃げないと思います……ハイ」
「だよな?
まだこのエリアにいることは確かだろう。
なんとかしておびき寄せて倒すぞ!」
「どうやっておびき寄せればいいんでしょうか?
せっかくゼンジさんが危険なところに降りたのに……」
「人間と分身を区別しているわけじゃないようだな。
となると、襲ってくる条件は……」
トウコが勢い込んで言う。
「そりゃ、音っスよ!
足音を立てると、足元からズゴーっとくるんス!」
「俺も音か振動だと思ってた。
なら……分身、歩き回れ!」
俺は【隠術】を強めて気配を消す。
そして分身を操作する。
あえて足音を立てるように。
振動がブロックに伝わるように。
ブロックを踏みしめて分身が歩き回る。
穴の底をうろうろさせてみるが……。
「ミミズさんの反応、ありませんねー?」
「釣れないっスねー。
釣りのエサのくせに、なまいきっス!」
釣りエサにはミミズも使われる。
そのミミズを体を張って釣ろうとしているんだから、不思議なものだ。
「となると、音や振動を探知しているわけじゃないのか」
ふーむ。
こういうモンスターのセオリーから外れるな。
「じゃあ匂いっスかね?」
「ゼンジさんなら大丈夫そうですね!」
何が大丈夫なんだよ……。
俺は別に臭くないぞ。
釣れるのは匂いフェチのリンくらいだ。
宝石商がやや気まずそうに言う。
「お、おかしいですね」
「別に宝石商さんの話は疑ってないぞ」
「はい……。
いつもは、もっとしつこく襲ってくるんですが……」
「いつもはしつこい……?」
俺はその言葉の意味を考える。
いつもは宝石商一人だ。
この場合、ミミズは姿を消すことなく襲ってくる。
今日は人数が多いから、ミミズを警戒させたか?
虫型モンスターに、そんな知能があるだろうか。
底へ降りたあと、俺は襲われた。
あの時、襲われる条件を満たしたのだ。
俺の足元から現れたのだから、偶然ということはない。
奴は何かの条件で、こちらの位置を把握している。
いや、位置は把握していても攻撃してこないだけか……?
今のところ、三体の分身のうち、一体だけが襲われた。
残りの分身は襲われていない。
分身には興味がない?
なら、一体はたまたま襲われたのか?
いや、俺の近くにいたからだ。
分身なら攻撃されないってわけじゃない。
「人間か、そうじゃないかの違いか……?
魔力の違いかな?」
リンが首をかしげる。
「うーん。
分身さんにも魔力の反応はあるんです。
普通の人間とは見え方が違いますけど……」
「ふむ」
【魔力知覚】で分身も見える。
俺はいま隠密状態だから、魔力知覚でも見えにくくなっているはずだ。
【隠密】の【隠形】をかけると、体から漏れ出る魔力が減るようだ。
持っている蛍石の発光も弱まっている。
分身からも魔力は漏れ出ているはずだ。
蛍石を投げ、分身にキャッチさせる。
光が強まった。
「へえ、分身の魔力でも石は光るんだな。
となると、ミミズは魔力を探知しているわけじゃないのか?」
「生餌作戦、失敗っスかねー?
ミミズには、店長より宝石商のほうが美味しそうに見えるんスね!」
「トウコちゃん……ゼンジさんも美味しそうだよ!」
フォローになってないぞ、リン!
「美味しくないって!
いや、待てよ……。
そういうことか……!?」
ズレたフォローにツッコみながら、ふと脳裏に何かがちらつく。
何か思いつけそうだ。
宝石商はここを通るたび、ミミズにしつこく襲われている。
しかし俺や分身にはあまり興味を示さない。
この違いは……。
「ゼンジさん、何かわかったんですか!?」
「どういうことっスか!?」
分身を操作して蛍石を床に押し付ける。
「俺と宝石商の違いは……石だ!」
さっき俺が襲われたのは、宝石商が投げた蛍石を拾い上げた後だった。
予想が当たっていればこれで反応があるはずだ。
お?
反応あり!
砂ブロックがぐらぐらと揺れ、地響きが聞こえる!
来た!
巨大ミミズが床を突き破り、分身に食らいついたぞ!
釣れたぜ!