ダイレクト岩石アタック!
「い、岩ですか!?」
「収納アタックっスね!」
宝石商が手のひらを下に向けると、大きな岩が出現した。
岩は重力に従って落下していく。
その真下にはサンドリーチ。
哀れなヒル型モンスターは悲鳴を上げる間もなく押しつぶされた。
そのまま岩は、落下の衝撃でブロックを破壊して、その下で止まる。
俺は感嘆の声をあげた。
「これは……!」
「ま、真下に来てくれればこうやって倒せるんですが……。
横の敵には使えなくて……ハイ」
「いや、これはかなり強いぞ!
アイテムボックス無双の基本、大質量攻撃じゃないか!」
「重いものを落とす、敵は死ぬっス!」
収納スキルばかり取っているとは聞いたが……。
こういう使い方をするのか。
俺も槍で突進する敵を迎え撃ったりしたことはあるが……。
ここまでの質量攻撃はできない。
俺の【忍具収納】では容量が足りないのだ。
それを、収納に特化したスキルビルドで成立させているのか……!?
「どうやって、そんな重い物を入れているんだ!?
収納スキルを最大まで育てて、スキル調整しているのか!?」
身を乗り出して詰めよる俺に、宝石商が後ずさる。
「えっ……!?
え、ええと、ハイ。
そうです……けど」
何とかうなずいた宝石商だが、ちょっと涙目になっている。
いかんいかん。
俺は身を引き、頭を下げる。
「ああ、すまん。
ちょっと興奮しすぎた。
俺も収納スキルを使っているから、気になったんだ」
【忍具収納】をもっと育てれば、似たことができるだろうか。
宝石商が落とした大石はかなりの重さになるはずだ。
五十キロか百キロか……。
忍具と石では、重さの制限が違うのかな?
質問責めにしたい気持ちはあるが、今は自重しておこう。
「こうやって石を落とせば、敵を倒すのは簡単だろ?」
俺の言葉にリンがうなずく。
「私もそう思いました。
これなら間引きもできそうですよね?」
宝石商が残念そうな表情を浮かべる。
「一匹ならそうなんですが……。
収納するには触れていないといけないので、その間に……」
そう言いながら、宝石商は足元の穴を見下ろした。
落とした岩は穴の底に落ちている。
横穴から芋虫が、こちらを待ち構えるように顔をのぞかせている。
芋虫は前に進み、段差を降り始めた。
そして、宝石商が落とした岩に近づくと――
そこに張り付いた。
「何をしているんでしょうか?」
リンが不思議そうに尋ね、宝石商が答える。
「石をかじっているんです……。
こうなると、回収できなくて……」
「ふむ。
敵がとりついた石は収納できないってことか」
これは【忍具収納】では試したことがない。
刀を相手につかまれた状態では収納できないのかもしれないな。
使う機会がなさそうだが、知っておきたい。
後で試すとしよう。
「岩を二つ使えばいいんじゃないか?」
「そうなんですが、収納の容量がさすがに……。
他にもっとしまっておきたいものがありまして……ハイ」
「無限ポケットじゃないんスね!」
「そ、そうだったらいいんですが……」
「とはいえ、かなりの容量だな。
攻撃スキルが取れないというのもうなずける」
コンクリートの材料がさらっと出てくるくらいだ。
いろんな種類の石を持ち歩いているんだろう。
かさばってしょうがないが、収納スキルなら可能だ。
代償として、偏ったスキルビルドになっている。
石特化ビルドとか、尖りすぎだろ!
「二つ作ってから、それを置いたり出し入れしたら二つの石を使えますよね?」
「あ……そうですね!
やってみます。
ありがとうございます、嫉妬の人!」
嫉妬の人て。
さてはリンの名前を覚えてないな。
宝石商は次々に収納から石を取り出していく。
今日拾った普通の石だろう。
どんどん出てくるなあ……。
その石を加工して一つの大きな石を作っていく。
先ほどの石ほどではないが、大きな石ができあがった。
「これを収納して……」
宝石商は床に置いた石を収納して立ち上がる。
そして手を下に向け、石をかじる虫に狙いを定める。
「取り出して……えいっ!」
石に張り付いていた虫が押しつぶされ、塵に変わる。
「いいぞ!
こうやって交互に岩を落とせば、近づかなくても攻撃できるぞ!」
しかもアイテムを消費せずに済む。
落とした岩は回収してまた落とせばいい。
「おーっ!
ぺちゃんこっスね!
これは高得点が狙えそうっス!」
「とくてん?」
リンが首をかしげる。
「岩で敵を倒すと高得点になるゲームがあるんだ」
「そうなんですねー」
もちろんこのダンジョンにそういう仕様はないはずだ。
もらえる経験値が増えたり……しないよな?
宝石商が感激したような、不思議そうな顔で言う。
「こうすれば、自分でも虫を減らせますね。
どうして気づかなかったんだろう……!
あ、ありがとうございます!」
なぜかトウコがふんぞり返り、ドヤ顔で言う。
「いいってことっス!」
リンは謙虚に言う。
「いえいえー。
私もいろいろと教えていただいていますのでー」
「俺もいろいろ参考になったよ。
宝石商さんも一人で煮詰まったら、人に相談してみるといいぞ。
こうやって、案外簡単にアイデアは出てくるもんだ」
手元ばかり見ていては、視野が狭くなる。
俺だってそうだ。
このダンジョンや宝石商と関ったことで、いろいろと学べたしね!