サイコロ石は立体パズルで!?
宝石商はボスを倒したことがないと言う。
しかしボスから引き返さずに逃げきることがある。
一見矛盾する話だが……。
「つまり宝石商さんは、ダンジョンの奥に向かって逃げたということか?」
「は、はい。
さらに十メートルほど掘ると、その下にも硬い地層があって……。
でも、掘れば進めるんです!」
「なるほどな。
ボス部屋の下へ逃げるわけか」
「そうです、ハイ」
ボスがいる階層は上下を硬い地層に挟まれている。
下の地層を掘れば、ボスから逃れられるわけか。
必ずしも倒す必要がない、ということだ。
「しかし、なんでまた、そんなことをするんだ?」
聞かなくても答えはわかっているが、一応聞いておく。
「お宝っスね!」
「そ、そうなんです。
深く潜ると変わった石が手に入るので……ハイ」
やや興奮気味に語る宝石商。
命がけでボス部屋を抜けてまで取る価値があるんだろうか。
あるんだろうな。
少なくとも宝石商にとっては、その価値がある。
趣味とはそういうものだ。
俺だって趣味で危険なダンジョンに挑んでいる身だし、わからんこともない。
「さっき、このダンジョンの石は面白みがないと言っていなかったか?」
「それは、同じ種類の石ばかり見ても飽きると言うことでして。
深いところの石はまだまだ、新鮮なんです!」
ふーむ。
浅い層の石はどれも同じような見た目で、いわば金太郎飴のようなもの。
細長い飴で、どこを切っても金太郎の絵柄が出てくる。
でも、それが桃太郎飴だったらまた、違う楽しみがある。
……みたいな感じかな?
たとえて考えてみたが……ふむ。
正直よくわからない。
「同じ種類の石って、石は石っスよね?
どう違うんスか?」
「例えば、この石はここと、ここの模様が一緒ですよね?」
宝石商がドロップアイテムの石を、砂ブロックの上に並べていく。
ふむ……。
岩には微妙な凹凸や縞模様がある。
「似てるとは思うが……。
リン、わかるか?」
「ここの縞模様と、こっちの部分は続いているように見えますが。
でも、ぴったり同じかというとわかりませんねー」
「それは、石には厚みがあって、丸みがあるからで……。
あ、では四角くすればわかっていただけると思います!
――【石加工】!」
宝石商が石に手をかざす。
石が光を帯び、形を変えていく。
大きめのサイコロのような、四角い形だ。
「ふむ……?
大きめのサイコロみたいだが……これで何が分かるんだ?」
「ふ、二つ目を作ります。
模様がぴったり合うように加工して……できました!」
二つ目のサイコロ石が完成した。
二つの正方形の石を並べると……。
「おお、こういうことか!」
「わあ、縞模様がぴったり同じです!」
「パズルみたいっス!」
宝石商が収納から次々に石を取り出す。
どれだけしまい込んでいるんだ?
要らないと言っていた普通の石じゃないか。
宝石商は石を手に取り、真剣な眼差しで模様に目を走らせる。
「これはこっちで、これは下……」
ほとんど迷いなく、石をより分けていく。
より分けながら石を四角く加工して、完成したサイコロを組み替えていく。
すごい手際だ。
「どんどんパズルが組み上がっていくな……」
「見ただけで、よくわかりますねー?」
「私、石の模様を見ると、その歴史がわかるんです。
でもホントの石とは違うので、物語も単調でして。
くり返し読んだ本みたいに、内容を覚えているので……」
たしかに、何度も同じ本を読めば飽きる。
五個ほどのサイコロができあがった。
模様は連続していて、一つの石を違う形にしているだけみたいだ。
壁紙の模様のように、よく見れば同じ図案の連続というわけだ。
とはいえ、言われなければ気づかないだろう。
わざわざ削って並べて初めて理解できることだ。
宝石商はさらに作業を続けようとしている。
「もう十分だ。
よくわかったよ、宝石商さん。
たしかに模様が繋がっているし、同じ石が違う形になっているだけなんだな」
「もっと大きくて、繋げるとよくわかるんですが……」
名残惜しそうに言う宝石商。
俺は首を横に振りながら言う。
「いや、ありがとう。
全部は見せてもらわなくても大丈夫だ」
トウコが大きくうなずく。
「そーっスよ!
こんなとこで積み木遊びしてる場合じゃないっス!
さっさとボスをやっつけたいっス!」
「トウコちゃん……言い方、ね!」
「そ、そうですね。
帰ったら見ていただくとして……。
深い場所の石も配列はこのように連続しているのですが……。
それはまだ集めきっていないので……」
「それが欲しいからボスから逃げてまで下へ潜っているんだな?」
「は、はい」
「パズルのピース集めっスね!
全部集めると何かあるんスか?」
願いが叶ったりするのか?
「とくには……。
でも、気になりませんか?」
「ならないっス!」
即答すな!
「ともかく、今日はボスがいる深さまで行ってみよう!」
「はーい!」
「ボス退治っスね!」
「倒すかどうかは、ボスを見てから決める。
宝石商さん、それでいいかな?」
「は、はい。
よろしくお願いします!」
宝石商が深く頭を下げる。
勝てそうならそのまま倒せばいい。
難しそうなら準備を整えて再戦する。
無理することはない。
きちんと準備をすれば勝てるはずだ!
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