掘って掘って掘りまくれ!
ダンジョン攻略は順調に進んでいる。
……はずだ。
リンが螺旋階段を見上げながら言う。
「もうずいぶん降りてきましたね、ゼンジさん。
三十メートルは降りてきたでしょうか?」
「そうだな。
区切りがないから、進んでいるのかわからないんだよな」
俺のダンジョンは階段で階層が分かれている。
リンのダンジョンにはエリアの区切りがある。
「そうですねー。
どのくらい進めばいいんでしょうか?」
今はひたすらブロックを崩して降りている。
距離的には進んでいるが……。
トウコが横穴へ銃撃しながら言う。
「うらうらっ!
モンスターはたくさん倒してるっスよ!」
横穴のモンスターは全滅だ。
ほぼ直線だから、トウコは戦いやすいようだ。
「間引きはかなり進んだな。
しかし手ごたえがなくて、ちょっとつまらんな」
「ふふっ。
ゼンジさんには物足りないかもしれませんねー」
近づかれる前にリンとトウコだけで簡単に倒せる。
もちろん俺も水忍法や投擲で攻撃に参加している。
遠距離攻撃ばかりだと戦っている感じがしない。
簡単すぎて張り合いがないんだよね。
ある程度の手ごたえがあったほうが、攻略の楽しみがあると言うか……。
ま、ぜいたくな悩みだ。
安全に進めているんだから文句はない。
「宝石商さん。
この先はどうなっている?
あとどれくらい掘ればいい?」
「ええとですね……。
あと十ブロックほど降りると硬い地層が出てきます。
その先は危険なので……」
「そこにボスがいるんスか!?」
「宝石商さん。
そこにはどんな危険があるんだ?」
宝石商が青い顔で言う。
「お、大きなモンスターです。
ミミズのような姿で、ブロックを突き破って襲ってきます。
石を食べながら……」
トウコが歯を見せて笑う。
「へへ、ミミズくらい楽勝っスよ!」
「大型のモンスターなら油断できないぞ」
「きっと、ボスさんですよねー?」
宝石商がうなずく。
「そ、そうだと思います。
すごく強いので、私はいつも逃げているんです」
「つまり、宝石商さんはそのモンスターを倒したことがないのか。
それはマズいぞ……」
宝石商はかなり前からダンジョンを持っているはずだ。
つまり、放置している期間が長い!
「ま、間引きのことですか?
地表付近の虫なら、少しずつ倒していて。
その、最近は増えすぎてしまって難しいんですが……」
俺はかぶりを振る。
「いや、違うんだ、宝石商さん。
間引きで悪性化は遅らせられるかもしれない。
でも、ボスがずっと生きているとすれば……」
嫌な想像が頭をよぎる。
もしそのボスが【捕食】能力を持っていたら……。
リンが心配そうに言う。
「私のダンジョンのワニさんみたいに成長しているかもしれません!」
「わ、ワニ……?」
不思議そうに聞き返す宝石商。
トウコが両手を目いっぱいに広げ、答える。
「巨大ワニっス!
他のモンスターを食べて、どんどんデカくなったんスよ!
怪獣みたいにデカかったっス!」
「か、怪獣?」
「成長するモンスターもいるんだ。
ここのモンスターは共食いしたり、別種類のモンスターを襲ったりしていないか?」
宝石商が首を横に振る。
「い、いいえ……。
モンスター同士で争うのは見たことがありません……ハイ」
「それなら、安心かもしれませんねー」
「捕食パワーアップはなさそうっスね!」
「ふむ……。
宝石商さんはいつも戦わず逃げているんだよな。
ということは、ボスの手前で引き返しているのか?」
「い、いえ。
たまにはうまくいくこともあるので……」
「ん?
宝石商さんはボスを倒したことがないんじゃなかったか?」
「そ、そうです。
でも、逃げるだけならできるので……ハイ」
トウコが訝しむような表情を浮かべる。
「逃げるのに引き返さないって、なぞなぞっスか?」
たしかに、なぞなぞみたいだな。
ボスを倒さず、逃げるのに引き返さない。
とすると……?
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