合作! ウエハース岩のヘルメット!
俺はトウコの冗談を無視して宝石商へ訊ねる。
「この石じゃ、ヘルメットには向かないな。
ある程度の硬さは必要だ。」
「そ、そうですね。
でも表面を加工すれば硬くできます……ハイ」
「硬くする?」
宝石商は手から次々と石を出す。
「石灰石、粘土、酸化鉄です。
ここからセメントを作れば……。
さらにセメントをコンクリートに加工して……。
軽石と砂を骨材にすれば……あ」
コンクリートを作ると言ってるようだ。
しかし、宝石商はなにかに思い当たったように言葉を止めてしまった。
何かが足りないことに気づいたのか?
足りないもの……。
おそらく石の類ではない。
セメントやコンクリを作るには……。
わかったぞ!
「宝石商さん。水だろ?
水があればいいんじゃないか?」
「あ、はい。
上に登って汲んでくれば……」
と、頭上を見上げる宝石商。
かなり掘ってきたので、水を運ぶのは面倒だ。
まあ、その必要はない。
そう、忍法ならね!
「大丈夫だ。俺が用意できるぞ!」
俺が【水生成】で水を出すと、宝石商が感謝の声をあげる。
「あ、ありがとうございます!
ではこれを使って【石加工】を……」
石がぼんやりと光を放つ。
この過程は俺の【忍具作成】と似ている。
光が一つにまとまり、強く輝く。
「できました!」
「おお、表面は硬くて、内側が柔らかい石材か!」
できあがったのは、素材だ。
表面はなめらかなコンクリート。
裏面は軽石。
まるで地層のように、異なる材質が折り重なっている。
「わあ、不思議な石ですねー」
「ウエハースみたいっス!」
宝石商がトウコから石材を守るように抱きかかえる。
「た、食べられませんよ」
「食べたりしないっスよー。
あたしをなんだと思ってるんスか!」
「妖怪石食い娘だろ」
「食べるのは魔石だけっス!」
「正体を現したな!
妖怪、魔石食い娘!」
宝石商が俺たちのやり取りを聞いて、妙な目でトウコを見る。
虫を見る目に似ている。
おっと、ふざけすぎたか。
あまり刺激しないほうがいいだろう。
「その石、ヘルメットの素材にしていいんだよな?」
「は、はい。
使ってください」
ずいっと、石を俺の前に押し出す宝石商。
さっそく、その石材を手に取ってみる。
見た目に反してずいぶんと軽い。
これは使えそうだ!
「素材があれば、後の工程はずっと楽になる!
じゃあこれを使ってヘルメットを作るぞ。
――忍具作成!」
工事現場で使うヘルメットをイメージする。
構造は安全ヘルメットを踏襲すればいい。
殻のように硬い表面には通常、樹脂などを使う。
今回は薄いコンクリートだ。
内側の柔らかい素材で衝撃を吸収する。
今回は発泡スチロールのかわりに軽石を使う。
さらに衝撃を逃がすためにスキマを開けたいが……。
頭とヘルメットが接触しないようにする素材はどうしようか。
さすがに石じゃムリだな。
素材の準備はしてこなかったので、なにを使おうか。
材料になるものは、身にまとっているものくらいだ。
となると布だ。
これは俺の上着の一部を使うとしよう。
主な素材は宝石商が作ったウエハース石材。
コストはクロウラーの魔石で支払う。
【忍具作成】にイメージを伝える。
ヘルメットは忍具である。
間違いない!
異議もない!
素材が輝き、一つにまとまっていく。
完成だ!
あとはこれを人数分作って、と。
「できたぞ、軽石のヘルメットだ!
内側は布で覆って肌触りをよくしておいた」
そのために上着の裾が短くなってしまったけどね!
まあ、帰ったら直せばいい。
見ようによってはファッショナブルかもしれないし。
リンとトウコがヘルメットをかぶる。
「ふふ、これで安心ですねー!」
「工事現場みたいっス!」
宝石商にもヘルメットを手渡す。
「ほら、宝石商さんも」
「わ、私の分もあるんですか?」
「あるに決まってるだろ。
これは宝石商さんと俺の合作だぞ!」
「あ、ありがとうございます!」
宝石商はヘルメットの感触を確かめるように撫でている。
石の滑らかな手触りのおかげか、気に入ってくれたようだ。
彼女は小さく笑って嬉しそうにヘルメットをかぶる。
これで落下物対策ができた。
「よし、採掘再開だ!」
「んじゃ撃ちまくるっス!」
トウコが吹き抜けの上部を拡張していく。
これで吹き抜けの上部はもうすぐ完成するだろう。
あとは下へ下へと掘り進むだけだ!
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