荒野ダンジョンは穴掘りで! その2
荒野の穴掘りダンジョンの地下では、モンスターが増殖している。
もはや手の付けられない状態。
悪性化する寸前といったところだ。
対処しなければ宝石商は詰む。
トレードより、こっちを先に相談するべきだろう。
悪性化すると、周囲にも影響が及ぶ。
放置はできない。
もう少し情報を聞き出そう。
「ちなみに宝石商さんはどのくらいまで潜ったことがあるんだ?」
「ええと……。
ちゃんと数えてはいませんが、かなり深くまでいきました。
硬くて掘れなくなって……」
「ん?
モンスターを倒せないんだよな。
どうやって進んだんだ?」
「石を使えば、なんとか……。
でも、もったいなくて、ですね」
「ああ、魔石の力を使うんだったな」
「手に入る数より、減るほうが多くて……ハイ」
消費アイテムで戦う宝石商は、長期戦に向かない。
コスパが悪いのだ。
「手札が尽きたわけか。
そうなったら、引き上げるしかないな」
「それが……戻れなくて。
夢中で掘っていたら、登れなくなっていまして」
宝石商がガックリとうなずく。
リンが首をかしげる。
「あの、ちょっと待ってください。
登れなかったということは……」
「やられてしまいました。
持ちきれなかった石は、そのまま拾えずに……。
ああ、きれいな石があったのに……」
「ふむ。
やられたというと、死んだのか?」
「てことは!
ここは復活アリなんスね!」
「おっ?
そうなんですか、宝石商さん?」
「ハイ。そういうことになるかと……。
机のあたりで目が覚めて、持ち物はなくなってしまいます」
「あそこが復活ポイントか」
「持ち物がなくなるのはあたしのダンジョンと同じっスね」
「トウコちゃんの所は、ダンジョンの外で復活するんだよねー」
似たルールだが、少し違う。
ダンジョンごとに個性がある。
ここは死んでも戻れるタイプらしい。
本当なら、少し安心できる。
だからといって気は抜けない。
もしこれがフェイク情報だったらどうする?
死んだらそれきりだったら、目も当てられない。
まあ、疑ったらキリがない。
立場上、疑ってはいるだけで、なにも彼女を嫌っているわけじゃあない。
やれやれ……。
人を疑うのは疲れるな。
だが、リンやトウコを危険にさらせない。
これは自衛のために必要なんだ。
ここは相手のホームグラウンド。
敵地ではないにしろ、俺たちには未知の場所だ。
慎重にならざるを得ない。
でもまあ、死ななければいい。
いつも通り、安全第一!
命は一つしかない前提は崩さず、油断なく挑むぞ!
「よし、決めたぞ。
もし、宝石商さんがよければ、俺たちがこのダンジョンの間引きを手伝おう。
どうだ?」
俯いていた宝石商が、ぱっと顔を上げる。
「い、いいんですか!?」
宝石商は信じられない、といった表情で固まる。
俺は笑う。
「いいんだよ!
俺は宝石商さんがダンジョンに呑まれるところを見たくない。
それを防ぎたいだけだ!」
これは本音だ。
疑うよりも、助け合いたい。
そのほうが気分がいいからな!
リンはうっとりと上気した顔で、胸の前で手のひらを合わせる。
「さすが、ゼンジさんは優しいですね!」
トウコが楽し気に笑う。
「それに穴を掘るの楽しそうっス!」
ダンジョン攻略は義務や義理だけではやっていられない。
楽しそうだからやる、という気持ちも少なからずある。
さて、虫だらけの穴掘りダンジョン、突破してやるぜ!