風吹く荒野と作業机!?
宝石商の自宅へやってきた。
普通のマンションの一室である。
彼女はいそいそと俺たちを招き入れる。
大丈夫かな、この人。
知らない人を家に入れるまでが早すぎる。
詐欺にでも引っかかりそうで、心配になってしまう。
「ここです!
は、早く石を見せてください!」
両開きの戸棚を開け、転送門に飛び込んでいく宝石商さん。
部屋に残された俺は少しあきれる。
「警戒心ゼロか……。
大丈夫かな、彼女」
「私たちをだますつもりはないみたい……ですよね?」
「罠だったら、倒しちゃえばいいんスよ!」
倒すって言ってもなぁ。
まあ、そういう雰囲気はないし問題ないと思うが……。
戸棚の中で、転送門が渦巻いている。
俺たちのダンジョンと見た目は変わらない。
「ま、入ってみるか。
一応、気は抜くなよ?」
「はい!
なにかあったら、私がゼンジさんをお守りますね!」
小さなガッツポーツでほほ笑むリン。
「おう、頼もしいな。
本当なら俺が守ってやると恰好つけたいところだけど」
トウコが銃を創り出し、くるくるとガンスピンさせる。
「もし罠だったら、あたしが速攻で撃ち抜くっス!」
「いや、射殺するのはちょっと待て」
「なら膝にしとくっス!」
「まあ、それならいいか」
「いいんでしょうかー」
「よくないな。
まあ、状況次第だ。
相手がその気なら、戦うしかない」
「もちろんっス!」
ま、どうせ杞憂だろう。
大切なのは、心を決めておくこと。
備えておくことだ。
「じゃ、入るぞ」
「はい」
「りょっ」
俺が差し出した手をリンとトウコが掴む。
リンが転送門に触れ、俺たちは同時にダンジョンへ転移した。
意識が暗転する。
胃がすとんと落ちるような、上下が反転するような感覚。
転送門を通るときは、いつも不思議な気持ちになる。
「……む。
ずいぶん眩しいな」
室内から明るい場所に出ると、少し目がくらむ。
トウコが銃を下に向けて構え、きょろきょろと左右を見回す。
「外みたいっスね」
「少し、私のダンジョンに似ていますねー」
「そうだな。
屋外型のダンジョンか」
薄曇りだが、太陽は出ている。
砂煙が立ち上って不鮮明ではあるが、地平線までよく見える。
遮るものが何もない平地。
砂漠……いや、荒野か?
建物や、山林などは見当たらない。
埃っぽい風が流れる。
リンが長い髪を手で押さえ、目を細める。
トウコの短いスカートがはためく。
俺は手でひさしを作って周囲を見回す。
「ふーん。
鉱山みたいなダンジョンだと思ってたんだが、ぜんぜん違ったな」
「私もそう思っていましたー」
「山なんて一つもないっスね」
「あそこに宝石商がいるな。
行ってみよう!」
転送門から少し離れた場所で宝石商が作業をしていた。
作業机が置かれ、パーテーションで三方向を囲ったスペースがある。
荒野のど真ん中に机があるのか。
かなり異質な印象を受ける。
宝石商は引き出しからガラスケースを取り出し、机に並べている。
彼女は作業を止め、こちらに気づく。
「あ……こ、こちらへ」
リンがぺこりと頭を下げる。
トウコと俺も続く。
「おじゃましまーす」
「ちーっす」
「ここが宝石商さんのダンジョンか。
ずいぶん風が強いんだな」
「そ、そうなんです。
すぐコレクションが砂まみれになってしまって……」
イスと机は部屋から運び込んだものだろう。
オフィスを仕切るようなパーテーションで囲ってはあるが、建付けは甘い。
風が吹くたびにガタガタと揺れていて不安定だ。
日差しも強く、乾燥した風が吹いている。
机の上にも砂が乗っている。
まあ、屋外に室内用の調度品を置いてもこうなるよな。
「この様子じゃ、そうだろうな」
「吹きさらしの中では、お肌が傷みそうですねー」
「ワイルドな拠点っスね!」
「そ、そんなことより!
石です!
持っているんですよねっ!」
興奮して上気した顔を向けてくる宝石商。
目が血走っていて怖いんだが……。
いきなり本題か。
このダンジョンを少し見て回りたいが、それは後にしよう。
トレードを始めるか!




