事情聴取は喫茶店で! その2
「まずは広告屋のことだ。
白銀と会う以前から付き合いがあったのか?」
「はい……少し」
「少しか。
それって、いつからだ?」
「数か月前です。
不思議な看板を見つけて、その……嘘の看板だったんですけど……」
広告屋の能力か。
ホテルで見た、見る相手によって変わる幻だな。
相手が望むことが反映されるらしい。
宝石商は何を見せられたんだろう。
そのとき見せられた幻が、彼女の欲求を示していると言える。
「その看板にはなんて書いてあったんだ?」
「凄く珍しい石があるって……!
嘘、だったんですけど……」
宝石商はやや興奮気味に言ってから、うつむいてしまった。
「で、その看板の示す場所に行ったのか?」
「はい。
そこに広告屋さんがいて……知り合いました」
「知り合った?
嘘をついていたのに、どうして親しくできたんだ?」
「親しくはないです。
ぜんぜん……」
ぶんぶんと首を振る宝石商。
「親しくはない、か。
じゃあ、どういう関係だったんだ?
「い、石を見せてもらったり、預かったり……。
たまに、いただいたり……も?」
ゴウダに魔石を埋め込んだのは宝石商だ。
つまり……。
「石って、魔石のことか?」
「はい」
念を押して聞いてみる。
「ゴウダや白銀に埋め込んだ魔石のことだな?」
「は、はい。
そういうのも……」
「まだ、魔石を預かっているのか?」
「……」
宝石商はうつむき、下唇を強く噛む。
スカートの布を掴んで、震え出した。
「ん、どうしたんスか?」
トウコが何も考えていない様子で聞く。
しかし宝石商は黙ったままだ。
リンは気遣うような顔をしているが、かける言葉が見つからないようだ。
黙られても困る。
俺は慎重に口を開く。
問い詰めているように聞こえないよう、気をつけないとな。
「俺たちは、その石が欲しいわけじゃない。
君からそれを取り上げたりはしないから、教えてくれ。
まだ魔石を預かっているのか?」
「……はい」
「そうか。
答えてくれてありがとう。
その石って、どういうものなんだ?」
その質問に対しては、これまでと反応が違った。
それまでの不安げな様子を消し、陶酔したように顔を上げた。
「綺麗で、特別な石なんです!
いろんな種類があって、それぞれに違っていて……!
ずっと見ていても飽きません!」
「お、おう。
そうなのか。
俺も最近、変わった石を手に入れてな。
魔石じゃなくて熱水晶――」
俺が言い終える前に、宝石商が勢いよく立ち上がる。
くわっと目を見開いて叫ぶ。
「魔石じゃない石ですかっ!?」
宝石商が身を乗り出し、机にぶつかる。
パフェがぐらりと傾く。
俺はとっさに手を伸ばし、パフェのグラスを掴んだ。
セーフ!
「しかも水晶……!?
そ、それっ、見せてもらえませんかっ!」
宝石商がずいっと身を乗り出してくる。
俺は少し戸惑う。
「お、おう?
見せるのはいいけど、今は手元にない。
それに、ダンジョンから持ち出すのは難しいからな」
「で、では……私がそのダンジョンに見に行きます……!」
宝石商が机に乗り上げるようにして、俺に手を伸ばしてくる。
掴みかからんばかりの勢い!
異常な食いつきだ!
リンが宝石商の肩に手を置く。
「宝石商さん、落ち着いてくださいねー!
ちょっと、近いですよ!」
リンはどことなく迫力のある笑顔で、宝石商を押し戻す。
「え、あ、ハイ。
その、すみません」
宝石商がおどおどと、両手の指をもじもじとさせている。
「今、ダンジョンに見に来たいって言ったよな?
つまり、宝石商さんはダンジョン保持者なのか?」
「保持……?
ええと、ハイ。
私はダンジョンを持っています!」
「やっぱ、そーなんスね!」
彼女は異能者ではなくダンジョン保持者だ!